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再生可能エネルギーを主力電源にすることはできるか?2020年5月22日

再生可能エネルギーを主力電源にすることはできるか?

諸外国に比べ遅れていると言われる日本の再生可能エネルギーの導入。政府では現在施行されているFIT制度(後述)に替わり、市場を意識した新制度(FIP制度)の導入を検討しています。

本記事では、再生可能エネルギー主力電源化の概要とそれを取り巻く現状を解説するとともに、再生可能エネルギー促進のための制度改革案についてご紹介します。

再生可能エネルギーの定義と、なぜ必要とされているのか

再生可能エネルギー(以下、再エネ)とは、太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスを利用する、地球環境に対して負荷の少ない自然界に存在するエネルギーのことを指します。再エネは温室効果ガスを排出しない(あるいは取扱上、排出しないとされている)ため、環境負荷抑制に寄与するエネルギーです。また、再エネは化石燃料と違い国内で生産が可能なため、エネルギー安全保障の観点からも有望です1)

東日本大震災以降、日本の温室効果ガスの排出量は増加し、2013年には過去最多の排出量を記録しました。こうした中で2016年に発効したパリ協定においては、世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える努力規定、21世紀後半までに温室効果ガス排出量と森林などによる吸収量のバランスを保つことなどが合意され、再エネによる温室効果ガス排出の削減がますます求められることになりました2)

図1:我が国の温室効果ガス排出量(2018年速報値)

出典:環境省  https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/emissions/2018gaiyou_s.pdf

再エネ導入に関する制度的課題

太陽光発電や風力発電などの再エネを促進するには、自力で電力をつくり出すこと、すなわち「主力電源化」することが必要です。

この目標の実現に当たっては、発電コストの高い再エネを低廉なものにし、コスト競争力を高める必要があります。そこで日本も、海外に遅れて固定価格買取制度(FIT)を導入し、再エネの普及促進に本格的に動き出しました。FITは国が決めた価格で電力会社が買取を行い、買取費用の一部について電気料金を通じて国民が負担する制度です。

これにより電力業界に再エネを普及させ、技術開発によって発電コストが低くなることが期待されました3)。しかし、海外に比べて日本の再エネ導入比率は諸外国に比べて低いままです。その一因は、上記の取組にも関わらず発電コストが国際水準よりも高いままだからです。

図2:各国の発電における再エネの占める割合

出典:環境省エネルギー庁「再生可能エネルギーとは」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/outline/index.html

日欧の太陽光発電(非住宅)システム費用比較

出典:環境省(2017年9月)「再エネのコストを考える」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/saienecost.html

2030年のエネルギーの将来像を掲げ、2015年に策定した「エネルギーミックス」では、日本の電源構成の22~24%を再エネにする目標が掲げられています4)。しかし、現状は再エネの普及がうまくいっておらず、達成が難しい状況です。

また、先に紹介したFIT制度による国民の電力負担額については、政府は2030年までに3.7~4兆円程度の負担が生じるとしていましたが、2018年度の時点で既に3.1兆円程度に達しています。

つまり、当初の見込みよりも再エネの普及が進んでおらず、国民が負担するコストが想定よりも大きくなっているのです。

再エネの主力電源化促進に向けて求められる制度改革

令和元年12月12日、経済産業省資源エネルギー庁は「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会 再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(第5回)」を開催し、各委員によって再生可能エネルギーの今後の活用方針について議論がなされました。

今回の委員会では、FIT制度の見直し等について話し合われ、制度改正の必要性について議論が交わされています。再エネの普及に課題が残る中、本委員会の中間取りまとめ案では、欧州で導入の進んでいるFIP制度を利用し発電コストを下げる必要があると意見が提出されています。

既存のFIT制度は再エネにより発電した電気が固定価格で購入されるため、発電収入の見込みが容易になり、投資インセンティブが確保されていました。一方、FIP制度では、発電した電気を自由に売電し、そこに「あらかじめ定められた基準価格(以下「FIP価格」という)と市場価格に基づく価格の差額(=プレミアム)売電量」を上乗せして交付することで、売電事業者が市場での売電収入に加えてプレミアムによる収入を得ることができ、投資インセンティブを確保できる仕組みとなっています5)

FIP制度を導入する際には投資インセンティブの確保と市場価格を意識した発電行動の両立を目指す必要があります。このことから、今回の小委員会では、上記算出式の「FIP価格」は、電源区分・規模毎に決定するか、入札を活用して決定することが適当であるとされています。

FIT制度の契約が終了した電気事業者は、今後市場に参入してきます。このような再エネ制度の過渡期の中、同委員会ではFIPという新たな制度の導入を検討することで、FITでは課題のあった再エネ普及の滞り、電力コストの下げ止まり、国民負担の増大などの課題を解決しようと検討がされました。この動きは今後の再エネ普及の動きに大きな影響及ぼすことが考えられます。

(参考文献)

1) 経済産業省資源エネルギー庁「再生可能エネルギーとは」:
 https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/outline/index.html

2) 外務省「パリ協定(和文)」:
 https://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/et/page24_000810.html

3) 経済産業省資源エネルギー庁「FIT法改正で私たちの生活はどうなる?」:
 https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/fitkaisei.html

4) 経済産業省資源エネルギー庁「再エネのコストを考える」:
 https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/saienecost.html

5) 経済産業省資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(第5回)「中間取りまとめ(案)」
 https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/saiene_shuryoku/005/