KAIZEN記事
部分増圧ってどうやるの?① ~増圧機器の違い~ 2024年3月1日
増圧手段にも選択肢があります
配管圧力の低圧化と部分増圧はコンプレッサの省エネ手法として効果の高い方法です。以前にも記事でご紹介しましたが、今回はより具体的に、各種増圧機器の違いや、配管圧力の低圧化と部分増圧によって省エネ効果を出すポイントについて解説します。第一回目は、増圧機器の違いについてです。
部分増圧とは?どうして省エネになる?
部分増圧とは何か、あらためて説明すると、省エネの観点でコンプレッサの供給圧力を低くした時に、圧力不足で不具合の起きている箇所を部分的に増圧し、正常に稼働させるようにすることです。
コンプレッサの吐出圧力を0.1MPa下げると、コンプレッサが消費する電力を約8%削減できます。コンプレッサが消費する電力は工場全体の30~40%程度と言われていますので、効果の高い省エネ手法と言えます。低圧化の効果はそれだけではありません。エアは圧力が高くなるほど利用する(消費される)量が多くなりますので、エアブローなどの消費量が減ります。また、配管のエア漏れ量も圧力が高いほど多くなりますので、低圧化すればその分エア漏れによるロスも削減できます。
ところが低圧化を進めていくと、工程の一部に圧力不足になる設備が出てくる場合があります。一部の設備のために全体の圧力を高くしておくのは、エネルギーの無駄が多いと言えるでしょう。他の設備に比べて高い圧力が必要な部分が少ないのであれば、その部分だけ増圧し、全体の圧力を下げられるようにするのが「部分増圧」です。供給圧力の低圧化と部分増圧をセットで運用すると、大きな省エネ効果を見込めます。
部分増圧までの流れ
低圧化と部分増圧を進めていく流れは下記のようになります。
- ①工場で使用設備の必要な圧力・空気量を調査する
- ②供給圧力を低圧化した際の空気量を把握し、ドライヤの処理流量を超えていないかも併
せて確認する
*コンプレッサやドライヤのメーカーから性能表をもらい確認 - ③コンプレッサの供給圧力を下げる
*この時点で省エネ効果はあるはずです - ④圧力の高い圧縮空気が必要な機械でエラーが出る
*低圧エラーの対策を準備して調査を実施すると良いでしょう - ⑤さらに省エネ効果を高めるために、④の機械以外が正常に動作する圧力を予想し、その圧力に近づける(さらに低圧化を進める)
- ⑥圧力の足りない部分を増圧する(ブースタコンプレッサを導入する)
増圧機器の比較
増圧機器には空気駆動式の増圧機器と電気駆動式のブースタコンプレッサがあります。それぞれの違いについてみてみましょう。
エネルギー効率の違い
エアを増圧する手段として良く使われるのが空気駆動式の増圧機器です。手軽なため導入しやすいのですが、圧縮空気をエネルギー源に圧縮空気を増圧しているため、空気のムダが多くなります。空気駆動式に比べてエネルギー効率が良いのがブースタコンプレッサです。電源が必要になりますが、空気のムダはほぼありません。
例として0.4MPaの原料エアを2倍の0.8MPaに増圧する場合をみてみましょう。空気駆動式増圧機器では、320L/minの増圧エアを作るためには670L/minの原料エアが必要です。350L/minはエネルギー源として消費され、捨てられています。
空気駆動式増圧機器
図1
これに対し、ブースタコンプレッサは原料エアを排気することなく、電気を使って増圧します。
ブースタコンプレッサ
図2
空気駆動式の機器が排気している原料エアを電力に換算して比べてみましょう。コンプレッサがエアを作るのに使う電力はモーター効率によって変わりますが、仮に原料エアを作っているコンプレッサの出力が37kWだとして、モーター効率を93.7%、100L/minの圧縮空気を作るのに0.75kWの出力が必要とすると、350L/minの圧縮空気を作るのに必要な電力は 0.75kW×3.5÷0.937≒2.8kW になります。
これに対し、ブースタコンプレッサが320L/minの圧縮空気を作るのに必要な電力は1.0kWほどです。ブースタコンプレッサの消費電力は1/2~1/3程度になります。
昇圧原理の違い
