KAIZEN記事

部分増圧ってどうやるの?② ~省エネ効果を出すポイント~ 2024年3月15日

ひょっとしたら「増エネ」になっているかも知れません

部分増圧について解説するシリーズの二回目は、ブースタコンプレッサ導入時のチェックポイントについてお話しします。ブースタコンプレッサは空気駆動式の増圧機器に比べてエネルギー効率が良く、上手に導入すれば大きな省エネ効果を得られますが、そのためには条件があります。

前回の記事:部分増圧ってどうやるの?① ~増圧機器の違い~
参考記事:コンプレッサの部分増圧で省エネを実現しよう!

部分増圧までの流れ

前回の記事でも触れましたが、コンプレッサの吐出空気の低圧化と部分増圧は下記の順序で進めていきます。

  • ①工場で使用設備の必要な圧力・空気量を調査する
  • ②供給圧力を低圧化した際の空気量を把握し、ドライヤの処理流量を超えていないかも併せて確認する
    *コンプレッサやドライヤのメーカーから性能表をもらい確認
  • ③コンプレッサの供給圧力を下げる
    *この時点で省エネ効果はあるはずです
  • ④圧力の高い圧縮空気が必要な設備でエラーが出る  
    *低圧エラーの対策を準備して調査を実施すると良いでしょう
  • ⑤さらに省エネ効果を高めるために、④の設備以外が正常に動作する圧力を予想し、その圧力に近づける(さらに低圧化を進める)
  • ⑥圧力の足りない部分を増圧する(ブースタコンプレッサを導入する)

ブースタコンプレッサ導入時のチェックポイント

圧縮空気の増圧機器を比べてみて、省エネ効果が高いのはブースタコンプレッサですが、新規の導入や空気駆動式増圧機器からの切り替えの前にチェックするポイントがいくつかあります。

まず空気量が足りているか確認する

今ある設備が圧力不足でたびたび停止していたとしても、本当の原因は供給される空気量の不足、つまり大元のコンプレッサの能力が不足している場合があります。増圧機器は圧縮空気の圧力を上げることができますが、元の空気量以上に増やすことはできません。供給される空気量が足りているかを確認しましょう。

たとえば、供給される空気量は足りているのに途中で放出されていて圧力不足になっているような場合、ブースタコンプレッサに切り替えることで排気される空気を無くし、圧力不足を解消することが出来ます。

余分な排気で圧力不足になっている場合【切替の効果あり】

図1

これに対して元々供給される空気量が足りない場合は、ブースタコンプレッサを導入しても問題は解消されません。供給元のコンプレッサを増設・更新するなど、空気量を増やす対策が必要になります。

供給される空気量が足りない場合【切替の効果なし】

図2

空気の使用量をチェックする

上記では既に空気駆動式増圧機器を使っている例を挙げましたが、まだ増圧機器を使っていない場合でも、必要な空気量の確認は必須です。増圧したい箇所で必要な空気量を確認しましょう。増圧エアを使う設備の取扱説明書や仕様書から、使用する圧縮空気の量を確認します。実際に流れている量を確認することも重要です。空気用の流量計を取り付けて測定しましょう。

既存の空気駆動式増圧機器と入れ替える場合は、既存の増圧機器の稼働状況から消費空気量を調べる方法もあります。以下の条件を調べると消費空気量の予測が可能です。

  • 増圧機器の形式
  • 供給圧力
  • 昇圧圧力
  • 1分間の稼働回数

稼働回数は、ポンポンと音が鳴る排気の回数を測って調べます。周囲の機械の駆動音がうるさくて音を聞き取れない時は、消音器(マフラー)に手を当てて排気の回数を数える方法もあります。周囲に駆動部品が無いことなど、安全を確認して作業してください。

