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コンプレッサの選定に役立つ基礎知識 ~空気圧の基礎②~ 2023年9月1日

コンプレッサにもさまざまな機種があります。

圧縮空気の基礎知識を取り上げるシリーズの第2回は、コンプレッサの基本についてご紹介します。

コンプレッサは圧縮空気を作り出すための設備で、作り出された圧縮空気はさまざまな空圧機器に使われています。コンプレッサにはいくつか種類があり、それぞれメリットとデメリットがあります。今回の記事が最適なコンプレッサを選ぶ参考になれば幸いです。

前回の記事:暮らしにも、生産現場にも欠かせない「空気圧」とは?

圧縮方式によるコンプレッサの分類

空気は圧縮すると、元の体積に戻ろうとして押し返すエネルギー「空気圧」が生まれます。空気圧のエネルギーを得るために空気を圧縮する設備がコンプレッサです。コンプレッサは圧縮方式により、下記のように分類されます。

図1 コンプレッサの圧縮方式

ターボ型

羽根車を回転させて、その風速をエネルギーに変換する方式です。低圧で大容量の圧縮空気を得るのに適しています。

容積型

気体を密閉空間に閉じ込め、体積を圧縮して圧力を得ます。高圧の圧縮空気を得るのに適していて、一般的な工場では容積型が使われています。容積型はさらに往復式(レシプロ)と回転式(スクリュー、スクロール、クローなど)に分かれていて、製造業ではスクリュー式が最も普及しています。

運転制御方式による分類

コンプレッサは供給する圧縮空気の圧力が安定するように運転を制御する必要があります。代表的な制御方式は下記になります。

圧力開閉式

圧力開閉式のコンプレッサは、運転したり停まったりすることによって圧力を一定の範囲に保つ制御方式です。どのような仕組みかレシプロコンプレッサの場合でご説明します。

コンプレッサが運転を始めると圧縮空気が空気タンクにたまり、タンク内の圧力が上昇して行きます。タンク内の圧力が設定圧力の上限に達すると、圧力開閉器が働いてモータ―の電源が切られ、自動的に停止します。運転を停止した状態で圧縮空気が消費されるなどしてタンク内の圧力が設定圧力の下限に達すると、再び圧力開閉器が働いて電源が入り、運転を再開します。

圧力開閉器は圧縮空気がバネを動かして電源のオン/オフを切り替える構造をしています。圧力開閉式は構造が比較的単純で省エネ性も高いため、多くのコンプレッサに採用されています。機種によっては圧力開閉器の代わりに電子式の圧力スイッチが取り付けられ、圧力センサーがタンク内の圧力を感知するようになっています。

アンローダ式

アンロード(無負荷)運転とは、モーターと圧縮機が運転していても空気が圧縮されない、空回りのような状態のことです。アンローダ式のコンプレッサはロード(負荷)とアンロード(無負荷)を切り替えることによって圧力を制御します。

レシプロコンプレッサの場合で仕組みをご説明すると、空気タンク内の圧力が設定圧力の上限に達するとアンローダという部品が作動し、吸込口の弁を押し開いてアンロード運転に切り替わります。吸込口の弁が開いた状態だと圧縮室が密閉されていませんので、ピストンが上下しても空気は圧縮されません。この状態で圧縮空気が消費されるとタンク内の圧力は徐々に下がって行きます。圧力が下限に達するとまたアンローダが作動して吸込口の弁が元に戻って圧縮室が密閉され、負荷運転に切り替わります。圧縮空気を使い続ける用途に適しています。

デュアル式

これまでご説明した圧力開閉式とアンローダ制御式は、それぞれ圧縮空気を断続的に使う場合と連続的に使い続ける場合に適していますが、短所もあります。圧力開閉式は基本的に省エネですが、モーターが始動する時には瞬間的に大きな電流が流れるため、頻繁に発停を繰り返すとモーターが発熱し、電源のオンオフを行なう電磁開閉器も接点が摩耗してしまいます。アンローダ制御式の場合も空気の消費量が少ないとずっと空回りし続けることになり、電力の無駄が大きくなります。

コンプレッサの発停回数に応じて圧力開閉式とアンローダ制御式を切り替えられるようにしたのがデュアル制御と呼ばれる方式です。人が手動で切り替えるのがマニュアルデュアル制御、自動的に切り替わるのがオートデュアル制御です。

オートデュアル制御の場合、アンロード運転が長く続く場合はコンプレッサが自動的に判断してモーターを停止させます。スクリューコンプレッサの中にはアンロード運転中の消費電力も抑えるように設計された機種があります。

インバータ式

コンプレッサの負荷に応じてインバータがモーターの回転数をコントロールし、圧力が一定の範囲内になるように制御します。負荷率が40%~70%の時に省エネ効果を期待できます。逆に負荷率の低い場合や100%に近い状態ではロスがあります。

給油式コンプレッサとオイルフリーコンプレッサ

コンプレッサには、圧縮室内部にオイルを注入する給油式と、オイルを使わないオイルフリー式があります。それぞれの特徴について解説します。

給油式コンプレッサ

コンプレッサ本体の摺動部分は金属でできているため、焼き付き防止の潤滑油としてコンプレッサオイルを注入します。コンプレッサオイルには圧縮空気が漏れないようにするシールの役割や、圧縮熱や摩擦熱を冷却する役割もあります。

