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静電気のはなし③ ~塗装と静電気~2022年11月18日

静電気を利用した最先端技術もあります。

第1回第2回は静電気の原理や静電気が製造現場で引き起こすさまざまな問題、その対策についてお話ししました。最終回の今回は、塗装と静電気についてお話しします。

塗装工程ではなぜ静電気に気を付けなければならないのでしょうか。その理由は2つあります。1つは塗装作業に火災の危険性が付きまとうこと、もう1つは静電気によって運ばれてくるチリやホコリが塗装品質に大きな影響を及ぼすことです。

本記事では塗装と静電気について解説します。また、静電気を利用した技術である静電塗装についてもご紹介します。

塗装作業の安全管理

塗料は何からできている?

一口に塗料と言ってもたくさんの種類がありますが、一般的に塗料が危険と言われるのは、有機溶剤を含むものが多いからです。塗料の成分をおおまかに分けると、下の表のようになります。

図1

塗膜とは、塗料を塗って溶媒が揮発したあとに残った固形分で作られる膜のことです。上の表のうち、塗膜形成分とは塗料が固まった後も残る物質のことで、非塗膜形成分とは蒸発して残らない物質のことです。(図2参照)

図2

有機溶剤の危険性

非塗膜形成分である溶剤やシンナーとして使われているのが有機溶剤です。有機溶剤とは他の物質を溶かす性質を持つ有機化合物の総称です。有機溶剤は塗装の他にも接着や洗浄、印刷など、産業のさまざまな分野で使われています。

有機溶剤は一般的に沸点が低いため揮発性が高く、発生する蒸気は空気より重いため、床のくぼみや容器の底に滞留しやすくなっています。また引火性があることや、帯電しやすいことも静電気事故が多発する要因になっています。

図3は引火爆発事故が起こりやすい典型的な状況です。このような事故を防ぐためには工場内の空気が乾燥しないよう注意し、攪拌容器などには導電性の素材を使い、その上できちんとアースを取ることが大切です。金属容器であってもアースが取れていなければ帯電してしまいます。

図3

この他、床にこぼれた溶剤や作業着に付着した溶剤に着火した事例もあります※1。秋からは空気が乾燥して静電気が発生しやすい季節になります。塗料やシンナーのラベルに書いてある注意事項を良く確認して、扱いには十分注意する必要があります。

塗装品質と静電気

ゴミブツ対策の重要性

塗装においてはゴミブツ対策が重視されます。特に自動車業界では意匠性が重要視されるため、ゴミブツとその原因になる静電気に対して細心の注意が払われています。

自動車の車体や部品の塗装ラインは空調の管理された塗装ブースで囲まれ、塗装ブースの床にはアースが施されています。工程も最後の検査工程などの人の目が必要なものを除いてほぼ自動化され、チリやホコリを持ち込まないように対策がされています。

塗装現場の静電気対策

自動車業界以外の業界でも、塗装工程において静電気対策は重要です。前回ご説明したアースなどの基本対策の他、塗装工程で取られている対策をご紹介します。

・加湿器の設置、床への水まき
加湿器を設置して作業場の湿度を維持します。また、床に直接水をまいたりもします。

・被塗物を塗装前に除電する
塗装する製品(被塗物・ワークなどと呼ばれます)にチリやホコリ、加工屑などが付いていると塗装不良の原因になるため、塗装前にエアーブローやブラシで除去します。チリやホコリが帯電しているとまた舞い戻ってきて付着してしまうため、この時に吹き付けるエアにイオンを含ませたり、除電ブラシを使ったりして、除塵と同時に除電も行われます。

・塗装ブースや作業場の床を導電性にする
作業場の床には帯電防止剤が塗られ、静電気が逃がせるようになっています。また、塗装ブースの床はアースが取られています。これは塗装品質の維持のためでもありますが、前段でお話ししたような静電気事故を防ぐための安全対策でもあります。

・作業者も除電・帯電防止をおこなう
作業者は導電性の作業着や靴を身に着けて、帯電を防止します。また、塗装室や塗装ブースに入る際には除電用ののれんやエアシャワーをくぐり、作業場にチリやホコリを持ち込まないようにします。

静電気を利用した技術、静電塗装

これまで静電気が引き起こすさまざまな問題を取り上げてきましたが、逆に静電気を利用した静電塗装についてご紹介します。

静電塗装の原理と特長

静電塗装とはアースさせた被塗物に帯電した塗料を吹き付ける塗装方法です。静電気の力で塗料が被塗物に引き寄せられ、ムラなく均一に塗装できます。また、静電塗装は通常のスプレー塗装より塗着効率が高く、塗料のムダが少ないため、自動車の車体や部品などの大量生産品の塗装に使われています。
※塗着効率:使用した塗料の質量と被塗物に付着した塗料の質量の比率

図4

静電塗装のメリットは付きまわり性が良いことです。特に凹凸のないシンプルな形状の物体の方が塗着効率が高くなります。(図5参照)
※付きまわり性が良い:塗料が被塗物の裏側まで回り込んで付着すること

図5

静電塗装に必要な条件

静電塗装の被塗物・塗装機・作業者それぞれに導電性が必要です。

・被塗物
金属や木材などの被塗物はもともと導電性がありますが、樹脂などの絶縁体の場合も導電性塗料を下塗りすれば塗装することが出来ます。

また被塗物の治具にも注意が必要です。治具のほとんどは金属であるため導電性がありますが、塗装をしていくうちに治具にも塗料が付いていきます。治具についた塗料が固まってしまい金属面を覆ってしまうと導電性が無くなり、アース不良になります。定期的な治具の洗浄を行うことも必要です。

・塗装作業者
乾燥しやすい季節(秋から冬頃)は気温も下がるため、塗装作業者が手袋や軍手を着用して塗装されているのを目にします。材質にもよりますが手袋や軍手は導電性がないため、付けたまま静電塗装をするとアース不良となり静電効果を落としてしまいます。指先部分や手のひら部分を切り塗装機と肌が接する必要があります。静電靴などの導電性を有した靴の着用も必要です。

塗料の方も調整が必要です。塗料にも電気抵抗があり、抵抗値が低いと電気が逃げてしまい静電効果が落ちてしまいます。そのため、静電用シンナーなどを使って塗料の抵抗値を適切に保つ必要があります。

また、静電塗装は安全面での注意も大切です。アースがきちんととれていないと火災の原因や静電効果が落ちてしまう原因になります。

まとめ

静電気について3回シリーズでお話ししてきました。静電気は製造現場においてさまざまなトラブルを引き起こし、時には重大事故の原因にもなる厄介な存在です。その一方で静電気を利用した塗装技術が最先端の現場で使われ、日々進歩を遂げています。ご興味を持たれた方は是非調べてみてください。

参考リンク

※1 厚生労働省 職場のあんぜんサイト より