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冬場の低温に注意!~低温が設備に与える影響~ 2024年2月9日

冷え込んだ日は注意が必要です

1月後半から2月の前半は日本でも一番寒い時期です。寒さが厳しいだけでなく、日本海側では大量の雪が降ります。普段は雪が降らない関東以南でも、時として思わぬ大雪に見舞われることがあります。

雪や凍結による交通への影響はニュースなどでよく見聞きしますが、冬の気象は工場の設備にも大きな影響を与えます。どんなことに注意すれば良いでしょうか?今回は冬場の低温の影響と対策について解説します。

冬の気象と湿度

「冬場は乾燥する」とは良く聞く言葉ですが、反対に「冬は結露が発生して湿っぽくなる」とも聞きますね。ちょっと整理してみましょう。

温度と飽和水蒸気量の関係

これまでにも何度かご紹介しましたが、飽和水蒸気量のグラフを見てみましょう。

温度と飽和水蒸気量のグラフ

図1

空気は温度が高くなるほど多くの水蒸気を含むことが出来ます。反対に気温が下がると空気が含むことが出来る水蒸気の量(飽和水蒸気量)が少なくなり、空気の中に含むことができなくなった水蒸気が結露し、水滴になって出てきます。冬場は部屋の空気が乾燥する一方で、窓には結露が発生することになります。

工業用で使われる接着剤に湿気硬化タイプと呼ばれるものがあります。家庭用では瞬間接着剤と呼ばれる種類も同じ仲間です。この接着剤は空気中の湿気に反応して架橋反応が始まりますので、湿度の低い冬場は硬化するまでに時間がかかることがあります。湿度の低すぎる地域では硬化しないので、湿度の低い地域用に調整することもあるそうです。

冬の気候が設備に与える影響

気温の下がる冬場には結露が発生しやすくなり、発生した結露は周囲の低温にさらされて凍結しやすくなります。この結露や凍結が設備に大きな影響を与えることになります。詳しく見て行きましょう。


凍結の影響

圧縮空気系統で凍結が起こる原因

コンプレッサは周囲の空気と共に、空気に含まれる水蒸気も吸い込んでいます。圧縮された空気は高温になりますが、通常は高温のままの空気を使うことはしません。コンプレッサから吐き出された圧縮空気は空気タンクやドライヤ、配管を通るうちに冷やされて、空気に含むことができなくなった水分は水滴になって出てきます。この水滴をドレンと呼び、ドレン処理装置などから排出されます。冬場にはこのドレンが凍結してしまうことがあり、不具合を引き起こすことがあります。

ドレン処理装置の凍結

ドレン処理装置の中の水(ドレン)が凍結すると出口が詰まってしまい、適切に排出されなくなります。そうすると圧縮空気の中に水分が含まれたまま配管や使用先の装置に供給されてしまい、悪影響をもたらします。

ドレン処理装置の凍結

図2

凍結を防ぐ対策はいくつかあります。まずはコンプレッサやドライヤを設置する際には周囲の温度が2℃~40℃の場所を選定する必要があります。それでも温度が下がり過ぎてしまう場合は保温材を巻いたり、暖房器具を使用したりすることも検討してください。また、ドレン処理装置が手動の場合は終業時に必ずドレン抜きをしておきましょう。

配管の凍結

エア配管が屋外などの気温の低い場所を通っている場合は、配管の凍結にも注意する必要があります。配管の中のドレンが凍結すると空気の通り道が狭まり、圧縮空気の供給量が減ったり、配管の中で圧力損失が起きて圧力が低下してしまいます。

配管の場合も、凍結の恐れのある場所は保温材で覆うことなどが対策になります。また、配管の途中にドレンが滞留しないよう、設置する際に配管に1%以上の勾配を付け、ドレン抜きを設けると良いでしょう。

参考記事:エア配管を見直してみよう!③ 〜配管の結露と腐食の対策〜

エアドライヤの凍結

エアドライヤは圧縮空気の水分を取り除く役割を担っています。水分を除去する方式で主なものは3通りで、冷凍式ドライヤ・吸着式ドライヤ・中空糸膜式(メンブレン式)ドライヤがあります。このうち手軽で良く使われるのは冷凍式ドライヤですが、冬場には凍結の恐れがあります。

冷凍式ドライヤは冷媒ガスを使って圧縮空気を冷却し、水蒸気の結露を促して空気と水を分離しています。凍結が起こるのはこの空気から分離したドレンです。冬場にドライヤから供給される圧縮空気が停まったり、圧力が大きく下がったりした場合は、ドライヤの中でドレンが凍結している可能性があります。

