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塗装と塗料② ~塗料の種類と機能〜 2024年9月27日

水性と油性、1液と2液。どんな場面で使われているでしょうか?

今回は「塗装と塗料」について解説するシリーズの続きをお届けします。第1回の記事では、古代から近代にいたる塗料の歴史についてお話ししました。第2回は、塗料の種類と、塗料が持つさまざまな機能についてお話しします。

前回の記事 塗装と塗料① 〜塗料の歴史を振り返ってみよう〜

塗料を構成する成分

塗料は主に4つの成分で構成されています。

顔料

顔料は塗料の色彩成分です。顔料によって塗料はさまざまな色を呈しますが、顔料には着色効果のほか、遮熱性や防錆性などの機能を持つものもあります。

顔料が入っていない塗料は「クリヤー塗料」と呼ばれ、無色透明です。一般的には、ニスやワニスなどと呼ばれています。クリヤー塗料は美しい光沢のある仕上がりになり、防水、保護などの役割も持っています。

また、無色透明のクリヤー塗料に微量の顔料を混ぜた塗料は、「カラークリヤ-塗料」と呼ばれます。光の当たり方によって色の変化や深みのある発色が楽しめ、特に高級車や電子製品の外装など、見た目の美しさが重要視される分野で利用されています。


樹脂

樹脂は塗料の主原料であり、塗装された後に固まって塗膜を生成する成分です。そのため、樹脂の性質が塗膜の性質を決定します。樹脂によって耐久性や柔軟性、防水性などが異なります。樹脂にはアクリル、ウレタン、シリコン、フッ素などさまざまな種類があり、目的や用途に応じて選定します。

添加物

添加物は塗膜の性能の向上や、塗装作業のしやすさをサポートする成分です。例えば塗膜の腐食を防止する防腐剤、塗膜の付着力を向上させる可塑剤、乾燥後の気泡跡の発生を防ぐ消泡剤などがあります。

溶媒

樹脂を溶かしたり薄めたりする液体を溶媒と言います。溶媒は大きく分けてシンナーなどの溶剤と水があり、溶媒として溶剤を使ったものが油性塗料、水を使ったものが水性塗料です。塗料を塗布した後、溶媒が揮発することにより、塗膜ができあがります。

塗料の種類

塗料の種類には大きく分けて「水性」と「油性」があります。さらに、使い方の違いにより「1液型」と「2液型」に分類されます。

水性塗料と油性塗料

水性塗料(水系塗料)

顔料や樹脂を溶かす溶媒として水が使われている塗料です。有機溶剤が含まれないためVOC(揮発性有機化合物)の発生が少なく、安全性が高いことが特徴です。その反面、乾きにくく色彩や艶の再現性が悪い、耐久性に劣るなどのデメリットがあります。

湿度が高い日本の環境では、乾きが遅く耐久性に劣る水性塗料は使いにくかったのも事実です。また、工業塗装分野では調色に対する要求基準が厳しいことも水性塗料の普及が遅れた原因になったと考えられます。一方、環境意識の高い欧米諸国では1990年代以降にVOC排出量の規制がすすみ、それに合わせて水性塗料の導入も進みました。日本に比べて乾燥した気候であることも導入のハードルを下げたようです。

近年では耐久性や色艶の再現性に優れた水性塗料も登場し、日本の工業塗装でも水性塗料が使われるようになってきました。

水性塗料のメリット
・作業者への安全性が高い
・臭気が強くない
・一般に引火性がなく保管しやすい
・VOC排出量が少ない

水性塗料のデメリット
・粘度が高く、霧化(スプレー塗装)しにくい
・低温・多湿の環境だと乾きにくい
・色彩や艶の再現性が悪い
・耐久性が低い

油性塗料(溶剤系塗料)

溶媒にシンナーなどの有機溶剤が使われている塗料です。色彩や光沢性に優れ、乾燥が速く、耐久性も高いことから、主に工業塗装用途で広く使われています。デメリットは、臭いが強く、VOCが発生することです。また、引火性が高い液体が多く、保管や管理に注意が必要です。

油性塗料のメリット
・乾燥が早い
・色彩や艶に優れる
・耐久性が高い

油性塗料のデメリット
・有機溶剤中毒への注意が必要
・有機溶剤臭がする
・引火性が高く、管理に注意が必要
・VOC排出量が多い

乾式の塗装ブースで使ってはいけない油性系塗料がありますが、油性塗料全般が使用禁止なわけではありません。アマニ油や酸化重合塗料、速乾性のフタル酸塗料など、一部の塗料はブースのフィルタやバッフル板に堆積すると、乾燥する過程で発熱し自然発火する恐れがあり、注意が必要です。詳しくは塗装ブースや塗料の説明書でご確認下さい。

コラム 自動車塗装は水性と油性どっち?

