KAIZEN記事
エア配管を見直してみよう!① 〜圧力損失とその原因〜 2023年11月24日
作った空気を使用先に届ける役割をしています。
ものづくりを支えるコンプレッサ。コンプレッサで作られた圧縮空気を供給先の設備まで届ける役割を担うのが、エア配管です。
コンプレッサで作られた圧縮空気は配管を通る間にいくらか圧力が失われてしまいます。圧縮空気は生産現場に欠かせないものですので、配管での損失を少なくすることは、省エネや生産性向上にもつながります。
今回から3回にわたって、エア配管についてシリーズで解説します。第1回は、圧力損失についてご説明します。
圧力損失とは
圧力損失の影響
エア配管における圧力損失とは、コンプレッサで作られた圧縮空気が配管を通過する際に摩擦や空気の渦によって運動エネルギーが減少し、圧力が低下する現象を指します。
圧力損失が大きいと供給先の設備で必要な圧力を得ることができず、作業に影響が出ることがあります。工作機械などの設備は圧力が不足すると停止してしまい、作業に与える影響も大きくなります。また、配管内で失われた圧力は、その分エネルギーの無駄になってしまいます。
圧力損失の低減が生む相乗効果
例えば、ある配管系統にコンプレッサが0.8MPaの圧縮空気を供給していたとします。配管内やドライヤ、フィルタなどを経由するうちに圧力が失われ、末端の設備に届く時には0.5Mpaになっていたとします。
図1
この例で生じている無駄は、途中で失われた圧力だけではありません。末端で使う設備を動かすのに0.5MPaの圧力が必要な場合、途中で増圧するのでなければ、コンプレッサの方で0.8MPaの圧縮空気を供給し続けなければなりません。
コンプレッサは吐出圧力が高いほど大きな動力を消費します。もし圧力損失を全体で0.2MPa以内に抑えられれば、コンプレッサの吐出圧力を0.7MPaに下げることができ、約7%の動力の節約になります。
また、エア漏れの空気量は圧縮空気の圧力にそのまま比例します。エア漏れは新設の配管でも起きており、設置以来メンテナンスをしていないような配管では漏れ率が30%~40%に達している例もあります。コンプレッサの吐出圧力を0.8MPaから0.7MPaに下げられれば、1/8(12.5%)のエア漏れを低減できることになります。
圧力損失の改善・供給圧力の低圧化・エア漏れの改善などは互いに相乗効果を生みだし、省エネ効果を高めることができます。
圧力損失の主な原因
運動エネルギーが失われる原因
圧力損失は圧縮空気の運動エネルギーが失われる現象であるとご説明しました。では、どのような時に運動エネルギーが失われるのでしょうか?原因はいくつかあります。
一つ目は、配管の壁面との摩擦です。気体も固体や液体と同じように壁にぶつかり、こすれるとそこで運動エネルギーを消費してしまいます。
二つ目は、空気の渦や乱流です。配管内部の形状が複雑になっていると空気がまっすぐきれいに流れず、本来の方向と違う向きに流れる渦が発生してしまったり、あちこちを向いた乱れた流れが生じてしまったりします。これらも運動エネルギーが失われる原因です。ちなみにまっすぐに流れている状態を層流、乱れた状態を乱流といいます。
それでは摩擦や渦、乱流が発生する原因をチェックしてみましょう。
配管の長さと内径
圧力損失の計算は複雑なためここではご紹介しませんが、圧力損失は配管の長さに比例します。つまり配管が長いほど圧力損失も大きくなります。また、配管の内径サイズが小さすぎると内壁との摩擦が大きくなり、圧力損失も大きくなります。
複雑な配管
配管が曲がっているとそこで摩擦や渦が生じ、圧力損失の原因になります。また、曲がる角度が急であるほど圧力損失も大きくなります。設計の都合上急な角度で曲げなければならない場合は、曲がりの半径を大きくすると圧力損失を抑えることができます。
図2
配管が狭くなっている箇所(配管の狭窄)は当然圧力損失の原因になりますが、逆に配管が急に広くなっている箇所でも圧力損失はおこります。図3のように、配管の内径が急に拡がると、そこで本来の流れとは違う方向に流れる渦が生じてしまうからです。
