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塗装作業で必要な安全対策とは?塗装と防爆について解説! 2023年1月13日

塗装現場では常に火災予防を念頭に置く必要があります。

防爆について解説するシリーズの第一回は防爆の基礎知識と防爆構造について、第二回では危険場所の設定や最近の動向についてお話ししました。

最終回の今回は、塗装と防爆についてです。引火性の溶剤や粉体塗料を使う都合上、塗装作業には防爆の配慮が必要になってきます。その他、塗装ブースや塗装ロボットなどの塗装機器・塗装設備の防爆についても解説します。

塗装作業の安全

塗料の組成や有機溶剤の危険性については過去の記事(静電気のはなし③ ~塗装と静電気~)でお話ししました。ここでは、実際に起きた事故の事例(1を見てみましょう。事故の多くは塗装作業場に防爆仕様ではない電気機器を持ち込んだことが原因で起きています。

事故事例①:風通しの悪い塗装作業場に防爆構造ではない送風機を持ち込んで事故が発生したケース

タンクの内部でスプレーガンの吹付け塗装を行なう際に、防爆構造でない送風機を持ち込み、有機溶剤のミストに引火して爆発事故が発生した事例です。

風通しの悪い場所で吹付け作業を行うべきではありませんが、やむを得ず作業する場合は防爆構造の送風機を使用する、静電防止用のアースを取るなどの対策をする必要があります。なお、この事例では送風機のスイッチが改造されており、点火源になった可能性があります。

事故事例②:塗装ブースの中に防爆構造ではない投光器を持ち込んで火災が発生したケース

粉体塗装ラインの塗装ブースの機器入替作業を行う際に、防爆構造ではない投光器を持ち込み、投光器が落下して床に付着していた塗料に引火し、火災が発生した事例です。

粉体塗料を扱う際には除塵などの措置をとる、事例①と同様に電気機器を持ち込む場合は防爆仕様にするなどの対策が必要です。この事例は塗装作業中ではなくメンテナンス作業中に発生したものですが、床や壁に付着した粉体塗料が火災発生の原因になりました。

事故事例③:溶解用タンク内の静電気により引火爆発事故が発生したケース

ワニス(塗料)の製造工程で溶解タンク内に材料を入れて攪拌していたところ、静電気による火花が生じ爆発事故が起きた事例です。

前出の二例と異なり、モーターや換気扇、照明は防爆構造だったものの、タンクそのものに静電気対策が行われておらず、作業者も静電気対策をしていませんでした。防爆と静電気対策は別に考え、それぞれ適切な措置をとる必要があります。

火災の三要素

第一回の記事でお話ししましたが、火災の原因は①点火源・②可燃物・③酸素の3つです。危険場所に持ち込む電子機器を防爆仕様にし、静電気対策を実施するのは点火源が発生するのを防ぐためです。また、作業環境に可燃性の液体や可燃性の液体がしみ込んだウエス、塗料汚れなどの可燃物を放置していると危険です。チェックを怠らないようにしましょう。

塗装ブースの防爆

塗装作業場では屋外への排気のために塗装ブースが設置されています。塗装は引火性の高い有機溶剤と樹脂の粒子の舞っている、爆発・火災の危険度が高い作業です。塗装ブースには照明やスイッチ、モーターなどの電気機器が使われていますが、防爆についてはどう考えれば良いのでしょうか。

塗装ブースの役割

まず、塗装ブースを設置する目的は有機溶剤中毒の予防や塗装品質の向上です。有機溶剤の蒸気を屋外へ排出して中毒を予防する他に、空気中に舞う塗料や不純物が被塗物に付着することを防ぎ、塗装不良の発生を減らす役割があります。

塗装ブースの設置を義務付けているのは労働安全衛生法の有機溶剤中毒予防規則で、囲い式の塗装ブースはこの規則で規定されている局所排気装置に該当します。塗装ブース自体は消防法等の定めによって火災予防目的で設置されているわけではありません。消防法が関わってくるのは可燃性の塗料の取扱いや保管についてです。

普通電気仕様の塗装ブースがあるのは何故か?

