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暮らしにも、生産現場にも欠かせない「空気圧」とは? 2023年8月4日
身近でも見えない「空気」についてお話しします。
圧縮空気は用途が広く、私たちの暮らしのさまざまなところで使われています。生産現場でもエアコンプレッサで作られた圧縮空気は欠かせないものになっています。
身近な存在だけに、圧縮空気は「あって当たり前のもの」になっていますが、より効果的に利用していくために、基本的な原理や法則について改めて見直してみませんか。今回から3回にわたって、圧縮空気やコンプレッサの基本的な原理について解説します。
空気圧とは?
身近な「空気圧」
私たちの周囲にある空気には圧縮性があります。空気は圧縮すると、元の体積に戻ろうとして押し返す力が生まれます。この押し返す力が「空気圧」です。※図1の黄色い矢印
図1 空気圧の力
空気圧を利用した機器は、さまざまな分野で使われています。例えば、電車や新幹線のドアは空気圧を利用して動かしています。開くときに「プシューッ」と音がするのは、空気を出し入れしている音です。また、歯医者で使われるドリル(エアタービン)も空気圧で動いています。「キーン」という音は空気圧でタービンを高速で回している音です。大型トラックや大型バスなどに使われるエアブレーキも、圧縮された空気の力で車を停車させる仕組みです。
生産現場で使われる圧縮空気
圧縮空気は、生産現場のさまざまなところで使われています。業界や工程を問わず広く使われている用途としては、機械の動力源があげられます。エアモーターやエアシリンダーを使用して、コンベアベルト、ポンプ、バルブ、バルブアクチュエータ、ロボットアームなどを動かしています。また、エアグラインダーやエアサンダーなど、各種エア工具の動力源としても使われています。
使われる業界も下記のように多岐にわたっています。使い方も動力源・それ以外と多様です。
金属・樹脂
圧縮空気を利用して金型を押し付けたり、材料を押し出したりするほか、マシニングセンターやNC工作機械のエアスピンドルやATC(自動工具交換装置)の動力源など、精密加工の分野にも使われています。また、レーザー加工時の発火防止や粉塵の除去にも圧縮空気が使われています。
食料品・飲料品
材料の洗浄や攪拌から不良品の選別、製品の充填・梱包・ラベリングまで、工場のいたるところで圧縮空気が使われています。
化学品・医薬品
作られるものは肥料や工業製品・化学繊維・薬品などさまざまですが、搬送・攪拌・成形・冷却・乾燥などの各工程で圧縮空気が使われています。検査や分析にも使われます。
塗装
圧縮空気を利用して塗料を吹き付けたり、塗料を攪拌・搬送したりします。エアブラシ、スプレーガン、塗料撹拌機、塗料ポンプなどに使われます。
空圧機器は構造が単純で機械を小型化・軽量化しやすいことなど、電動の機器には無いメリットがあります。また防爆仕様も空圧機器の方が安価になります。工場の生産ラインや検査装置の自動化に欠かせないものとして、幅広く利用されています。
空気圧の基本法則
空気圧には基本的な法則があります。
ボイルの法則
温度を変えずに、空気にかかる圧力を2倍、3倍、4倍…としていくと、空気の体積は1/2、1/3、1/4…と逆に小さくなります。圧力を大きくすればするほど体積は小さくなり、
圧力(p)×体積(V)=一定
の法則が成り立ちます。これがボイルの法則(pV=一定)です。
図2 ボイルの法則
例えば、気圧の低い山の上でペットボトルを半分ほど飲んで、そのまま山を降りると、気圧が上がり、体積が圧迫されてペットボトルが潰れてしまいます。
パスカルの原理
密閉された容器の中で静止している流体の一部に圧力を加えると、その圧力は同じ強さで流体のすべての方向に伝わります。
図3 パスカルの原理
例えば、自動車のブレーキを踏むと、ブレーキフルード内の圧力が増加し、それがタイヤのブレーキに伝達され、車は減速したり止まったりします。
流体が閉じ込められている容器の形に関係なく、一点に受けた圧力をすべての方向に伝えるパスカルの原理を利用しています。ブレーキフルードの場合は油圧になりますが、同じ流体である空気圧でも原理は同じです。
圧力の単位
圧力を表す単位
圧力の単位は国際単位系(SI)に準拠したPa(パスカル)に統一されています。Paとは、1平方センチメートルあたりに加わるN(ニュートン)の力を表したものです。空圧機器には大きな力がかかるため、一般的な単位としては百万倍のMPa(メガパスカル)が使われています。以前はkgf/cm2(重量キログラム毎平方センチメートル)が主流でした。MPaとの換算式は下記になります。
1kgf/cm2≒0.0981MPa
現在でも「○○キロ(kgf/cm2)」の単位は使われています。その場合は数字を1/10にすればだいたいMPaに変換できます。
例:5キロ(kgf/cm2)≒0.5MPa
気象分野ではhPa(ヘクトパスカル)も使われます。ヘクトは100倍という意味です。以前は台風の中心気圧を伝える報道では「mbar(ミリバール)」が使われていましたが、こちらもSIに準拠したhPaに切り替わりました。
圧力の測定
圧力を測定する際の表示方法として「絶対圧力」と「ゲージ圧力」があります。
絶対圧力
絶対真空をゼロとした圧力です。空気消費量や流量などを計算する時には、絶対圧力を使います。
ゲージ圧力
大気圧を基準とした圧力です。圧力計(ゲージ)はこの基準で表示されています。地上にいる私たちの上には大気の重さ(大気圧)がかかっており、ゲージ圧は絶対圧力に大気圧を加えた数字になります。 大気圧は地球の海面上の気圧の平均値で、1気圧(1atm)とされ、ほぼ0.1013MPaと等しくなります。
図4 大気圧
ゲージ圧で大気圧より大きな圧力を「正圧」、大気圧より小さな圧力を「負圧」と言い、空気圧の分野で良く使われる言葉です。また正圧・負圧はゲージ圧に関係なく「周囲より高い」「周囲より低い」という意味でも使われることがあります。
図5 絶対圧とゲージ圧
空気を圧縮すると起こる変化
ボイルの法則では、温度と空気の量が一定の場合、圧力と体積は反比例の関係にあります。また、シャルルの法則では、空気の圧力と量が一定の場合、温度と体積は比例の関係にあります。つまり、温度が上昇すると体積も増加し、温度が低下すると体積も減少します。
この2つの法則を合わせると、同じ量の空気は圧縮して体積を減らすと、温度が上がることになります(ボイル・シャルルの法則)。
pV/T=一定
(p:圧力、V:体積、T:絶対温度)
この法則に従ってエアコンプレッサで圧縮した空気は温度が上がっているため、冷却が必要になります。また、コンプレッサが吸い込む空気の温度が高いと、空気が膨張していて密度が低くなっているため、圧縮空気を作るにはより多くのエネルギーが必要になります。空気の温度、体積、密度などが圧縮空気に与える影響については、次回以降で詳しく解説します。
まとめ
生産現場では、空気圧の持つ法則を利用して、さまざまなシーンで圧縮空気が活用されています。空気圧の原理を改めて確認しておきましょう。次回は圧縮空気を作るコンプレッサの基礎について解説します。