塗装ブースの法規制③ 〜塗装ブースの設置と運用~ 2024年9月13日
事前の準備が大切です。
塗装ブースの基礎知識や関連法規について解説するシリーズも最終回になりました。今回は設置の届出と、設置後の運用に関する法規についてお話しします。
これまでの記事
塗装ブースの基礎① ~塗装ブースはなぜ必要?出来ること・出来ないこととは?~
塗装ブースの基礎② ~湿式ブースと乾式ブースの違い~
塗装ブースの法規制① ~塗装ブースの種類と局所排気装置~
塗装ブースの法規制② ~排気と給気~
塗装ブースの設置届
塗装ブースを設置する際には、事前に届出が必要です。設置工事開始の30日前までに労働基準監督署長に届け出なければなりません。義務付けられているのは「届出」ですが、ちゃんと定められた内容に従って書類や資料を揃えないと受理してもらえません。また、まれにですが追加の資料の提出を要求されることもありますので、余裕をもって準備しましょう。
届出に関する法規
塗装ブースの届出に関する規定は、労働安全衛生法(安衛法)と、労働安全衛生規則(安衛則)で定められています。具体的にどう規定されているかは、少しややこしい話になりますが、大切な事ですのでここでおさらいも兼ねてポイントを押さえておきましょう。
安衛則は有機溶剤中毒予防規則(有機則)や特定化学物質障害予防規則(特化則)と同じく、安衛法を補足する省令(厚生労働省令)です。国会で成立する法律には大まかな事項が定められ、細かい内容は内閣が定める政令や、各大臣が発する省令に規定されています。
図1 安衛法の法体系
安衛法の第88条には、次のような定めがあります。
厚生労働省令で定める機械等を設置・移転し、または主要構造部分を変更しようとするときは、工事開始の30日前までに労働基準監督署長に届け出なければならない。
また、安衛則の第85条には次のような定めがあります。
安衛法の「厚生労働省令で定める機械等」は、他の省令に定めるものの他、別表第7に掲げる機械等とする。
そして、安衛則の最後の方に付いている「別表第7」の中に、他のたくさんの機械の名前に混ざって局所排気装置・プッシュプル型換気装置・全体換気装置の名前があげられています。ここでやっと塗装ブースにたどり着きましたね。ここでは細かい記述を省きましたが、条文を追っていくと、途中にいくつもの但し書き(例外規定など)があり、あちこちの条文に飛んで確認しながら読んでいくことになります。
少し面倒な作業ですが、法令でどのように定められていたか確認するのに一番確実な方法は、自分で条文を読むことです。機会があれば労基法や安衛法関連の条文を読んで、内容に親しんでおくと良いでしょう。
届出に必要な書類
少し条文に慣れてきたでしょうか? 計画の届出に必要な書面については、安衛則の86条に次のような定めがあります。条文を追う作業はこれで終わりにしますのでご安心ください。
様式第二十号による届書に、機械の種類に応じた書面・図面を添えて提出する
塗装ブースの設置届に必要な書類をまとめると、表1の内容になります。
表1 設置届の必要書類
様式20・25・26の書類の書式は厚生労働省サイト内の「労働安全衛生規則関係様式」からダウンロードできます。
「1.建築物機械等設置移転変更届」「10.塗装ブースを設置する施設の地図」「11.塗装ブースを設置する建屋のレイアウト図」は自社の情報を記載する書類ですので、自分で作成します。その他の書類についてはメーカーや専門業者にデータの提供や作成を依頼することができます。
特に「4.圧力損失計算書」は、排気ダクトの設計を踏まえたうえで、局所排気装置またはプッシュプル型換気装置の性能要件を満たしていることを示す計算書を作成しなければなりません。依頼して作ってもらうのが一般的です。
届出にあたって注意すること
届出にあたって注意しなくてはならないことがあります。
① 設置工事開始の1ヶ月前に提出が必要