空気駆動式増圧機器は手軽な点がメリットです。空気の使用量が少ないと、ブースタコンプレッサを導入してもコスト的に見合わない場合があります。

ブースタコンプレッサの配置を検討する

空気駆動式増圧機器は工程内に複数台設置されていることがあります。ひとつずつ小形のブースタコンプレッサに切り替えるか、1台の大きなブースタコンプレッサでまとめて増圧するか、自社に合った方法を検討しましょう。

小形のブースタコンプレッサを複数台導入するメリットは、今の設備のレイアウトを大きく変えずに切り替えができることです。ただし、1台ずつ電気を供給する必要がありますし、台数が多い分メンテナンス費用もかかります。

1台でまとめて増圧するメリットは、電源の供給もメンテナンスも1台分ですむことです。デメリットとしては、大きめの設置スペースを確保する必要があること、配管工事が必要になることなどです。また、1台のブースタコンプレッサが故障やエラーで停止してしまうと、増圧エアの供給先の設備全てに影響が出ます。

部分増圧で増エネになってしまうケース

実際に消費電力やコストのシミュレ―ションをしてみましょう。

部分増圧で増エネになってしまうケース

コンプレッサの吐出圧力の低圧化と部分増圧は大きな省エネ効果を得られる手法だとご説明してきましたが、使い方を誤ると省エネどころか必要なエネルギーが増えてしまうことがあります。

例えば圧力が不足している箇所に空気駆動式増圧機器を設置する、これはよくある間違いです。空気駆動式の機器を設置すると、必要な空気量は増えてしまいます。また、増圧機器の入口と出口の圧力差が大きい程消費する空気量も増えます。

実際の例を想定してみましょう。とある設備で1箇所に0.8MPa、100L/minの圧縮空気が必要だったとします。工場エアでは圧力が足りないため空気駆動式増圧機器で増圧すると、駆動に使われる空気量は120L/minほどになります。該当する箇所が10ヶ所あった場合、駆動に使われる空気量は1,200L/minになります。この空気量は、7.5~11kWのスクリューコンプレッサが1台分余計に必要になるということです。

さて、この工程で使われる原料エアは出力37kW・吐出し空気量7㎥/minの性能のスクリューコンプレッサが作っていたとします。供給圧力はコンプレッサを設置したときのまま0.69MPaに設定されており、増圧機器が消費する空気量を含めて6.1㎥/minのエアを供給していました。

この時のコンプレッサの負荷率は 6.1㎥÷7㎥≒87.1% で、1時間に消費する電力は下記になります。

①出力37kW÷モーター効率93.7%×負荷率87.1%≒34.4kW

次に省エネのため、元の供給圧力を0.1MPa下げて0.59MPaにし、今ある10台の空気駆動式増圧機器で対応するとします。供給圧力を0.1MPa下げると約7%の省エネになり、圧力を下げたおかげでコンプレッサが供給する空気量が少し増えて7.1㎥/minになりますが、増圧比が大きくなったため、駆動に使われるエアも140L/minに増え、必要な空気量も合計で6.3㎥/minに増加します。この時の負荷率は 6.3÷7.1≒88.7% に増加、つまり増エネになり、低圧化した分の省エネ効果を減らしてしまいます。

②出力37kW÷モーター効率93.7%×負荷率88.7%×低圧化による省エネ93%≒32.6kW

負荷率が上がっても元のコンプレッサで間に合えばまだ良いのですが、既存のコンプレッサに余裕がない場合は、増エネに加えてコンプレッサを増設する必要が出てきます。コンプレッサメーカーとして増設はうれしいご相談なのですが、この場合は決して正しい使い方ではありません。安易に増設するのではなく、本当に必要な空気量を見極めてお客様に最適なご提案をすることで、課題を根本から解決できると私共は考えます。

このようなケースではブースタコンプレッサの設置がお勧めです。100L/minの圧縮空気が10箇所必要なので、出力0.4kW、吐出空気量260L/min、モーター効率78%のブースタコンプレッサを10台設置したとすると、ブースタコンプレッサの負荷率は 100÷260≒38.5% になります。増圧のために排出されていた140L/min分がなくなり、全体の必要空気量は4.9㎥/minになり、原料用エアを作っているコンプレッサの負荷率も 4.9㎥÷7.1≒69.0% で余裕が出てきます。

