塗装ブースの法規制② ~排気と給気~ 2024年8月30日
バランスをとることが大切です。
塗装ブースの法規制について解説するシリーズの第二回は、排気と給気についてです。
塗装ブースの最も大切な役割は、有害な有機溶剤蒸気から作業者を守り、有機溶剤中毒の発生を防ぐ事です。そのため、塗装ブースには作業場から有害物質を排除するだけの排気性能が求められます。また、排気で作業場から失われる分の空気は、適切に給気されなければなりません。
今回は塗装ブースの排気と給気、関連する法規について解説します。
排気
塗装ブースの排気とは
塗装ブースは換気方法により「局所排気装置」「プッシュプル換気装置」「全体換気装置」の三種類に分けられます。いずれも排気ファンの吸い込む力や給気の押し出す力を使って有機溶剤蒸気を作業場の外へと排気します。
図1 塗装ブースの換気方法
塗装ブースが捕集した有機溶剤蒸気は排気ダクトを通って外へと排気されます。有害度の低い第3種有機溶剤のみを使用しているような場合、つまり上の図の右端の全体換気装置を使うような例外を除いて、塗装ブースでは排気ダクトの設置が必須になります。前回の記事とおなじく、このあとは局所排気装置を念頭に置いてご説明します。
コラム ガソリンスタンドで防毒マスクは必要?~有機溶剤の種類と区分
これまで何度かお話しした有機溶剤の区分ですが、具体的にどんなものが指定されているでしょうか。有機則では第1種・第2種・第3種合わせて54種類の有機溶剤が指定の対象になっています。第1種にはクロロホルムなど特に有害度の高い溶剤7種類、第2種には工場で身近なアセトンやキシレン、イソプロピルアルコールなど40種類、そして第3種にはガソリンや石油ナフサ、テレピン油など7種類が指定されています。
そう、ガソリンも有機溶剤です。ガソリンスタンドでの業務や、セルフガソリンスタンドで給油する際にマスクや換気装置が必要だったでしょうか?答えは皆さんご存知の通り、Noですね。ガソリン等の第3種有機溶剤は、タンクの内部で吹付けを行なうなど、一部の例外的な作業を除いて有機則の適用外になります。ただし、ガソリンは消防法などの他の法規の規制対象にもなっていますので、扱いに注意が必要な物質であることには変わりません。
排気に関する法規
塗装ブースが必要とする性能を発揮するために、有機則には制御風速の他、排気口や排気ダクトについても定めがあります。排気ダクトの出口部分にあたる「排気口」については、有規則第15条の2に事業者が守るべき規定が設けられています。
(排気口)第15条の2
・排気口を直接外気に向かって開放しなければならない
・排気口の高さを屋根から1.5メートル以上としなければならない
排気口の高さは排気口の下の端から屋根までの距離で測ります。地表に向けて排気されていたり、屋根や壁からちょっと出ていたりするだけでは法の基準を満たしません。
図2 排気ダクトの適合基準
排気ダクトの圧力損失
塗装ブースの排気ダクトはなるべく太く、短く、曲がりや狭窄、障害物等がないのが理想です。有機則にはまさにその通りの規定があります。
(局所排気装置のフード等)第14条②
事業者は、局所排気装置のダクトについては、長さができるだけ短く、ベンド(曲がり)の数ができるだけ少ないものとしなければならない
細長いダクトや曲がりの多いダクトは排気される空気がスムーズに流れず、内部で圧力損失が起こります。排気ダクトの防鳥網やダンパー(空気流量の制御弁)などが空気の流れを妨げている場合も同じです。
図3 排気ダクトの圧力損失の原因になる要素
圧力損失が起こる原因については、圧縮空気の供給配管でおこるものを例にご説明したことがありますが、排気ダクトで起こる圧力損失も同じです。ダクトの中を流れる空気がダクトの内壁にぶつかったり、渦を巻いたりして運動エネルギーが失われ、排気する力が落ちてしまいます。
参考記事 エア配管を見直してみよう!① 〜圧力損失とその原因〜
ダクトを通して排気している以上、圧力損失はおこるものですが、損失が大きいと塗装ブースが有機溶剤蒸気を吸い込むのに必要な性能を出すことが出来なくなります。排気ファンの性能を上げて風速を補うにも限界がありますし、速過ぎる風速もまた圧力損失の原因になります。また、湿式ブースの場合はファンの風速が速すぎると、風の力で水槽の水が持ち上げられてしまいます。水が排気ダクト側まで入り込むと、故障や腐食の原因になります。