日本では家庭用や一般住宅用に広く水性塗料が使われ、工業塗装用には主に油性塗料が使われています。自動車塗装はどうでしょうか?やはり色艶の表現や耐久性に優れた油性塗料が多く使われているのでしょうか。

少し前までは油性塗料が多く使われていましたが、完成車塗装は塗装技術の最先端。近年では環境に優しい水性塗料の方が多くなっています。自動車の修理用には油性塗料の方が多く使われてきましたが、完成車塗装の動向を追うように水性塗料の割合が増えています。水性化の動きはさらに加速するでしょう。

また、高級外車では粉体塗料が使われている車種もありますので、自動車補修用の粉体塗料も登場しています。粉体塗料もまた有機溶剤を含まないため、VOC排出量の少ない、環境に優しい塗料です。

1液型と2液型

塗料の種類には水性と油性の分類の他に、1液型か2液型かの分類があります。水性塗料・油性塗料それぞれに1液型のものと2液型のものがあります。これらの塗料は、主な成分である主剤、主剤と混ざって塗膜(樹脂のかたまり)を作り出す硬化剤で構成されています。


1液型

主剤と硬化剤が既に混ぜられており、容器を開けたらすぐに使える状態の塗料です。使い勝手が良く保管もしやすいことがメリットです。1液型の塗料は2液型に比べると硬化して塗膜になるのに時間がかかるため、下地への付きが弱く、耐久性の面では劣ります。

硬化に時間がかかるのには良い面もあります。時間をかけて作業できますし、1度開けた缶を次の日も使うことができます。

2液型

主剤と硬化剤を分けた状態で保管し、使う時に混ぜる塗料です。混ぜると急速に硬化が進み、高い耐久性を持った塗膜を得ることができます。その反面、1度混ぜたらすぐに使わなければなりません。また液剤同士の配合も適正な比率で行なわないと硬化不良が生じるため、使用に際してはある程度の知識と経験が必要です。

塗料の価格は1液型に比べると少し高くなっていますが、長持ちすることを考えるとコスト面で負けてはいないかも知れません。

現在では新しい塗料の開発が進み、2液型には及ばないものの耐久性に優れた1液型の塗料が登場しています。また、主剤と硬化剤の他に特定の機能を持った添加剤を加えて、3液以上混ぜて使うタイプの塗料もあります。

塗装と塗料の役割

そもそも塗料は何のために塗っているものでしょうか?塗料には大きく分けて「美観」「保護」「機能性」の3つの機能があると言われています。それぞれ解説していきましょう。

美観

表面を美しく仕上げ、外観を整えて被塗物の価値を高めます。美しい意匠や色彩のバリエーション、光沢などは製品を魅力的なものにし、付加価値を高めます。

保護

被塗物を日光や雨などの周りの環境から保護し、劣化を防いで長持ちさせます。

防錆、防蝕

被塗物を酸素などのガスや塩分から保護し、酸化や硫化、腐食などを防ぎます。

防水

水分の浸透を防ぎ、被塗物を変質や腐食から守ります。被塗物が金属だった場合の他、木材の場合も防水塗料の塗布は有効です。

機能性

塗料の中には特別な機能が備わっているものがあり、目的によって使い分けます。

遮熱、断熱

遮熱効果がある塗料を建物の屋根や壁に塗ると、熱の侵入を防いで室内温度の上昇を抑え、冷房にかかる費用を削減することができます。天井の高い工場では屋根の下に熱がこもりやすいため、屋根に塗って対策するところが増えています。


抗菌、防汚

銀イオンなどの抗菌・抗ウイルス剤を配合した塗料は医療機器の塗装などに使われています。また、船底の防汚用に使われる塗料は、船底の鋼板をなめらかに保ち、貝や藻などの生物が船底に付着するのを防ぎます。

船底にフジツボなどが付着してデコボコしていると、海水との摩擦抵抗が大きくなり、燃費が悪化してしまいます。汚れを防ぐというよりは、燃料の節約が主目的で塗られる塗料です。

参考 経済産業省 産業技術メールマガジン 省燃費型船舶用防汚塗料

帯電防止、導電性、絶縁性

精密機器はわずかな電気を浴びただけでも品質に影響があります。また、製造業にとって静電気は大敵です。そのため帯電防止塗料、導電性塗料、絶縁性のある塗料など、いずれも活躍の場があります。

参考記事 静電気のはなし① ~静電気とは?工場で嫌われるのは何故?~

まとめ

塗料にはさまざまな種類や機能があり、目的に合わせて選ぶことができます。これまでは耐久性や仕上がりの良さが重視されてきましたが、近年はそれらに加えて環境にやさしい塗料が求められるようになってきました。

次回は環境に優しい塗料とVOC削減の取組みについて解説する予定です。