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地球にやさしい塗装とは?2020年3月13日

地球にやさしい塗装とは?

塗装は現代生活のいたるところで活用されており、それだけに環境への影響も甚大です。近年では環境保護に関するニーズと法規制に対応することが事業の維持・成長のために欠かせない条件となっており、塗装を扱うあらゆる製造業の現場で環境に配慮した塗料や塗装方法を用いることが求められます。

有害な塗料成分の削減、塗料の分解性向上、省資源に配慮した塗装方法などにより、地球にやさしい塗装を実現できます。さらに、特別な性質を持った塗料を活用することで環境やエネルギーの問題を改善させることも可能です1)。以下ではこれらのポイントについて具体的に紹介していきます

1.有害な塗料成分の削減

塗料に用いられる(用いられていた)代表的な有害物質をいくつか取り上げ、問題点と対策を解説します。

揮発性有機化合物(VOC)

揮発性有機化合物(VOC)は近年重点的に削減の取り組みが進められている物質です2)。VOCは塗料の溶剤として広く用いられてきました。VOC発生源の4割ほどを塗料が占めており、塗装に関わる業種にとっては重大な問題となっています。

顔料や樹脂を溶剤に溶かした液体塗料は塗料のなかで最も広く用いられているものです。塗布された液体塗料は溶剤が揮発することで乾燥・硬化し塗膜を形成します3)。VOCを含む溶剤は揮発すると微小粒子となって環境中に浮遊し、健康被害や光化学スモッグの原因となるため、大気汚染防止法により排出抑制が求められています2)

VOC削減のため、溶剤の割合を減らしたハイソリッド塗料や有機溶剤の代わりに水を用いた水性塗料の開発と普及が進んでいます3)。また、溶剤を使わない粉体塗料3)EB硬化システムも活用されはじめています4)

鉛、クロム、TBT

鉛とクロムは着色や防食、硬化促進などの目的で塗料に多用されてきた金属です。もともと人体の中に微量に含まれる金属ですが、吸収される量や部位によっては深刻な健康被害をもたらします。

鉛は消化器や腎臓の障害、クロム(とくに六価クロム)は接触部位の炎症・潰瘍や肺がんとの関係などが知られており、使用の制限や廃絶が進められています5)

TBTは有機スズ化合物の一種で、船底の防汚塗装に広く用いられていました。しかし海洋生物への有毒性が確認され、内分泌攪乱物質としての作用も疑われるため、国際的に使用が禁止されました6)。現在ではTBTを含まない塗料(後述)が船底に使われています。

2.塗料の分解性向上

環境中に放出された合成化学物質は微生物などによる分解作用(生分解)を受けますが、分解性が低いほど長期間にわたって残留して影響を与え続けます。プラスチック製品と同様に、塗料についても植物原料などを用いた分解性の高いタイプへの置き換えが進められており、生分解性プラスチックと相性のよい塗料なども開発されています7)

3.省資源に配慮した塗装

塗料や塗装方法の改善により資源の節約を図ることができます。塗料の使用量を減らすことで、VOCの削減にもつながります。

塗着効率の向上

塗装に用いられる塗料のうち付着(塗着)しないで無駄になる部分があります。塗着効率を上げて無駄になる分を減らすことが、経営だけでなく省資源のためにも重要です。

エアスプレーで塗料を吹きつける方式は、塗った表面の仕上がりはきれいなのですが、あまり効率がよくありません。より塗着効率を高める方法として、塗料を帯電させて電気の力で被着体に付着させる静電塗装や、直流電流による電気分解を利用する電着塗装などがあります3)

長寿命塗料

塗装の耐用年数が長くなればその分だけ塗り替えの必要がなくなり、省資源につながります。耐用年数は塗装された物がどのような環境にさらされるのかによって変わるため、長寿命塗料の開発と利用のためには環境条件を考慮することが必要です8)

塗料のリサイクル

塗料製造工場から排出される塗料・溶剤を回収して、溶剤を再利用するリサイクルシステムが開発されています9)。このシステムは、溶剤のほぼ100%を揮発・回収させることが可能です。溶剤を含まない固形分はそのまま埋め立て処理が可能です。

