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コンプレッサの更新① 〜次は何を選べば良い?更新前に確認したいこと〜 2024年5月17日

更新はカイゼンのチャンスです。

コンプレッサは多くの工場設備に圧縮空気を供給しており、生産活動に欠かせない動力源になっています。またコンプレッサの電力使用量は工場全体の20〜30%を占めると言われているのをご存知でしょうか。コンプレッサを更新する際には生産工程やコストに大きな影響があることを念頭に置いて検討しましょう。

今回から2回にわたって、コンプレッサ更新の際に確認したいポイントを紹介します。

コンプレッサ更新の前に確認したいこと

新しいコンプレッサを検討する前に、まずは現行のコンプレッサの稼働状況を確認しましょう。

後継機を選べば大丈夫?

現行機を問題なく使えている場合でも、同じ機種の後継機を選べば良いとは限りません。現行機の負荷率を踏まえて機種を選定する必要があります。ただし、コンプレッサの運転方式によって効率の良い負荷率の考え方は異なります。

現行機の負荷率が低い

現状の負荷率が低ければ、現行機よりも出力が低い機種を選定できるかもしれません。下記の式で分かる通り、コンプレッサの消費電力は出力に比例します。出力が低い機種は消費電力が小さく、購入価格も安くなるため、ランニングコストとイニシャルコストの両方を削減できます。

参考:コンプレッサにかかる電気料金

コンプレッサの1時間あたりの電気料金
=モーター出力÷モーター効率×電気料金単価

コンプレッサの1年間の電気料金
=1時間あたりの電気料金×1日の運転時間×1年間の稼働日数×負荷率

また、大きな出力の機種を低負荷で運転させるのは効率の悪い方法です。次でご紹介するようにスクリューコンプレッサなどは低負荷でも停まらず運転し続けるため、無駄が大きくなります。

現行機の負荷率が高い

現状の負荷率が高い場合は、現行機よりも高い出力の機種を選定するか、台数を増やすかを検討する必要があります。

スクリューコンプレッサ、クローコンプレッサの場合

スクリューコンプレッサやクローコンプレッサは負荷率が高い状態で連続運転すると、無駄な電力の消費が少なく効率が良くなります。スクリューコンプレッサを例にとって説明すると、基本的に空気を圧縮していない時でもモーターは停まりません。吸い込む空気量を減らしたり、モーターを空回しさせたりして調整しています。そのため空気を使い続ける用途には適していますが、負荷率が低いと無駄な電力の消費が大きくなります。

インバータ式の機種もモーターの回転数を減らすことで調整しており、停まらない点では同じです。また、インバータ―式のコンプレッサの場合は負荷率が高すぎる場合も電力が無駄になります。インバータ式のコンプレッサが最も効率よく運転できるのは、負荷率が40%~70%程度の時です。

レシプロコンプレッサ、スクロールコンプレッサの場合

レシプロコンプレッサやスクロールコンプレッサは空気を圧縮していない時にはモーターが停まる、圧力開閉器式と呼ばれる制御方式です。圧力開閉器式制御のコンプレッサは必要な時だけ運転するため電力の無駄が少なくなりますが、高負荷で運転し続けるとON/OFFの回数が増えて電装部品の消耗が早く進んでしまいます。電装部品を長持ちさせるには、ON/OFFのサイクルが1分以上になるように余裕をもって機種を選定しましょう。

コンプレッサの負荷率

コンプレッサの負荷率は、コンプレッサが使用する空気量(実際の使用量)を、コンプレッサの吐出空気量(カタログ記載の空気量)で割って算出します。

コンプレッサの負荷率=使用空気量÷吐出空気量

実際の空気量を測定するのに確実な方法は流量計を取り付けることです。流量計には多くの計測方式があり、それぞれメリットとデメリットがあります。流量計についてここで詳しくご紹介はしませんが、取り付けのためには配管を切る必要があったり、メンテナンスの手間がかかったり、配管を切らずに手軽に測定できる流量計は価格が高価だったりと、いずれの方式でもコンプレッサの使用空気量を測るためだけに自社で流量計を購入して常設するのはなかなか難しいと言えるでしょう。

自社で簡易的に負荷率を計算する方法として、コンプレッサの運転時間と停止時間で算出する方法があります。

スクリューコンプレッサなどのロード・アンロード式のコンプレッサの場合は、運転時間・停止時間を負荷運転時間・無負荷運転時間に読み替えてください。時間計が付いている機種なら負荷運転と無負荷運転の累積時間が表示されています。それぞれの累積時間をメモし、一週間後の数字と見比べると、およその負荷率計算に必要なデータを得られます。

負荷率=運転時間÷(運転時間+停止時間)

例:運転時間60秒、停止時間20秒の場合
60÷(60+20)=60÷80=0.75(負荷率75%)

簡易的に算出した数字はあくまで目安です。負荷の変動が激しい使い方をしている場合、負荷が小さいときの測定値を基準にしてしまうと、性能不足のコンプレッサを選定してしまう恐れがあります。可能なら業者に依頼するなどして、できるだけ正確な負荷率を把握するようにしましょう。

コラム:電流値や圧力を測るのは何のため?

