塗装ブースの基礎② ~湿式ブースと乾式ブースの違い 2024年7月12日
乾式と湿式の違いはなんでしょうか。
塗装ブースについて解説するシリーズの第1回では、塗装ブースを設置する目的や塗装ブースの機能についてご説明しました。第2回の今回は、塗装ブースの種類と使用にあたっての注意点について解説します。
乾式ブースと湿式ブース
囲い式の塗装ブースには、大きく分けて「乾式ブース」と「湿式ブース」の2種類があります。使用する塗料の種類や量によって、適した機種を選定します。
図1
乾式ブースの特徴
乾式ブースはフィルタを使ってオーバーミストを捕集します。同じ間口(サイズ)で比べた場合湿式よりも安価で、イニシャルコストを抑えることができます。メンテナンスにはフィルタを交換する必要があるため、その分のランニングコストがかかります。
またフィルタは使うほど目詰まりしていくため、使う塗料の量が多いとフィルタの交換が頻繁になり、ランニングコストもかさんでしまいます。目安として、1日に使用する塗料の量が30ℓを超える場合は湿式ブースを選定するのがおすすめです。
乾式ブースはメンテナンスに手間がかからないこともメリットです。フィルタの購入費用はかかりますが、交換作業自体は簡単です。また水を使用しないため重量が軽く、2階以上の場所にも設置しやすくなっています。
ただし、使用する塗料によっては捕集効率が低下することがあります。また、自然発火する恐れのある塗料には使用できません。
湿式ブースの特徴
湿式ブースは、水を使ってオーバーミストを捕集します。乾式ブースに比べて捕集効率が高いことがメリットですが、イニシャルコストは乾式ブースに比べて高くなります。また、水を使うため重量があり、2階以上の場所に設置するには床荷重を考慮する必要があります。
メンテナンスの面では日々の水位・水質管理やスラッジの回収が必要になりますが、スラッジ回収装置を設置するなどして管理の手間を省くことができます。管理をしっかり行えば安定して運用することができます。
乾式ブースと湿式ブースの違い
乾式ブースと湿式ブースの違いやメリットとデメリットをまとめると下記の表のようになります。例えば塗料の使用量が少なく、自然発火する塗料も使わない場合は、フィルタの交換頻度が低くなるため乾式ブースがおすすめです。
図2
どちらの塗装ブースもメリットとデメリットがありますが、デメリットはそれぞれ補う手段があります。例えば騒音については消音ダクトを取り付けて、ある程度低減することができます。
乾式ブースの注意点
乾式ブースのメンテナンスはフィルタの交換が主な管理のため作業が楽ですが、フィルタの交換時期には注意しましょう。また、乾式ブースでは使用できない塗料もあります。
ブースの吸い込みの低下
乾式ブースはフィルタにオーバーミストを吸着させて捕集するため、使っているうちにフィルタが塗料で汚れて目詰まりするようになります。フィルタが目詰まりするとブースの吸い込みが弱くなり、塗料ミストが滞留するようになります。
そうなる前にフィルタの交換が必要です。フィルタの目詰まりは差圧を計ることで確認できるため、塗装ブースにマノメータ(差圧計)を取り付けて、フィルタ交換前後の数値を記録しておくと、交換時期の目安になります。
乾式ブースに使用できない塗料
乾式ブースは捕集した塗料がフィルタに付着して堆積します。そのため、自然発火する恐れがある塗料は使うことができません。
人が火をつけていなくとも、物質が自然に発火することがあります。例えば速乾性のフタル酸系塗料はウエスにしみ込んだものを放置しておくと、乾燥する過程で周囲の酸素と結びついて酸化重合反応をおこし、発熱します。この熱が蓄積すると温度が上昇し、自然発火することがあります。
乾式ブースに使ってはならない塗料の例
- 速乾性フタル酸塗料(乾燥促進のためにスチレンを混合してある塗料)
- 酸化重合塗料(硬化剤、促進剤などを混合して使う塗料)
- 油性系塗料でボイル油、アマニ油などを溶剤としている塗料
- その他の自然発火の恐れのある塗料
また、塗料の付着したフィルタを取り外して積み重ねたままにしておくと、自然発火する可能性があります。塗料が付着したフィルタは速やかに水に浸して産業廃棄物として処理してください。