塗装ブースには電装品が普通仕様のものがあります。それは何故でしょうか。図1を見ていただければ分かりやすいと思います。

図1

囲い式の塗装ブースの場合、有機溶剤の発生源、つまりスプレーガン先端の位置は図1の赤枠で囲まれたフード内にあり、スプレーミストは矢印の空気の流れに沿って排気されます。フードの外にはスプレーミストが飛散しないため、外側にあるスイッチやモーターなどの電子部品類は普通仕様が採用されているのです。

ただし、これは塗装ブースの周囲が危険場所では無いこと、塗装ブースがきちんと排気の役目を果たしていることが前提の話になります。塗装ブースが局所排気装置としての性能を発揮しているかのチェックは、法律で定められている1年以内に1回以上の定期自主検査で確認してください。

塗装ブースも電気機器を使用しており、危険場所に設置するのであれば防爆仕様の電気機器を使用した塗装ブースを選定する必要があります。また、フードの中に電気機器を持ち込む場合は防爆構造を採用する必要があります。

塗装機器の防爆

塗装ブース以外にも電気を使用する機器が使われており、必要に応じて防爆構造のものを選定する必要があります。それぞれ見ていきましょう。

塗装ロボット

自動車工場などでは、大型の塗装ブースの中で数多くの塗装ロボットが稼働しています。多関節型の塗装ロボットにはアームを動かすためにモーターが使われており、塗装ブース内に設置する場合には防爆構造を採用する必要があります。

防爆構造については第一回の記事でお話ししましたが、塗装ロボットに採用されている防爆構造は内圧防爆構造と本質安全防爆構造の二つです。塗装ロボットの筐体には内圧防爆構造が施されています。機械の内部に可燃性ガスが入り込んでモーターや配線が点火源になるのを防いでいます。また、万一機器が故障した場合にも点火に必要なエネルギーに達しないよう、回路で電流電圧が制御されています。こちらの仕組みが本質安全防爆構造になります。

その他の塗装機器

塗装ロボット以外の搬送ロボット、照明機器なども、ブース内など危険場所で使用する電気機器には防爆構造を採用する必要があります。また、塗装現場ではなるべく電気を使わずに済むよう、電気でなくエアで駆動する機器が活躍しています。

制御盤

塗装ロボットやその他の塗装機器は制御盤で管理されていますが、通常の制御盤は防爆構造では無いため、塗装ブースの外などの危険場所の外に設置されています。また、故障や誤動作を防ぐため、塗装ロボットの本体と制御盤は別々にアースを取る必要があります。

図2

機器選定や危険場所設定についての注意

繰り返しになりますが、危険場所の指定や防爆機器の選定は、あくまで事業者の方自身がおこなうことに注意してください。機器メーカに任せるのではなく、所轄の消防署に相談の上できちんと対策をとる必要があります。

まとめ

以上、3回にわたって防爆についてお話ししてきました。塗装作業場などの可燃性のガス蒸気が発生する場所は、危険場所として分類し管理する必要があります。また、危険場所に電子機器を持ち込む場合は、その場所にあった防爆構造の機器を採用しなければなりません。

一方で危険場所の内部では使える電気機器が限られるため、近年のデジタル化の進展に伴い、工場全体を危険場所に設定するのではなく、危険場所を細かく区切り、普通電気仕様の機器を持ち込める場所を拡げる動きが進んでいます。

危険場所に持ち込む機器の防爆措置は安全上絶対必要なものですが、塗装ブースでも外側は普通電気仕様のものが一般的なように、不必要な場所にまで防爆機器を使用する必要はありません。ガイドラインも発行されていますので(2(3、この機会に防爆について見直してみてはいかがでしょうか。