また、塗装現場でも、塗着しなかった塗料を回収して再利用するシステムが『理論上』は構築されています3)。水性塗料であれば水に溶かして回収し、濾過・濃縮して再利用する方法も開発されています。粉体塗料は色数は少ないのですが、収・再利用できるというメリットがあります。

4.塗装で実現する省エネルギー

特別な塗料を用いることで住環境や操業効率を改善し、環境改善と省エネルギーを図る方法があります。

高日射反射率塗料・断熱塗料

高日射反射率塗料は、太陽光などに含まれる近赤外線を反射しやすいことが特長です。近赤外線は高い温熱効果を持った電磁波です。高日射反射率塗料を屋根や外壁などに塗って近赤外線の多くを反射すれば、建物の過熱やヒートアイランド現象を抑える効果を期待できます10)

断熱塗料は中に空気層を含んだ微小素材を塗料に配合して断熱性を持たせた塗料で、冷房・暖房エネルギーの抑制に効果的です11)。高日射反射率塗料と組み合わせて用いることも可能です。

防汚塗料

防汚塗料は汚れなどが付着しにくい特性を持っています。省エネルギーの面で特に効果が大きいと考えられるのが船底に用いられる防汚塗料で、アオサやフジツボなどの付着を防ぎます。これらの生物が船底に大量に付着すると、海水の抵抗が大きくなり運行速度の低下と燃料消費量の増加をもたらします。

船底用防汚塗料は防汚剤が海中に溶け出すことで効果を発揮するのが通例です。前述の通り、防汚剤として用いられたTBTが海洋生物に被害をもたらしたことを教訓として、現在では環境にやさしい防汚剤の利用が進んでいます。また、防汚剤を用いず塗膜の性質によって生物付着を防止するタイプの塗料も開発されています12)

今後も、事業活動には環境への配慮が求められます。より環境負荷に配慮した塗料の開発と塗装方法の革新が求められるでしょう。

(参考文献)

1) 日本塗料工業会(2009年9月18日)「環境配慮塗料の種類と内容」
https://www.toryo.or.jp/jp/anzen/news/files/kankyo-bunrui2.pdf  

2) 経済産業省(2019年3月19日)「揮発性有機化合物 (VOC) 排出抑制のための自主的取組の状況」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/sangyo_kankyo/pdf/007_02_01.pdf  

3) 科学と教育55巻2号(2007年2月20日)「環境を考える塗料と塗装」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/55/2/55_KJ00007514557/_pdf/-char/ja  

4) 放射線利用振興協会(1999年9月23日)「EB硬化システム」
http://www.rada.or.jp/database/home4/normal/ht-docs/member/synopsis/010184.html  

5) 関西ペイント 塗料の研究No.140(2003年5月)「塗料における有害性重金属対策の現状」
https://www.kansai.co.jp/rd/token/pdf/140/07.pdf  

6) 日本船主協会(最終閲覧日:2020年2月13日)「船舶についての有害な防汚方法の管理に関する国際条約」
https://www.jsanet.or.jp/environment/text/environment3a/06_01.html  

7) ジャパン・フォー・サステナビリティ(2007年8月2日)「産総研、環境にやさしいプラスチック着色技術を開発」
https://www.japanfs.org/sp/ja/news/archives/news_id024518.html  

8) 大日本塗料株式会社 DNTコーティング技報No.18(2018年10月10日)「塗膜の耐久性に関する調査・考察」
https://www.dnt.co.jp/technology/technique/pdf/giho18-43.pdf  

9) 関西ペイント 塗料の研究No.134(2000年4月)「『廃塗料リサイクルシステム』の開発」
https://www.kansai.co.jp/rd/token/pdf/134/08.pdf  

10) 日本塗料工業会(2011年7月)「高日射反射率塗料に関する補足資料」
https://www.toryo.or.jp/jp/anzen/reflect/reflect-info2.pdf  

11) 早川商事株式会社(最終閲覧日:2020年2月13日)「中空ビーズ・マイクロビーズ」
http://www.hcl.co.jp/japanese/hollowbeads.html  

12) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第45巻 第4号(2010年7月)「環境に優しい船底防汚塗料の現状と展望」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jime/45/4/45_555/_pdf