塗装ブースを設置する際にはダクトをどのように配置するか、事前に十分な検討を行ってください。次回で塗装ブースの設置届についてご説明する予定ですが、ダクトの圧力損失の計算書も労働基準監督署への提出書類に含まれています。
給気
排気とのバランス
塗装ブースは有機溶剤蒸気と一緒に作業場の中の空気を吸い込んでどんどん外へ排出します。排気で失われた分の空気をどのように補うのか、給気についても考えなければなりません。
給気を考える際には、排気とのバランスが大切になります。作業場の外部から自然の給気を行なうか、必要に応じて給気装置を設置します。給気装置や自然給気の際の注意については後程ご説明します。
適切な給気のメリット
適切な給気を行ない、排気とのバランスを取ることによって、いくつものメリットを得られます。
常に一定の風量、風向きを得ることができる
いつも同じ環境条件で塗装ができれば、品質が安定します。特にロボットを設置して塗装工程を自動化している場合、常に一定の条件を保つことは必須です。ロボットは職人と異なり、環境が変わってしまった場合の微調整ができません。適切な給気を行なって条件を整えておかないと、不良品を量産することになります。
吹き返りが減る
給気の量と方向が安定していると排気も安定します。オーバーミストが安定して吸い込まれ、塗料の吹き返りがワークに付着することが減ります。
ゴミやホコリが減る
排気量に対して十分な給気量がないと、塗装作業場内の空気量が不足し、周囲に比べて負圧になります。作業スペースが負圧になると周囲からゴミやホコリが吸い寄せられ、被塗物や冶具に付着したり、塗料に混入したりしてしまいます。給気と排気のバランスが取れていれば、そうした事態を防ぐことができます。
給気の風量と向き
塗装室や塗装作業のスペースは周囲に比べて正圧(周囲に比べて圧力が高い状態)になっているのが望ましい状態です。そのため給気量は常に排気量と同量以上を保つ必要があります。また、給気装置を設置する場合も、自然給気を行なう場合も、給気の方向はスプレーの方向と一直線に揃える必要があります。
作業スペースが負圧か正圧か、給気がどの方向から行われているかは、糸やビニール紐を垂らしてみることで簡単に確認できます。塗装室の入り口に紐を垂らしてみて、紐が内側に吸い寄せられるようでしたら負圧になっています。周囲からゴミやホコリを吸い寄せてしまいますので、改善する必要があります。
給気装置
局所排気装置の塗装ブースにも強制給気装置付きの製品があります。ブースの上方に給気装置が付いており、ブースと一体になっているもの、ブースとは別に天井等に給気装置を設置するものなど、いくつか種類があります。
プッシュプル換気装置と少し似ていますが、あくまで局所排気装置の性能を満たした上で給気装置を付加するものです。塗装ブース内部の気流が安定するように設計されていますので、スプレーの吹き戻り防止やゴミブツの持ち込み削減など、塗装品質の向上に役立ちます。
給気装置を設置するメリットとデメリット
給気装置のメリット
・吹き返りが減る
・負圧になるのを防ぐ
・給気(アシストエア)により気流が安定する
・吸い込み口や給気口にフィルタを設置することにより、ゴミブツの少ないクリーンなエアを供給できる
給気装置のデメリット
・給気装置や給気ダクトの設置等、導入コストが高くなる
・フィルタの交換コスト(ランニングコスト)がかかる
・フィルタの管理など、メンテナンス箇所が増える
自然給気の場合の注意
自然給気の塗装作業場では十分な給気量を確保できず、負圧になってしまっているケースが多く見受けられます。作業場の開口部(給気面積)を十分に取り、排気風量と同量以上の給気風量を供給してください。
また、給気口は作業者の背面に位置しているでしょうか? 給気口・作業者・被塗物・塗装ブースが一直線になっていないと気流が乱れ、塗装品質が低下したり、作業者が有機溶剤蒸気を浴びたりする原因になります。
図4 給気の方向
図4の左の例のように側面からの給気ですと、給気口に近い側(赤い矢印)の風速が強くなり、遠い側(青い矢印)の風速は弱くなりますので、ブースの中の気流が乱れる原因になります。
まとめ
今回は塗装ブースの排気と給気についてご説明しました。排気と給気のバランスが取れていないと、塗装品質の悪化や塗装ブースの性能低下の原因になります。また、排気ダクトについては有機則に規定がありますので、法の基準を満たすダクトの設置が必要になります。
次回は塗装ブースを設置する際の届出や、運用に関する法規について解説します。