図2

オイルフリーコンプレッサ

オイルフリーコンプレッサは摺動部分の部品に樹脂素材を使って焼き付きを防止したり、潤滑用のグリスが圧縮空気に触れない構造にしたりすることで、オイルが混ざらないクリーンな圧縮空気を作り出せるようにしています。給油式コンプレッサに比べると空気の漏れが多くなりますが、部品の精度を高めて構造を工夫することで、漏れを最小限に留めています。

図3

コンプレッサの性能

コンプレッサの性能は、制御圧力や出力、吐出し空気量によって示されます。

制御圧力

コンプレッサが吸い込んだ空気をどこまで圧縮できるかを示す数字で、圧力を示す単位は「MPa(メガパスカル)」です。2章でご説明した通り、コンプレッサは供給する空気の圧力を設定された上限圧と下限圧の間に保つように制御されています。コンプレッサを選定する際には圧力損失やエア漏れを考慮し、使用する生産設備やエアツールの圧力よりも、コンプレッサの制御圧力の下限圧が0.1~0.2MPa高い機種を選ぶ必要があります。

出力

多くのコンプレッサはモーターの力で圧縮機本体を動かして空気を圧縮します。モーターの出力が大きいほど、コンプレッサから吐き出す空気量が増えます。出力を示す単位は、以前は「PS(馬力)」が使われていましたが、現在は「kW(キロワット)」が主流です。

PSとkWは1PS(馬力)≒0.75kWで換算できます。下記が良く使われる出力の換算表になります。7.5のみkWと馬力で共通の数字があるので注意が必要です。

図4 馬力とkWの換算

コラム 馬力の歴史

「馬力」を最初に出力の単位としたのは、蒸気機関を発明した事で知られるスコットランドの発明家ジェームズ・ワットです。

ワットは蒸気機関を発明したときに、その性能が客観的にわかる単位が必要だと考えました。 実際の馬で何度か実験して統計を取り、標準的な荷役馬1頭の力として、33,000ポンドの重さの荷物を1分間に1フィート持ち上げることのできる力を「1馬力」としました。

つまり、「馬力」とはワットが蒸気機関の売り込みのために作った単位であると言われています。1人の発明家により決められた数値が、国際的に使われるようになったというのは、蒸気機関の発明がそれだけ画期的だったとも言えます。

ジェームズ・ワットの測定後、馬力にもさまざまな単位が生まれました。日本に残っているPSはフィートではなくメートル法に基づいた単位で、ワットの作った馬力とは異なっています。ワットの定義した馬力は英馬力と呼ばれ、ヤード・ポンド法の普及しているアメリカやイギリスでは現在も使われています。

吐出し空気量

コンプレッサが最大出力で運転しているとき、単位時間あたりに作り出す圧縮空気の量を、吸い込んだときの空気の量に換算した数値です。圧縮された圧力での空気量ではないことに注意してください。モーターの出力が大きいほど、吐出し空気量の数値は高くなります。

吐出し空気量の単位は、一般的には「L/min」「m3/min」を使います。コンプレッサが吸い込む空気は温度の変化によって膨張したり縮小したりするため、各メーカーは吸い込む空気の条件を定めています。アネスト岩田の製品情報に記載されている数値は圧力0.1013MPa、温度20℃、相対湿度65%の時の空気量になっています。

1m3/min=1000L/min

他にも「NL/min」「Nm3/min」の単位で表記されている場合もあります。これは、学術的な基準状態(圧力0.1013MPa、温度0℃、湿度0%)で計算したときの空気量です。カタログに記載されている空気量の単位がNL/minだった場合は、この値に係数1.079を乗じると標準吸い込み状態の空気量(L/min)に換算できます。

例:100NL/min×1.079=107.9L/min

100NL≒107Lなので、NLで表記されている場合、L表記に比べて空気量が約7%落ちることが分かります。

一段圧縮と二段圧縮

一般的に普及しているコンプレッサには一段圧縮式と二段圧縮式があります。コンプレッサは空気を取り込んで圧縮して吐き出していますが、一段圧縮機は吸い込んだ空気を大気圧の状態から最高圧まで1回で圧縮します。これに対して二段圧縮機は2回に分けて圧縮します。通常、1回目の圧縮の後に圧縮空気を冷却し、その後2回目の圧縮を行ないます。二段圧縮式コンプレッサは高い圧力を必要とする用途に適しています。

空気は温度が上がると膨張し、密度が低くなるため、温度が高い空気を吸い込んで圧縮すると効率が悪く、エネルギー消費量も多くなります。そもそもコンプレッサで圧縮した空気は温度が上がるため、それを圧縮するにはさらに大きなエネルギーが必要です。

図5 一段圧縮と二段圧縮のイメージ

そのため、圧縮した空気を一度冷却して、その後に再度圧縮する二段圧縮機は一段圧縮機に比べて効率が良い仕組みになっています。二段圧縮機は一段圧縮機に比べて約30%のエネルギー節約になります。

まとめ

コンプレッサにはさまざまな方式、性能のものがあり、圧縮空気の用途や要求される品質や圧力によって適したコンプレッサが異なります。

また、コンプレッサは大きなエネルギーを必要とする機器であり、省エネを意識した選択も重要です。是非今回の記事を参考にしてみてください。次回は圧縮空気の冷却や換気、周辺機器の役割などについて解説します。