それぞれの昇圧原理について簡単に説明します。
空気駆動式増圧機器の昇圧原理
空気駆動式増圧機器は工場エアを原料としています。図3のように、入口から入ってきた原料エアが駆動室と増圧室に流入し、最初はすべての部屋が同じ圧力で釣り合います(駆動室A=増圧室A=増圧室B=駆動室B)。
空気駆動式増圧機器の仕組み1 ピストンが釣り合った状態
図3
この時、それぞれの部屋を仕切っているピストンは駆動室Aと増圧室Bによって図の右に向かって押されると同時に、駆動室Bと増圧室Aによって反対方向の図の左に向かって押されています。
この状態から図4のように駆動室Bの圧縮空気を排気すると、ピストンを押している力が 駆動室A+増圧室B VS 増圧室A になり、力の関係では2対1になります。
空気駆動式増圧機器の仕組み2 ピストンが動き出した状態
図4
この仕組みはパスカルの原理を応用したものです。密閉された容器の中では圧力は高い方から低い方へ流れ、一定になろうとする性質があります。駆動室Aや増圧室Bの中の空気が内壁を押す力は場所によらず一定になり、ピストンを押す面積が2倍になると、押す力も2倍になります。増圧室Aは2倍の力で圧縮され、増圧された空気が出口から吐き出されます。
ピストンがさらに押し込まれて切替スイッチが押されると、空気の流路が切り替わってピストンが反対方向に動き、今度は増圧室Bの中の空気を増圧します。このように、電気を使わずにピストンを動かして増圧できる仕組みになっています。
入ってきた量の半分を消費して圧力を2倍にする原理ですが、実際には摩擦やピストンの漏れなどのロスがありますので、入ってきた量の半分以上が排気されることになります。
ブースタコンプレッサの昇圧原理
ブースタコンプレッサの昇圧原理はエアコンプレッサの圧縮原理と同じです。モーターがピストンを動かし、原料エアを増圧します。動力源として電気を使いますが、排気される圧縮空気はありません。
ブースタコンプレッサの仕組み
図5
ブースタコンプレッサのメリット
ブースタコンプレッサにはエネルギー効率の良さ以外にもメリットがあります。一覧で見てみましょう。これらは裏返せば空気駆動式増圧機器のデメリットでもあります。
エネルギー効率が良い
原料エアを排気することがないので、前述の通りエネルギー効率が良くなります。
メンテナンスサイクルが長い
空気駆動式増圧機器にくらべ、ブースタコンプレッサは整備や部品交換のサイクルが長くなります。
運転音が静か
空気駆動式増圧機器は駆動の際にポン、ポン、という大きな音がします。この音は圧縮空気が大気に解放される排気音です。駆動している間はずっと連続して鳴っているため、かなりうるさく感じます。それに対してブースタコンプレッサは排気音が無いので、この音に悩まされることはありません。ただし、レシプロ式コンプレッサ特有の駆動音はします。パッケージタイプのブースタコンプレッサは音を内部に閉じ込める構造のため、ある程度騒音を抑えられています。
空気駆動式増圧機器のメリット
空気駆動式の増圧機器にも、手軽さ以外のメリットがあります。こちらも裏返せばブースタコンプレッサのデメリットと言えます。
イニシャルコストが安い
空気駆動式増圧機器の方がブースタコンプレッサより単純な構造ですので安価です。
電源供給が不要
駆動に電気を使わないため、電源を必要としません。
設置が簡単で場所を取らない
電源を必要としないため、置き場所が選びやすくなっています。また、ブースタコンプレッサと比べるとコンパクトで場所を取りません。
防爆エリアで使用できる
電気を使用しないので、防爆エリアでも設置できます。ブースタコンプレッサの場合は防爆エリア外にブースタコンプレッサを設置し、配管で増圧エアを供給する必要があります。
まとめ
いかがでしょうか。低圧化は効果の高い省エネ方法ですが、低圧化を進めていくと、多くの場合圧力の足りない設備が出てきます。そこで壁を突破し、もう一段の省エネを進める手段が部分増圧です。また、増圧機器を何にするかにも選択肢があり、選ぶ機器によって省エネの度合いが違ってきます。
次回はブースタコンプレッサを導入する際のチェックポイントについて解説します。