原料エア用コンプレッサの必要電力:
37kW÷モーター効率93.7%×負荷率69.0%×低圧化による省エネ93%≒25.3kW
ブースタコンプレッサの必要電力:
0.4kWh÷モーター効率78%×負荷率38.5%×10台≒1.97kW
③必要電力の合計:25.3kWh+1.97kWh≒27.3kW

コンプレッサの負荷率を下げ、消費電力も大きく下げることができました。長い目で見ると電気代に大きな差が出てきます。

ブースタコンプレッサのコストシミュレ―ション

省エネになるパターンにした場合、どのくらいコストを削減できるか見てみましょう。 ある工場で、圧縮空気ラインの見直しをした場合を想定してみます。最初にやることは、使用先の設備で必要になる空気量の確認です。その結果、0.8MPa、300L/minのエアが5箇所で必要になっていました。工場エアの供給圧力は0.4MPaで、この5箇所以外は増圧する必要がありませんでした。そのため空気駆動式の増圧機器を5箇所に設置して、2倍に増圧していました。この機器をブースタコンプレッサに入れ替えたらどれだけコストを削減できるかの計算をします。

300L/minの増圧エアを作るのに、330L/minの原料エアを捨てているとします。この捨てているエアを作るのにかかっているコストが、空気駆動式増圧機器のランニングコストです。

  • 空気駆動式増圧機器の1台あたりの排気量:330L/min=0.33㎥/min
  • 設置数:5カ所
  • エア源のコンプレッサの仕様:出力37kW、吐出空気量7.0㎥/min、モーター効率93.7%
  • 稼働時間:4,000時間/年
  • 電力料金単価:20円/kWh

排気している圧縮空気の1㎥あたりの製造コスト(円/㎥)

=
モーター出力(kW) × 電気料金(円/kWh)

モーター効率(%) × 吐出空気量(m³/min) × 60(min/h)

 

=
37 × 20

0.937 × 7.0 × 60

≒1.88円/㎥

空気駆動式増圧機器が1年間に排気する圧縮空気の総量(㎥)
=1台あたりの排気量(㎥/min)×60(min/h)×台数×年間稼働時間(h)
=0.33×60×5×4000=396,000㎥

これに原料エアの製造コスト:1.88円/㎥をかけると、1年間にかかっているコストは396,000×1.88=744,480円になります。

次に、ブースタコンプレッサに切り替えた場合にかかる費用を計算します。
・ブースタコンプレッサの仕様
出力0.75kW、吐出空気量390L/min、モーター効率78%、5台

300L/minの増圧エアを作る時のブースタコンプレッサの負荷率  
300/390≒77%

ブースタコンプレッサの1年間の消費電力


≒14,808kW

これに電力料金単価20円/kWhをかけると、1年間にかかるコストは  
14,808×20=296,160円 になります。

切り替え前のランニングコストと比べてみましょう。  
744,480-296,160=448,320

切り替え前に比べて年間448,320円のコスト削減になります。 ブースタコンプレッサ5台の導入費用を150万円とすると、約3年と4ヶ月でイニシャルコストを回収できます。 使用する電力が減ったということは、コストだけでなく、排出する二酸化炭素も減らせたことになります。圧縮空気は目に見えないため忘れられがちですが、空気を圧縮したり、さらに増圧したりするには、お金だけでなく燃料などのエネルギー源も消費していることを思い出してください。