工事開始の1ヶ月前までに労働基準監督署への届出を行ないます。使用開始の1ヶ月前ではありません。
② 追加の提出書類が必要になることも
表1の書類以外にも、使う溶剤のSDS(安全データシート)などの提出書類の追加を要求されることがあります。
③ 計算の結果、設計変更しなければならないことも
№4の圧力損失の計算の結果、装置の性能が法の基準を満たしていなかった場合は、基準に合致するように設計変更をしなければなりません。圧力損失の計算は早めに依頼すると良いでしょう。
塗装ブースの運用に関する法規
定期自主検査
設置が完了した後には定期的に検査を行ない、塗装ブースが作業者を守るための性能を満たしているか、チェックする必要があります。
有機則の第20条・第20条の2、第21条に局所排気装置とプッシュプル型換気装置の定期自主検査の定めがあります。
・1年以内ごとに1回、定期に自主検査を行なわなければならない
・自主検査の記録を3年間保存しなければならない
塗装ブースの自主点検票(参考)
作業環境測定
また、有機溶剤業務を行なう屋内作業場の環境が作業者の健康を害さないかもチェックしなければなりません。有機則の第28条に、作業環境測定に関する定めがあります。
・6ヶ月以内ごとに1回、定期に有機溶剤の濃度を測定しなければならない
・測定結果は3年間保存しなければならない
設置の計画から運用まで、図2のような流れになります。
図2 設置の届出と運用
外部環境保護のための法規
安衛法関連の法規は作業者の健康を守る目的で定められていました。塗装ブースや塗装作業に関わる法規には、外部環境保護などの目的で定められたものもあります。
外部環境を守る観点からは、主に環境省所管の法規が関係してきます。また、消防法や下水道法など、その他の官庁の管轄法規も関わってきます。それぞれの法規に関する届出先や問い合わせ先は管轄省庁や関連する機関になります。
図3 塗装ブースに関連する法規
法律や各省庁が定める規則の他に、各地方自治体が独自の基準を設けている場合があります。塗装ブースの設置を計画する際には、事前に設置場所の自治体の条例も確認しておきしょう。
大気汚染防止法
排気風量10万㎥/minが大気汚染防止法の規制対象です。
水質汚濁防止法、下水道法
湿式ブースが水質汚濁防止法・下水道法の定める特定施設の「廃ガス洗浄施設」に該当する場合は、設置の60日前までの届出が義務付けられています。下水道の系統によって関わる法規が異なります。
・合流式(汚水と雨水を同じ管で流す場合)→下水道法
・分流式(汚水と雨水を別々の管で流す場合)→水質汚濁防止法、下水道法
騒音規制法
7.5kW以上の送風機(ファン)が騒音規制法の特定施設に該当し、設置の30日前までの届け出が義務付けられています
消防法
直接塗装ブースを規制する法律ではありませんが、塗料や薄め液に使われる有機溶剤が消防法の危険物に該当する場合、取扱量・貯蔵量によって所轄の消防署に届出が必要になります。
廃棄物処理法
乾式ブースのフィルター、湿式ブースで使用した水や塗料スラッジなどを廃棄する場合は、処理方法に関する法令を確認する必要があります。
まとめ
5回にわたって塗装ブースの基礎知識や関連法規についてご説明してきました。塗装ブースは作業者を有機溶剤中毒から守るために必ず設置するものですが、その他にも塗装品質の向上や安定の面で重要な役割を果たしています。
塗装ブースの設置に際しては、作業者の健康を守るために必要な性能を満たすものを選定し、あらかじめ届出の用意をしておく必要があります。また、設置後も定期的な点検やメンテナンス、作業環境のチェックが必要になります。
しっかりと運用すれば塗装ブースは作業者にとって安全な作業環境を作り出すだけでなく、塗装品質の向上にも貢献してくれます。この機会にお使いのブースについて見直してみてはいかがでしょうか。