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静電気のはなし① ~静電気とは?工場で嫌われるのは何故?~2022年10月21日

バチっと痛い静電気は、事故のもとになることも。

空気が乾燥する秋から冬は静電気が発生しやすい季節です。ドアノブなどを触ったときに「バチッ」と感じる静電気は痛くて不快なだけでなく、チリやほこりも引き寄せる困りものです。静電気は製造現場にも大きな影響を与えるため、様々な対策が取られていますが、逆に静電気を利用した技術もあります。

本記事では3回にわたって静電気とは何か、製造現場で取るべき対策、そして塗装と静電気について解説する予定です。1回目の今回は静電気が発生するメカニズムと、製造現場で静電気が引き起こす問題についてお話しします。

静電気はどうして生まれる?

静電気はどのようにして生まれるのでしょうか。静電気が発生するメカニズムについてお話しします。

静電気が発生するメカニズム

私たちの身の回りのさまざまな物質はすべて、原子からできています。原子はプラスの電荷をもった陽子と、電荷をもたない中性子、そしてマイナスの電荷をもった電子からできていますが、原子全体では陽子と電子の数のバランスがとれて電気的に中性な状態になっています。また安定した物質全体でも電気的に中性です。

2つの物質がくっついたり、離れたり、擦れあったりしたとき、片方の物質からもう片方へ電子の移動が起こります。電子はマイナスの電荷を持っていますから、電子を奪った方も奪われた方も電荷のバランスが崩れてしまいます。このバランスが崩れた状態を帯電といい、電子を奪った方の物質はマイナスに、電子を奪われた方の物質はプラスに帯電します。

帯電した物質はちょうど磁石のS極とN極のようにプラスとマイナスが引き合い、プラス同士とマイナス同士は反発しあいます。薄い紙を剥がしたときにくっつき合ってしまったり、ビニール紐同士が反発してまとまらなかったりするのはこのためです。磁石と似ていますが磁力ではなく、クーロン力という力の働きによるものです。

このように物質が帯電によって不安定になっている状態や、それが原因で起こる現象が静電気と呼ばれるものです。

静電気は流れることのできない電気

通常「電気」というと、電線の中を流れる電子(電流)のことをいいますが、静電気はその名の通り、物質にたまって流れていない電気、むしろ流れたくても流れられずにいる電気です。

電線などの金属は導体と呼ばれ、電気を通しやすいため、帯電することはあまりありません。帯電しやすいのは電気を通さない絶縁体で、髪の毛や樹脂などは帯電しやすい物質です。絶縁体に帯電した静電気は流れたくても流れられない不安定な状態で、電流は弱くとも電圧が高く、何かのきっかけで一気に流れやすくなっています。

帯電している物質は電気的なバランスを崩した状態で、安定した状態に戻ろうとします。安定を取り戻そうとした電子が一気に流れるのが放電です。ドアノブやエレベーターのパネルを触った時にパチッと音がするのは放電によって生まれた火花で、痛みを感じるのは指先が感電しているためです。

静電気が発生しやすいのはどんな時?

静電気の発生しやすさは環境や接触する物質によって左右されます。

秋冬は静電気が起こりやすい季節ですが、これは空気が乾燥していて空気中の水分が少ないことが原因です。水は電気を通しやすく、空気中に水分が多ければ帯電していた物質は自然に放電して電気的なバランスを取り戻します。ところが、空気が乾燥した状態だと放電できず、帯電したままになってしまいます。空気が乾燥した環境だと夏でも静電気は発生しやすくなります。

また物質にはプラスに帯電しやすいものとマイナスに帯電しやすいものがあります。髪の毛やガラスはプラスに帯電しやすく、樹脂はマイナスに帯電しやすい性質を持っています。プラスに帯電しやすい物質からマイナスに帯電しやすい物質を順番に並べた表を帯電列といいます。

帯電列の端と端、性質の違う物質同士であるほど静電気が発生しやすくなりますが、一つの物質が常にプラスやマイナスに帯電するわけではありません。プラスかマイナスかは接触した相手によって変わり、より性質の強い物質に従うことになります。静電気対策については次回の記事でお話ししますが、この表はどこで静電気が発生しやすいかを予測し、対策を考えるもとになります。

ちなみに帯電列の中間の物質や同じ物質同士でも、こすり合わせたりすれば多少の静電気は発生します。紙はラップなどに比べれば帯電しにくい物質のはずですが、A4用紙やティッシュペーパー同士がくっつき合ってしまう経験はだれしもご存知でしょう。

製造現場で嫌われる理由

このように静電気が発生すると作業者が不快な思いをするだけでなく、物質同士が勝手にくっついたり反発しあったり、場合によっては放電が起きてしまうため、製造現場では静電気は大敵です。

製造現場では加工屑などの微細な物質が発生していることが多いのですが、これらの微小な物質が静電気の影響を受けるとやっかいです。たとえば帯電したチリやほこりが製品に引き寄せられて付着することがありますが、食品製造の工程であれば異物混入などの大問題に発展しかねません。チリやほこりの付着は電気製品の製造工程であれば接触不良の原因に、塗装工程であれば塗装不良の原因になります。また、一度帯電してしまったほこりはエアブロー等で除去しても、再び舞い戻ってきて付着する可能性があります。

製造している製品自体が小さく軽い場合も静電気の影響が大きくなります。紙やフィルムの製造工程では製品や設備が帯電してしまうと、貼りつきや詰まりの原因になります。また集積回路などの精密機器は、人体が感じないほどの微細な放電でも回路が焼けて、製品自体がダメになってしまいます。

さらに静電気はノイズを発生させるため、装置の信号に干渉して電気設備の誤動作が起こることもあります。

放電によって起こる重大な事故

静電気は製造に様々な影響を及ぼすだけでなく、時に重大な事故の原因にもなります。前述の通り、静電気は不安定で放電が起こりやすい性質を持っています。パチパチと音がしたり光ったりしているのは、放電によって実際に火花が生じているのであり、引火すれば重大な事故につながることもあります。

工場の現場では可燃性のガスや液体、粉体を取り扱う場合が多く、静電気の火花が引火して爆発を引き起こせば大事故になる可能性があります。そのため可燃性の物質を取り扱う工場では静電気に対して細心の注意が払われています。燃料や有機溶剤を扱う場合はもちろんのこと、小麦粉なども空中に舞っていると粉塵爆発を起こす恐れがあります。

引火するような物質が無い場合でも静電気は起こさない方が安全です。放電による感電は不快なだけでなく、人が驚いて思わず手を引っ込めるほどの強さを持っています。製造設備に囲まれた中でそのような現象がおこると、衝突や転倒による事故につながる可能性があります。

まとめ

以上、静電気が発生するメカニズムや静電気の性質、製造現場で起こる影響についてお話ししました。秋から冬にかけては、特に静電気が発生しやすくなります。帯電列の端と端の物質(風船やビニール紐とウールなど)を使って、面白い実験が出来るかも知れません。

一方で事故に対しての注意も必要です。セルフガソリンスタンドには体にたまった静電気がガソリンに引火しないよう、除電シートが設置されていますが、実際に冬になるとガソリンスタンドでの引火事故が多発しています。

次回は製造現場での静電気対策についてお話しします。