KAIZEN記事
取引先から排出量データを要求されるかも?サプライチェーン排出量について知っておこう!2022年2月18日
市場から、社会全体へ。
2021年6月に東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードが改訂され、上場企業へのサステナビリティや気候変動リスクに対する取組み要求が一層強化されました(1。今回の改訂の中でも大きな影響が予想されるのは、2022年4月の市場再編後のプライム市場上場企業に対して、自社の温室効果ガス排出量だけでなく、原料調達や販売・廃棄などを含めた全体の流れから発生する排出量、いわゆるサプライチェーン排出量の算定と開示が実質的に義務化されたことです。
これにより、上場企業とその調達先の企業、またその調達先の企業と、連鎖的な排出量の算出・削減が求められるようになると予想されます。
温室効果ガス排出量について取引先から問い合わせがあった場合に対応できるよう、早めの準備をしておきましょう!
企業を取り巻く環境
コーポレートガバナンス・コードとは?TCFD提言とは?
企業の組織ぐるみの不祥事を防ぐために、社外取締役や社外監査役など、社外の管理者によって経営を監視する仕組みをコーポレートガバナンスと言い、東証がその原則をまとめたものを「コーポレートガバナンス・コード」と言います。
2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂では、プライム市場に上場する企業に対して、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿った情報開示が実質的に義務化されるようになりました(2。(スタンダード市場とグロース市場に上場する企業に対しても、TCFDに基づく情報開示が推奨されます。)
TCFDとはG20の財務大臣・中央銀行総裁からの要請を受けて設置されたタスクフォースで、気候変動がもたらす財務的影響を把握し、開示することを目的とした提言を発表しています。
TCFD提言に基づく開示の中でも影響が大きいのは「サプライチェーンベースでの『温室効果ガス排出量』の算定と開示」が求められるようになることです。
下記の通り、「事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(=Scope1)」と「他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出(=Scope2)」に加え、「Scope 1,2以外の間接排出(=Scope3)」の算定が必要になりました。これにより、上場企業の調達先も温室効果ガスの算定が求められる場合があります。
上場企業がおこなうサプライチェーン排出量の算定手順とは?
サプライチェーン排出量の算定には、環境省によって推奨されている4つのステップがあり、温室効果ガスの排出量を大枠で見積もり、そこから細分化していきます。取引先の算定では、実際に排出量の一次データの提供を求める方法と、「電気の使用量、貨物の輸送量、廃棄物の処理量、各種取引金額等の情報」を自社で収集して該当する排出原単位を掛け合わせる方法の2種類があります。
上場企業がサプライチェーン排出量を把握することで、より広い範囲に効果的な排出量削減に取り組むことができます。特に、サプライチェーン上流の排出量を削減すると、下流側の排出量も削減されたことになり、より大きな効果を生みだすことができます。
STEP1 算定⽬標の設定
⾃社のサプライチェーン排出量の規模を把握し、サプライチェーンにおいて削減すべき対象を特定すること等の算定に係る⽬的を設定する
STEP2 算定対象範囲の確認
サプライチェーン排出量の算定の際には、グループ単位を⾃社ととらえて算定する
STEP3 Scope3活動の各カテゴリへの分類
サプライチェーンにおける各活動を、漏れなくカテゴリ1〜15に分類する
出典:環境省 サプライチェーン排出量算定の考え方 パンフレット
STEP4 各カテゴリの算定
- STEP4-1︓ 算定の⽬的を考慮し、算定⽅針を決定する
- STEP4-2︓ データ収集項⽬を整理し、データを収集する
- STEP4-3︓ 収集したデータを基に、活動量と排出原単位 から排出量を算定する
自社の温室効果ガス排出量を把握するには?
温室効果ガス排出量を明確にするメリットとは?
温室効果ガスの算定には、多くの労力がかかりますが、その分のメリットも存在します。一番大きなメリットは「環境対応企業としての企業価値を明確にできること」です。サプライチェーン排出量の把握・管理は企業の評価基準として国内外で注⽬を集めており、グローバルにおいても、投資家等のステークホルダーへの社会的信頼性向上に繋がり、ビジネスチャンスの 拡⼤が期待されています。上場企業がサプライチェーン排出量の削減に取り組む中で、同じく温室効果ガスの削減をしている調達先は魅力的な企業に映り、他社との差別化につながると考えられます。また銀行などの金融機関も企業の取組みをを重要視するようになってきており、今後資金調達の際に有利になることが期待できます。
また、温室効果ガス排出量の算定にあたり、電気や燃料の使用量が「どこでどれくらい使われているのか」明確になるため、ムダが発生している箇所の特定につながるケースもあります。
さらに、上記でご紹介したサプライチェーン排出量の開示以外にも新たな取り組みが始まっています。2022年2月1日、経済産業省はカーボンニュートラルに積極的に取り組む企業群による「GXリーグ」基本構想を発表し、2023年4月の本格稼働を目指すと宣言しました(3。構想の中には日本版の排出量取引市場構築も含まれており、参加企業が目標を上回ってCO2排出量を削減した場合、あるいは目標を達成できなかった場合、その分を「クレジット」として市場で取引することを計画しています。今後このような取引が広まれば、企業への温室効果ガスの削減要求がより強まると予想されます。
自社の温室効果ガス排出量の算出方法
自社の温室効果ガスは出量を算定するには、活動量(活動の規模に関する量。電気の使用量など)に排出原単位(活動量あたりのCO2排出量。電気1kWh使用あたりのCO2排出量など)を掛け合わせる必要があります。使用したエネルギーや行なった活動によって原単位が決まっており、「活動量×排出原単位」の計算式で求められます。
サプライチェーン排出量の計算に関しては、環境省の運営する「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」に算定方法や原単位のデータベース、取り組み事例が掲載されています(4。また、中小企業向けのガイドブック「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」も作成され、こちらにも取り組み事例などが掲載されています(5。
自社の温室効果ガス排出量を可視化した後にするべきことは?
数値化がゴールではない!
自社の温室効果ガス排出量を可視化できたら、現状分析と目標設定をして数値化したデータを活用していきましょう。自社の温室効果ガス排出量を全体で可視化することで、優先して削減しなくてはいけない箇所や削減しやすい箇所が明確になります。
「いつまでにどれくらいを削減するか」といった具体的な目標を立てることで従業員にも方針をわかりやすく伝えることができ、また、排出量削減に関する数値の裏付けがあることで、自社ブランドと自社製品の価値向上にもつながります。
製造業ができる省エネとは?
製造業が自社努力の範疇で省エネに取り組むのであれば、効果が大きいのは工場設備の見直しです。特に、コンプレッサは工場内電力の20%以上を占めることがあるほど大きな電力を使用しています。KAIZEN情報では、過去にもコンプレッサの省エネに関する記事を投稿していますので、この機会に併せてご確認ください。
まとめ
いかがでしたか。温室効果ガス排出量の算定は確かに労力がかかります。一方で、製品や企業の取り組みがサステナブルであることは、他社と差別化できる大きな付加価値になり得ます。
持続可能な社会に向けた企業の役割はますます⼤きくなる中で、SDGsへの取り組みを“経費”として捉えるのではなく、経営リスクの回避と新たなビジネスチャンスの獲得のための“投資”として捉え、できることから早期に取り組むことが重要です。企業の持続的な成長のための手段として、SDGsをうまく活用していきましょう!