ドライヤの凍結を防ぐ対策としては、やはり周囲温度が2℃以上の場所で使用すること、それでも低温になる場合は保温材や暖房器具を使うこと、終業時に忘れずドレンを抜くことなどです。寒冷地や屋外など特殊な条件化で使用する場合は、凍結しにくい吸着式ドライヤを選定するのも対策になりますが、冷凍式ドライヤに比べるとエネルギーの無駄が多いという難点があります。

コラム 圧力下露点

吸着式のドライヤは「露点が低いドライヤ」と言われます。露点とは空気が冷やされて結露が起こる時の温度で、露点が低いほど低温でも結露が発生しにくいことになります。

ドライヤなどを選定する際には露点が重要な指標になりますが、この「露点」には通常圧力で測定する「大気圧露点」と、大気圧より高い圧力下で測定する「圧力下露点」の2通りがあります。「圧力下露点」はタンクや配管内で結露が発生する温度、「大気圧露点」は圧縮空気を使用する時、つまり大気に放出された時に結露が発生する温度とも説明されます。

エアハンドリングユニットの凍結

エアハンドリングユニットは工場などの大空間の空調に使われる装置で、換気や温度と湿度の調整の他、空気清浄や脱臭も含めた役割をまとめて引き受けています。塗装室の空調にも使われ、「エアハン」とも呼ばれています。

冬はエアハンドリングユニットの凍結にも注意する必要があります。ここまでご紹介したようなドレンによる凍結とは原因が違いますが、塗装で使っているお客様もいらっしゃると思いますのでご紹介します。

エアハンドリングユニット本体の中に、チラーから供給される冷水を使った冷却コイルが設置されている場合、このコイルが凍結する恐れがあります。コイルが凍結すると空調が停止してしまう他、万一凍結が原因でコイルが破損してしまうと大規模な修理が必要になります。本来は冬になる前に外側の制御配管から水抜きをしておく必要がありますが、もし忘れていたら、温かい日に水抜き操作をしておきましょう。

対策としては毎年冬になる前に水抜きをすることです。寒冷地の場合は水の抜けやすいコイル(オールヘッダコイル)を設置したり、不凍液を使用したりすることもありますが、いずれもコストがかかります。

冬場の結露の影響

ここまでは凍結の影響についてご紹介しましたが、凍結しなくとも結露は圧縮空気や塗装の大敵です。

結露が引き起こす塗装不良

湿度の高い梅雨の時期には「白化」「ブラッシング」と呼ばれる塗装不良が発生しやすくなります。塗面がデコボコになり、つやの無い、白く濁ったような仕上がりになります。これは、乾いていない塗面から溶剤が急速に蒸発することで気化熱が発生し、結露して水滴が付着することが原因です。

この症状は温度と湿度の高い時期だけでなく、気温の低い冬場にも発生することがあります。夕暮れ時など短時間で急に気温が下がり、かつ終業時間で部屋の空調や機械を止めてしまい部屋の気温が下がると、塗装した製品が乾燥する前に結露が発生してしまうことがあります。

冬場の白化対策としては、塗装場所の温度を適切に管理すること、空調がない場合は、冬場の作業はなるべく暖かい時間帯におこなうことなどです。また、コンプレッサから供給される圧縮空気に水分が混ざっていても白化の原因になります。冬場は揮発の早い冬用シンナーが使われる事が多いのですが、揮発速度を調整することでも白化対策ができます。ただし、添加剤などを使って揮発速度を調整すると色味が変わってしまう事がありますので、塗料メーカー等に相談されることをおすすめします。

コラム 温暖化しているのに厳冬?

地球が温暖化しているはずなのに冬が寒くなった、と感じることはありませんか。最近の研究で、温暖化が冬の冷え込みに影響を与えていることが明らかになってきました。

温暖化によって北極海の海氷が解けて熱が放出され、北極付近の温度と日本やヨーロッパなどの中緯度地方の温度差が小さくなると、北極を取り巻く気流の勢いが弱まり、極寒の大気が中緯度地方にまで流れ込んでしまうのだそうです。一見矛盾しているように思える現象ですが、温暖化対策の重要性を再認識させられますね。

まとめ

冬の寒さは機械だけでなく、塗料やホースなどにも影響を与えます。

塗料や液剤は温度によって粘度が変わります。水でも40℃と5℃では粘度が異なり、温度が低くなると流動性も悪くなります。目視ではわからないような粘度の変化でも、塗料ホースの中を通りにくくなってスプレーの塗料噴出量に影響を与えます。また、粘度が高ということは微粒化しにくくなるので、同じ条件で噴霧すると霧の粒が粗くなります。塗装面が荒れるなどの影響があります。

冬の寒さは結露や凍結だけでなく、さまざまな工程に大きな影響を与えます。毎年寒くなるまえに備えをしておくようにしましょう。