まとめ

コンプレッサの省エネを考える際に、供給圧力の低圧化と部分増圧は大きな効果を上げられる手法ですが、部分増圧の手段にも多くの選択肢があります。

意外なところで無駄なコストをかけているかも知れません。一度見直してみてはいかがでしょうか。

KAIZEN記事

部分増圧ってどうやるの?② ~省エネ効果を出すポイント~ 2024年3月15日

ひょっとしたら「増エネ」になっているかも知れません

部分増圧について解説するシリーズの二回目は、ブースタコンプレッサ導入時のチェックポイントについてお話しします。ブースタコンプレッサは空気駆動式の増圧機器に比べてエネルギー効率が良く、上手に導入すれば大きな省エネ効果を得られますが、そのためには条件があります。

前回の記事:部分増圧ってどうやるの?① ~増圧機器の違い~
参考記事:コンプレッサの部分増圧で省エネを実現しよう!

部分増圧までの流れ

前回の記事でも触れましたが、コンプレッサの吐出空気の低圧化と部分増圧は下記の順序で進めていきます。

  • ①工場で使用設備の必要な圧力・空気量を調査する
  • ②供給圧力を低圧化した際の空気量を把握し、ドライヤの処理流量を超えていないかも併せて確認する
    *コンプレッサやドライヤのメーカーから性能表をもらい確認
  • ③コンプレッサの供給圧力を下げる
    *この時点で省エネ効果はあるはずです
  • ④圧力の高い圧縮空気が必要な設備でエラーが出る  
    *低圧エラーの対策を準備して調査を実施すると良いでしょう
  • ⑤さらに省エネ効果を高めるために、④の設備以外が正常に動作する圧力を予想し、その圧力に近づける(さらに低圧化を進める)
  • ⑥圧力の足りない部分を増圧する(ブースタコンプレッサを導入する)

ブースタコンプレッサ導入時のチェックポイント

圧縮空気の増圧機器を比べてみて、省エネ効果が高いのはブースタコンプレッサですが、新規の導入や空気駆動式増圧機器からの切り替えの前にチェックするポイントがいくつかあります。

まず空気量が足りているか確認する

今ある設備が圧力不足でたびたび停止していたとしても、本当の原因は供給される空気量の不足、つまり大元のコンプレッサの能力が不足している場合があります。増圧機器は圧縮空気の圧力を上げることができますが、元の空気量以上に増やすことはできません。供給される空気量が足りているかを確認しましょう。

たとえば、供給される空気量は足りているのに途中で放出されていて圧力不足になっているような場合、ブースタコンプレッサに切り替えることで排気される空気を無くし、圧力不足を解消することが出来ます。

余分な排気で圧力不足になっている場合【切替の効果あり】

図1

これに対して元々供給される空気量が足りない場合は、ブースタコンプレッサを導入しても問題は解消されません。供給元のコンプレッサを増設・更新するなど、空気量を増やす対策が必要になります。

供給される空気量が足りない場合【切替の効果なし】

図2

空気の使用量をチェックする

上記では既に空気駆動式増圧機器を使っている例を挙げましたが、まだ増圧機器を使っていない場合でも、必要な空気量の確認は必須です。増圧したい箇所で必要な空気量を確認しましょう。増圧エアを使う設備の取扱説明書や仕様書から、使用する圧縮空気の量を確認します。実際に流れている量を確認することも重要です。空気用の流量計を取り付けて測定しましょう。

既存の空気駆動式増圧機器と入れ替える場合は、既存の増圧機器の稼働状況から消費空気量を調べる方法もあります。以下の条件を調べると消費空気量の予測が可能です。

  • 増圧機器の形式
  • 供給圧力
  • 昇圧圧力
  • 1分間の稼働回数

稼働回数は、ポンポンと音が鳴る排気の回数を測って調べます。周囲の機械の駆動音がうるさくて音を聞き取れない時は、消音器(マフラー)に手を当てて排気の回数を数える方法もあります。周囲に駆動部品が無いことなど、安全を確認して作業してください。

