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何層塗ってる? ~極薄の自動車塗装の世界~2020年11月27日

何層塗ってる? ~極薄の自動車塗装の世界~

私たちの暮らしの中には様々な色に塗装された品物があります。冷蔵庫などの家電製品から、大きなものでは住宅も塗装されたものの1つです。

中でも最高級の品質と最先端の技術によって塗装されるのが自動車です。自動車は長いものでは何十年もの間毎日風雨や直射日光にさらされ続け、塗装にとって過酷な条件の中で使用されます。そんな過酷な環境の中でも手入れさえ怠らなければ塗装はその輝きを失うことはありません。

そこにはどのような技術があるのでしょうか。今回は自動車塗装についてご紹介します。

自動車塗装の基本は3つの工程

自動車に施される塗装には大きく分けて

  • 下塗り
  • シーリング
  • 本塗り

の3つの工程があります。

長いあいだ品質が劣化しないことはもちろんですが、自動車のボディの素材である金属が傷んでしまわないためにも塗装は重要な役割を果たしています。そのため隅々までしっかりと塗料が行き届くように、基本的に自動車の塗装は各部品ごとに行われています。

下塗り

はじめに行われるのが「下塗り」の工程です。

下塗りには車に使用されている金属の保護だけでなく、その後の塗装(塗料)の密着性を良くする目的があります。

通常、この下塗りの工程は「電着塗装」と呼ばれる塗装が施されます。電着塗装は専用の塗料の入った大きな容器の中に塗装する自動車の部品を漬け込むようにして塗装します。この時自動車と塗料との間に電位差を発生させ、塗料を均一に付着させます。

電着塗装は他の塗装法と比べて均一で強固な塗膜を得ることができる特長があります。そのため、自動車に使われている金属が錆びたり腐食したりするのを防ぐという重要な役割も担っています。また、仕上げに使われる塗料はそのままでは金属との相性があまり良くありません。そのため金属との密着度を高める効果も下塗りには求められます。

下塗りの品質は、最終的な塗装の出来栄えにも大きな影響を与える、とても大切な工程です。

シーリング

次に行われるのが「シーリング」と呼ばれる工程です。

先ほどの下塗りは金属そのものの保護と塗料の密着性向上を目的としていますので、自動車の部品全体に均一に塗装されます。一方、シーリングは必要な場所だけに施されます。

自動車の製造工程では、塗装の後に様々な部品が取り付けられます。その際に、先に仕上げ塗装されていると邪魔になってしまう部分も存在します。そうした仕上げ塗装をしたくない部分や、仕上げ塗装の際に塗料が無駄に溜まってしまう可能性のある隙間などを埋める作業が、「シーリング」です。

シーリングにはゴム製やシリコン製のシーリング材が使われます。もちろんこれらは、その後の仕上げ塗装で使用する有機溶剤に対しての耐性が求められるだけでなく、経年劣化にも対応する必要があるため、多くの場合は自動車専用のシーリング材が使用されています。

本塗り

いよいよ最後に行われるのが本塗りです。この本塗りの工程で使用する色が、その自動車の色ということになります。

本塗りはその工程が自動車塗装のなかでも最も長く、高度な品質管理が求められる工程です。また本塗りと一口に言ってもその工程は複数回に分かれていて、使う塗料も複数あります。

本塗りの工程は、初めに車の色を決める塗料を塗布する「中塗り」「上塗り」、そして最後に塗装に光沢と耐久性を与える「クリアー塗装」の工程に分けて塗装されます。

中塗り

本塗りの中で最初に行われるのが中塗り工程です。

下塗りで形成された電着塗膜は本質的に耐光性が悪く、この中塗りで多めの顔料を使って透過光線を遮断しています。次工程の上塗りの色によって数種類の明度の中塗り塗料を使い分け下地を覆い隠します。

上塗り

上塗りは指定のボディーカラーになる色を塗っていく工程になります。

塗料は一度に多く吹き付けると液だれの原因になる可能性があるため、上塗りでは薄い皮膜を何回にも分けて吹き付けていきます。吹付ける回数や乾燥に要する時間は各自動車メーカーやボディーカラーによって様々ですが、多い場合には6回以上に分けて皮膜を形成していきます。

クリアー塗装

塗装の最終工程で使われるのが「クリアー」と呼ばれる塗料です。

この塗料は文字通り透明に近い塗料で、色が鮮明になる効果や、塗料を保護し塗装の寿命を延ばす効果があります。

自動車は塗装技術の最先端

自動車は世界中で生産され、各社がその品質を競い合う工業製品です。そのため、自動車には最先端の技術が数多く採用されています。電気自動車や燃費を向上させる技術、衝突回避ブレーキなどの技術と並び、塗装も最先端の技術を採用しています。

ここまでご紹介してきた自動車塗装の厚みは、シーリング部分を除くとわずか100μmになります。これは髪の毛の太さ程度の薄い膜です。

自動車の新車1台を塗装するのに、およそ4kgの塗料を使うと言われます。

『4kgの塗料が自動車全体に髪の毛程度の厚みで均一にムラなく塗られていること』

が、どのくらい難しいことかご想像いただけるでしょうか。DIYでテーブルや椅子を作ると仕上げにニスを塗りますが、最後の工程で塗り重ねに失敗してムラになってしまった経験のある方もいらっしゃるでしょう。広い面積を均一に塗り上げるには高い技術力が必要です。このように自動車の塗装には最高峰の技術が採用されているのです。

塗装の強度はもちろんですが、見た目の美しさや均一さなど求められる品質も高く、各社とも日々改善や新技術の開発に取り組んでいます。近年は環境負荷に対して注目が集まり、クリーンな塗装環境のニーズも高まりを見せるなど、自動車の塗装ラインは日々進化を続けています。