図3
配管はなるべくまっすぐ、曲がりや狭窄、内径の変更などが無い方が良いことがお分かりいただけたでしょうか。
バルブ・配管の継ぎ目
空気の流れを妨げるバルブも圧力損失の原因になります。全開にしたときにあまり流路を妨げない構造のバルブ(ボールバルブなど)を選定すると、スムーズに空気が流れるようになります。また、工場の中で開き方が中途半端なバルブはありませんか?一度チェックしてみましょう。支障がなければバルブは全開にしておきます。
配管の継ぎ目で段差(内径の変更)が生じている場合も同じです。多くの工場ではねじ込みの配管を使っていると思います。継ぎ目部分で圧力損失が発生するのは仕方のない事ですが、配管を敷設するときに継ぎ目がなるべく少なくなるように設計して、内側に段差ができないようにしましょう。
配管内部の錆・汚れ・ドレン
配管内部に汚れが溜まっていたり錆が付着していたりして空気の通り道が狭くなっていると、これも圧力損失の原因になります。また新しくてなめらかな配管に比べると、内部が汚れや錆でザラザラの配管は摩擦も大きくなります。
配管の中に大量のドレンが溜まっているような場合も空気の流れを妨げ、圧力損失の原因になります。コンプレッサは空気と一緒に水分も吸い込んで圧縮するため、圧縮空気の中には体積比で周囲の大気の数倍の水分が含まれています。圧縮空気とともに吐き出された水分はタンクや配管の中で冷却されて凝縮し、ドレンになってタンクや配管の底に溜まります。ドレンは毎日排出するようにしましょう。
空気の速度
配管内を流れる流体の速度(流速)も圧力損失に関わってきます。配管内を流れる空気の速度が速いほど摩擦が大きくなり、圧力損失が大きくなります。
圧縮空気の速度は配管の内径や流量の影響を受けるため、適切な内径の配管を選ぶことが大切です。コンプレッサが供給する空気の流量については、必要な量を供給するように計算されているはずですが、省エネのためにコンプレッサの供給圧力を下げる場合などは注意が必要です。空気は圧力が下がればその分体積が増え、流れる空気量も増えることになります。
配管以外での圧力損失
配管とは少し異なりますが、コンプレッサで作られた圧縮空気が使用先に届くまでの間に、フィルタやドライヤでも圧力損失が起こります。フィルタが詰まっていると空気の流れが妨げられることは容易に想像ができますね。
ドライヤに関しては、冷凍式のドライヤなどで圧縮空気を冷やす際に空気が通る経路があまり狭いと、圧力損失が大きくなります。コンパクトなドライヤは便利ですが圧力損失が大きくなることがありますので、選定の際には留意しましょう。
圧力損失の対策
エア配管の設計・見直し
配管の手直しは費用と時間がかかるものです。後から直さなくて済むよう、新設の際にはよく考えて設計することや設備増設の際にも経路を見直すことが大切です。前述の通り、配管は太く、短く、できるだけまっすぐな方が圧力損失は少なくなります。
配管が余分に延長されている部分があれば無くした方が良いでしょう。一方、既存の配管に新たな配管を付け足すことで圧力損失を低減できる場合もあります。これについては次回でご紹介する予定です。
定期的なメンテナンス
フィルタの詰まりや溜まったドレンは圧力損失の原因です。エアブローやエレメント交換、終業後のドレン抜きなどを実施し、空気の流れを妨げるものは除去するようにしましょう。
フィルタやドライヤの適切な設置
フィルタの設置順にも注意が必要です。目の粗いフィルタから細かいフィルタへと、順番に設置しないとすぐに詰まってしまいます。
ドライヤも圧力損失の原因になるとお話ししましたが、こちらも吐出空気量に見合った性能のドライヤを設置することで、圧縮空気の水分を除去し、ドレンの発生を低減できます。
まとめ
コンプレッサの消費電力は工場全体の電力使用量の約30%を占めています。できる限り配管内の摩擦や空気の乱流がおこる原因を減らし、スムーズな空気の流れを作り出すことが、圧力損失を減らすために大切です。
次回は圧力損失を減らし、省エネルギーにつながる配管の見直しについて解説します。