空気駆動式増圧機器は手軽な点がメリットです。空気の使用量が少ないと、ブースタコンプレッサを導入してもコスト的に見合わない場合があります。

ブースタコンプレッサの配置を検討する

空気駆動式増圧機器は工程内に複数台設置されていることがあります。ひとつずつ小形のブースタコンプレッサに切り替えるか、1台の大きなブースタコンプレッサでまとめて増圧するか、自社に合った方法を検討しましょう。

小形のブースタコンプレッサを複数台導入するメリットは、今の設備のレイアウトを大きく変えずに切り替えができることです。ただし、1台ずつ電気を供給する必要がありますし、台数が多い分メンテナンス費用もかかります。

1台でまとめて増圧するメリットは、電源の供給もメンテナンスも1台分ですむことです。デメリットとしては、大きめの設置スペースを確保する必要があること、配管工事が必要になることなどです。また、1台のブースタコンプレッサが故障やエラーで停止してしまうと、増圧エアの供給先の設備全てに影響が出ます。

部分増圧で増エネになってしまうケース

実際に消費電力やコストのシミュレ―ションをしてみましょう。

部分増圧で増エネになってしまうケース

コンプレッサの吐出圧力の低圧化と部分増圧は大きな省エネ効果を得られる手法だとご説明してきましたが、使い方を誤ると省エネどころか必要なエネルギーが増えてしまうことがあります。

例えば圧力が不足している箇所に空気駆動式増圧機器を設置する、これはよくある間違いです。空気駆動式の機器を設置すると、必要な空気量は増えてしまいます。また、増圧機器の入口と出口の圧力差が大きい程消費する空気量も増えます。

実際の例を想定してみましょう。とある設備で1箇所に0.8MPa、100L/minの圧縮空気が必要だったとします。工場エアでは圧力が足りないため空気駆動式増圧機器で増圧すると、駆動に使われる空気量は120L/minほどになります。該当する箇所が10ヶ所あった場合、駆動に使われる空気量は1,200L/minになります。この空気量は、7.5~11kWのスクリューコンプレッサが1台分余計に必要になるということです。

さて、この工程で使われる原料エアは出力37kW・吐出し空気量7㎥/minの性能のスクリューコンプレッサが作っていたとします。供給圧力はコンプレッサを設置したときのまま0.69MPaに設定されており、増圧機器が消費する空気量を含めて6.1㎥/minのエアを供給していました。

この時のコンプレッサの負荷率は 6.1㎥÷7㎥≒87.1% で、1時間に消費する電力は下記になります。

①出力37kW÷モーター効率93.7%×負荷率87.1%≒34.4kW

次に省エネのため、元の供給圧力を0.1MPa下げて0.59MPaにし、今ある10台の空気駆動式増圧機器で対応するとします。供給圧力を0.1MPa下げると約7%の省エネになり、圧力を下げたおかげでコンプレッサが供給する空気量が少し増えて7.1㎥/minになりますが、増圧比が大きくなったため、駆動に使われるエアも140L/minに増え、必要な空気量も合計で6.3㎥/minに増加します。この時の負荷率は 6.3÷7.1≒88.7% に増加、つまり増エネになり、低圧化した分の省エネ効果を減らしてしまいます。

②出力37kW÷モーター効率93.7%×負荷率88.7%×低圧化による省エネ93%≒32.6kW

負荷率が上がっても元のコンプレッサで間に合えばまだ良いのですが、既存のコンプレッサに余裕がない場合は、増エネに加えてコンプレッサを増設する必要が出てきます。コンプレッサメーカーとして増設はうれしいご相談なのですが、この場合は決して正しい使い方ではありません。安易に増設するのではなく、本当に必要な空気量を見極めてお客様に最適なご提案をすることで、課題を根本から解決できると私共は考えます。

このようなケースではブースタコンプレッサの設置がお勧めです。100L/minの圧縮空気が10箇所必要なので、出力0.4kW、吐出空気量260L/min、モーター効率78%のブースタコンプレッサを10台設置したとすると、ブースタコンプレッサの負荷率は 100÷260≒38.5% になります。増圧のために排出されていた140L/min分がなくなり、全体の必要空気量は4.9㎥/minになり、原料用エアを作っているコンプレッサの負荷率も 4.9㎥÷7.1≒69.0% で余裕が出てきます。