塗料や薄め液には様々な種類があります。自然発火の恐れがある場合はラベルに注意喚起がされているはずですので、よく読んで注意書きを守るようにしましょう。逆に植物油などの塗料の注意書きのない製品を塗料や薄め液として使う場合は、ご自身で良く調べて取扱いには注意するようにしてください。
湿式ブースの注意点
湿式ブースは乾式ブースに比べて捕集効率が高く、乾式ブースでは使えない塗料にも対応できるメリットがありますが、日々のメンテナンスをきちんと行う必要があります。
水位管理
湿式ブースは水槽に溜めた水を循環させて、オーバーミストを捕集します。乾式ブースと違ってフィルタの目詰まりを心配する必要はありませんが、湿式ブースでは水槽の水位が風速に影響を与えます。風速によって捕集の性能が大きく変わってくるため、水位が適切になるように管理をする必要があります。
水位は高すぎて低すぎてもいけません。アネスト岩田の渦巻室構造の湿式ブースを例に説明すると、水位が高すぎると風速が遅くなり、作業場にミストが滞留してしまいます。逆に水位が低すぎると、風速が速くなり過ぎ、捕集効率が悪化してしまいます。
塗装ブースを運用していると、水槽内の水は蒸発などで自然に減っていきます。気温の高い夏は特に蒸発が速くなります。塗装ブースを停止した時の水位を確認して、適宜水槽に水を追加してください。
水質管理
湿式ブースが捕集したオーバーミストは水槽の中に落ちて行き、粘着性を帯びた塗料スラッジとして漂っています。放置しているとブース内にスラッジが付着して堆積してしまいます。粘着性のあるスラッジはそのままだと掃除が大変ですが、長く放置しているとスラッジを含んだ水は酸性に変化し、鉄でできた塗装ブースを腐食させる原因になります。
スラッジを付着しにくくするために、湿式ブースを使用する前に水槽にスラッジ処理剤を投入します。スラッジ処理剤は塗料スラッジの粘着性を低くしてブースの掃除をしやすくし、パネルや水槽内部への付着も防いでくれます。また、スラッジ処理剤には水のpHを調整する能力もあります。
処理剤については各社から様々なものが供給されていますが、塗料によって反応が変わってきますので、こちらも注意書きをよく読むようにしましょう。塗料スラッジの凝集のさせ方にも、かたまりになって手網で掬い易くなる処理剤や、硬くならずに回収装置と併用できる処理剤などがあります。
ブース処理剤を使ってもpHが酸性のままの場合は別途水酸化ナトリウム水溶液などを投入して調整する必要があります。また、処理剤と塗料の反応によっては発泡する場合がありますので、消泡剤なども販売されています。
日常の点検
湿式ブースの水槽の水位と水のpHは日常的に点検するようにし、ファンの吸い込みも1ヶ月に1回程度は点検しておきましょう。また、処理剤を投入しても時々は水の入れ替えが必要です。
コラム 塗装ブースの風速
乾式ブースも湿式ブースも、必要な風速が出ているか点検が必要です。囲い式フードに要求される法定風速は0.4m/secですが、風速は強ければ良いという訳ではなく、目安があります。塗装ブースの制御風速の目安は、0.4~0.8m/secです。
・風速が遅すぎると…オーバーミストの排出能力が低下し、作業場内にミストが滞留して塗装品質や作業環境の悪化を招きます。
・風速が速すぎると…被塗物に塗料が着く前にブースに吸われてしまい、塗着効率が下がって塗料の使用量が増加します。また、風の力で水槽の水を排気ダクトの方まで持ち上げてしまうことがあり、故障や腐食の原因になります。
その他、作業する部屋に供給される空気の量より塗装ブースに吸い込まれる空気の量の方が多いと、部屋の中が負圧の状態になり、ドアが開けられなくなったり、外部からゴミやホコリが入ってきたりしてしまいます。
まとめ
乾式ブースと湿式ブースの違いとメリットやデメリットについて簡単にご紹介しました。それぞれ使う塗料の量や設置場所によって適したブースがありますが、乾式ブースには使えない塗料がありますので、事前に確認するようにしましょう。
次回からは、塗装ブースに関する法規について解説する予定です。