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粘度のはなし ~塗料と粘度の関係~2021年1月29日

粘度のはなし ~塗料と粘度の関係~

前回は粘度(絶対粘度)と動粘度についての記事でした。
サラダオイルとオリーブオイルの微妙なさらさら感の違いを表す指標のお話です。

粘度とは、流体の中の物体の動きにくさを表す指標です。
例えば、サラダオイルとオリーブオイルはどちらがさらさらでボトルから出やすいかとか、歯磨き粉をチューブから絞り出す時の出にくさ、という抵抗力を表します。

前回の記事はこちら

今回は製造業での事例、特に塗装で使用する塗料と粘度の関係について説明します。

塗料の粘度と塗装品質

塗料の粘度は塗装の品質に大きな影響を与えます。塗料の粘度が高くなると、刷毛やローラーで塗装するときには一度で厚く塗りやすくなります。粘度が低ければ、薄く塗れるので塗り重ねしやすくなります。

逆に言うと、粘度が高い場合は塗料の伸びが悪くなり、ムラになりやすくなります。粘度が低い場合はムラになりにくいのですが、垂れやすくなります。

このように、塗料の粘度を調整することで厚塗りと薄塗りを調整することができます。同じ量の塗料を使っても、粘度によって塗る面積と塗装の厚みに大きな差が出ることがおわかりいただけたでしょうか。DIYで刷毛やローラーを使って塗装したことのある方は想像しやすいのではないかと思います。

スプレー塗装の原理

さて、スプレー塗装について考えてみましょう。エアースプレーガンは、ノズル先端から出る液体の塗料に圧縮空気をぶつけ、圧縮空気が膨張・拡散する力を利用して液体を霧にしています。液体の塗料粘度が変化すると、どのようなことが起こるでしょうか。

粘度が低い場合は圧縮空気の圧力が低くても、細かい霧にすることができます。粘度が高い場合は圧縮空気の圧力を高くすると細かい霧を作ることができます。

刷毛やローラーと同じように、粘度の低い場合は薄塗りができるようになり、高い場合は厚塗りができるようになります。また、スプレーガンは塗料を細かい粒子にして吹き飛ばしますので、霧の細かさが塗面の均一さに影響を与えます。

吹き付け空気圧力が高すぎると粒子が細かくなりすぎるので、ワークに付着する効率が下がります。吹付け空気圧力と粒子径、付着効率の関係については別の機会に説明したいと思いますので、今回は割愛します。

このように、吹き付け空気圧力と塗料の粘度は塗面の仕上がりに影響を与えます。塗装条件に吹き付け空気圧力が必要になるのは、このような理由からです。

スプレーと粘度の関係

粘度が高くなるということは、流体の形が変化しにくくなるということです。つまり、液体は霧になりにくくなります。これは圧縮空気の力不足で、流体の形を変えられない(変えにくくなる)ことが原因です。

塗料の粘度が高くなると、低い時と同じスプレーの状態にするには、より大きなエネルギーが必要になります。最初に決めた『適正な吹き付け条件』では、おなじように塗装することができません。解決するためには、吹き付け空気圧力を高くする、ということです。

これが塗料の粘度が高くなった時に不具合が起こる原因の1つです。ただし、塗料の粘度に合わせて吹き付け空気圧力を変更すると、塗装条件を変えることになります。

また、1つの塗料で1種類のワークを塗る時に、条件をいくつも管理しなければなりません。管理するのに多くの手間がかかることになりますので、現実的ではありません。そこで、塗料の粘度管理を実施する必要があるのです。

塗料の粘度管理

塗装するときに条件を一定にすることは当たり前ですが、その中には粘度の管理も含まれます。塗料の調合をする際、塗料ごとに調合するレシピがあります。主剤1に対して、溶剤○○という割合です。狙いの膜厚と作業性を考慮して決めるものですが、ここに粘度が大きく影響します。

塗料の粘度が高くなる理由はいくつかありますが、主な要因は下記が挙げられます。

  • 溶剤が揮発する
  • 主剤と硬化剤が反応する(反応時間)
  • 塗料の消費期限切れ
  • 温度が低い

溶剤の揮発について

塗料は調合してから時間が経つと、溶剤が揮発して粘度が高くなります。最低限、朝昼晩の3回ぐらいは粘度の確認と調整が必要です。

反応時間

塗料には主剤と硬化剤を混合するタイプのモノがあります。

これらの塗料は混合すると反応が始まり、一定時間を過ぎると反応しすぎて塗装できなくなります。時間は、塗料メーカーからポットライフ(可使時間)○○分、と指示されます。このような塗料は必ずポットライフ内で使用するので、粘度を確認することはないかもしれません。

塗料の消費期限切れ

塗料にも食品と同じように消費期限があります。消費期限を過ぎると酸素と反応したり、成分が沈殿して凝集したりすることで粘度が上がることがあります。

液体の温度

液体の一般的な性質に、温度が下がると増粘する、というものがあります。冬場にハチミツをホットケーキにかけようとしたときに、なかなか出てこなかった経験のあるかたは多いのではないでしょうか?

夏場は簡単にかけられたと思います。冬場でもハチミツのボトルを湯煎するとさらさらになって、かけやすくなりませんでしたか?これが温度に影響を受ける粘度の変化です。

粘度の高い液体だけでなく、塗料でも気温や液温によっておこる変化なのです。

グラフを見るとわかりますが、液剤aは液温が10℃以下になると急激に粘度が高くなります。5℃ぐらいのときは、900mPa·s、だいたいガムシロップと同じぐらいの粘度です。

液温が20℃の時に200mPa·s程度になりますので、ギリギリ塗装できそうな粘度になります。液剤bの場合も温度が低いと粘度が高いのですが、20℃ぐらいになると100mPa·s程度で塗装しやすい粘度になります。

粘度の測り方

粘度は塗装条件を決めるときには粘度計で測定することを推奨しますが、計測器なので高価です。各塗装現場に置いておくことは現実的ではないかもしれません。

そこで、簡易的な粘度カップで確認することが一般的です。これは穴の開いている容器から塗料が流れ出す時間を測定するもので、多くの塗装現場で使用されています。

まとめ

塗料の粘度変化は、塗装品質に大きな影響を与えます。

揮発による粘度の変化だけでなく、液温にも気を配る必要があります。調合室やポンプ室は作業者が頻繁に立ち入らない場所ですが、空調を入れて室温を管理したり、液温を一定にすることで塗料の状態を保つことが可能です。

現場での粘度変化の確認と合わせて、塗料の保管されている環境についても、改善の目を向けるべきではないでしょうか。