原料エア用コンプレッサの必要電力:
37kW÷モーター効率93.7%×負荷率69.0%×低圧化による省エネ93%≒25.3kW
ブースタコンプレッサの必要電力:
0.4kWh÷モーター効率78%×負荷率38.5%×10台≒1.97kW
③必要電力の合計:25.3kWh+1.97kWh≒27.3kW

コンプレッサの負荷率を下げ、消費電力も大きく下げることができました。長い目で見ると電気代に大きな差が出てきます。

ブースタコンプレッサのコストシミュレ―ション

省エネになるパターンにした場合、どのくらいコストを削減できるか見てみましょう。 ある工場で、圧縮空気ラインの見直しをした場合を想定してみます。最初にやることは、使用先の設備で必要になる空気量の確認です。その結果、0.8MPa、300L/minのエアが5箇所で必要になっていました。工場エアの供給圧力は0.4MPaで、この5箇所以外は増圧する必要がありませんでした。そのため空気駆動式の増圧機器を5箇所に設置して、2倍に増圧していました。この機器をブースタコンプレッサに入れ替えたらどれだけコストを削減できるかの計算をします。

300L/minの増圧エアを作るのに、330L/minの原料エアを捨てているとします。この捨てているエアを作るのにかかっているコストが、空気駆動式増圧機器のランニングコストです。

  • 空気駆動式増圧機器の1台あたりの排気量:330L/min=0.33㎥/min
  • 設置数:5カ所
  • エア源のコンプレッサの仕様:出力37kW、吐出空気量7.0㎥/min、モーター効率93.7%
  • 稼働時間:4,000時間/年
  • 電力料金単価:20円/kWh

排気している圧縮空気の1㎥あたりの製造コスト(円/㎥)

=
モーター出力(kW) × 電気料金(円/kWh)
モーター効率(%) × 口径出流量(m³/min) × 60(min/h)

 

=
37 × 20
0.937 × 7.0 × 60
 

≒1.88円/㎥

空気駆動式増圧機器が1年間に排気する圧縮空気の総量(㎥)
=1台あたりの排気量(㎥/min)×60(min/h)×台数×年間稼働時間(h)
=0.33×60×5×4000=396,000㎥

これに原料エアの製造コスト:1.88円/㎥をかけると、1年間にかかっているコストは396,000×1.88=744,480円になります。

次に、ブースタコンプレッサに切り替えた場合にかかる費用を計算します。
・ブースタコンプレッサの仕様
出力0.75kW、吐出空気量390L/min、モーター効率78%、5台

300L/minの増圧エアを作る時のブースタコンプレッサの負荷率  
300/390≒77%

ブースタコンプレッサの1年間の消費電力

 

≒14,808kW

これに電力料金単価20円/kWhをかけると、1年間にかかるコストは  
14,808×20=296,160円 になります。

切り替え前のランニングコストと比べてみましょう。  
744,480-296,160=448,320

切り替え前に比べて年間448,320円のコスト削減になります。 ブースタコンプレッサ5台の導入費用を150万円とすると、約3年と4ヶ月でイニシャルコストを回収できます。 使用する電力が減ったということは、コストだけでなく、排出する二酸化炭素も減らせたことになります。圧縮空気は目に見えないため忘れられがちですが、空気を圧縮したり、さらに増圧したりするには、お金だけでなく燃料などのエネルギー源も消費していることを思い出してください。

まとめ

コンプレッサの省エネを考える際に、供給圧力の低圧化と部分増圧は大きな効果を上げられる手法ですが、部分増圧の手段にも多くの選択肢があります。

意外なところで無駄なコストをかけているかも知れません。一度見直してみてはいかがでしょうか。