コンプレッサの診断には、専門の業者を頼んで測定してもらうことも多いでしょう。その際、流量測定ではなく「電力測定」という言葉を聞いたことはありませんか。

吐出空気量を測らなくとも、電流値からも負荷率が類推でき、運転時間で測るよりはずっと正確なため、多くの業者が電力測定による簡易分析サービスを提供しています。方法としては、電力計を使ってコンプレッサの電流値を測定し、下記の式で負荷率を推測します。電力測定は通常1~2週間ほど実施します。

電流値(実測値)÷定格電流値=負荷率

また、流量や電流値の他、圧力も重要な数値です。供給側の圧力と末端の圧力を測定して差を計算すれば、配管ロスやエア漏れの確認にもなります。

コンプレッサの選定

圧縮空気の用途や現行機の負荷率から次のコンプレッサに求める性能を把握したら、機種を絞り込みます。

コンプレッサのスペックを確認

コンプレッサは圧縮方式などによりさまざまな機種があります。圧縮空気の用途や要求される品質に適したコンプレッサを選定しましょう。

考慮する要素
・給油式かオイルフリーか
・出力
・制御圧力
・吐出し空気量
・運転制御方式
・圧縮段数

参考記事:コンプレッサの選定と圧縮段数

設置場所や周辺への影響を確認

必要な性能が決まったら、あらためてサイズと置き場所を確認しましょう。現行機の置き場はメンテナンススペースが確保できて、吸気と排気の循環が良い場所だったでしょうか。

置き場所で許容できる騒音値や振動についても再確認が必要です。近隣への配慮はもちろん、自社の事務スペースが隣接している場合など、騒音や振動が事務の妨げになっている場合もあります。

周辺機器の確認

コンプレッサを更新する際には、この機会に周辺機器も更新の必要がないかチェックしましょう。また周辺機器のスペックがコンプレッサと釣り合っているかどうかも確認すると良いでしょう。

ドライヤの性能やタンクの容量は十分でしょうか?過去、生産設備側に水が入り込んだりしたことはありませんか?圧力開閉器式制御のコンプレッサが頻繁に運転と停止を繰り返したりはしていませんか?その場合、ドライヤの性能やタンクの容量を上げれば解決する可能性があります。

参考記事:コンプレッサの周辺機器

ブレーカー容量を確認

現行のコンプレッサと後継機が同じ出力でも、新しいコンプレッサは必要な電源容量やブレーカー容量が変更になっていることがあります。トップランナーモーター搭載機は始動電流が大きくなる傾向があるため、漏電ブレーカーの容量アップなどの変更が必要になる場合があります。

オイルフリー化の際は古い配管に注意

オイルフリーコンプレッサは圧縮空気がクリーンであることはもちろん、オイルを含んだドレンを排出しないなど、ランニングコストや環境配慮の観点からも導入が進んでいます。また、2021年のHACCPに沿った衛生管理の完全義務化以降、食品事業者でのオイルフリー化も進み、更新のタイミングでオイルフリー化を検討する事例が増えています。

給油式のコンプレッサを使っていた場合、配管や空気タンクの中にはオイルなどの汚れが残っていますので、注意しましょう。気化したオイルミストはフィルタで捕集できませんので、給油式コンプレッサから供給される圧縮空気に混ざったオイルはフィルタを超えて配管の中に入り込み、こびりついて残っています。これらの堆積した汚れが設備側に流れるリスクがあります。

コンプレッサ更新は見直しのチャンス!

コンプレッサの更新タイミングは、コンプレッサ自体の性能アップだけでなく、エア配管や周辺機器の見直しのタイミングでもあります。

本当に増設する必要がある?

コンプレッサを更新する際は、現行機だけでなく、他のコンプレッサや周辺機器も視野に入れて計画を立てましょう。機種選定の際に使用空気量や圧力を把握することで、配管内のエア漏れや圧力損失の規模を推定することができます。また、空気駆動式の増圧機器を使っている場合は圧縮空気を無駄に捨てている可能性があります。更新による全体の見直しをすることで、増設の必要がなくなるかもしれません。

参考記事:部分増圧で増エネになってしまうケース

予備機設置のすすめ

コンプレッサは機械ですので永久に動くものではありません。故障で停止することがありますし、修理やメンテナンスで一時停止が必要になることもあります。コンプレッサが停止すると、その影響は広範囲に及んでしまうため、バックアップ用の予備機を設置すると良いでしょう。予備機の設置にはいくつものメリットがあります。

生産の中断を最小限に抑えることができる

コンプレッサが停止すると、生産ラインも停止してしまいます。その際に予備機があると生産への影響を抑えることができ、BCP対策になります。

修理やメンテナンスの時間を確保できる

コンプレッサの調子が悪い時は速やかに修理やメンテナンスをする必要があります。また、定期的なメンテナンスをしておかないと結果的に機械の寿命を縮めたり、突然の停止を招いたりしてしまいます。

メンテナンスの間に生産を代替できる予備機があれば、圧縮空気の供給を停めることなく、工場が稼働している最中でもコンプレッサのメンテナンスができます。休暇中にわざわざメンテナンスの予定を立てなくとも良くなるのです。

予備機を設置するだけの予算やスペースが無い場合は、1台で予備機に似た機能を備えたコンプレッサを選ぶ選択肢もあります。1台のコンプレッサの中に圧縮機とモーターが複数搭載されている機種なら、仮に一部が故障で停まった場合でも圧縮空気の供給がゼロになるリスクを低減できます。

参考ページ:バックアップ機のご提案

まとめ

コンプレッサは多くの設備に圧縮空気を供給し、生産現場に欠かせない存在です。エネルギー消費量も多く、更新のタイミングでは十分な検討を重ねる必要があります。また、コンプレッサの更新は、配管や周辺機器など、工場全体の設備の見直しのタイミングでもあります。周囲の設備も見渡して更新計画を立て、圧縮空気系統の改善につなげましょう。

次回はコンプレッサにかかるコストについて解説します。