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ロスを改善し、稼働率を上げる設備管理とは? 2023年6月9日

事前に防ぐには、日々メンテナンスが必要です。

3回にわたってお話しする設備管理シリーズも最終回になりました。第1回では設備管理の目的と稼働率について、第2回では設備の6大ロスとその改善ステップについてお話ししました。3回目の今回は、設備の6大ロスのうち前回ご紹介しきれなかった不良ロス・立ち上がりロス・速度ロスの3つと、ロスを防ぐ設備保全の考え方について解説します。

第一回の記事
設備管理の指標「稼働率」はどこを見れば良い?

第二回の記事
稼働率に大きな影響を与える「設備の6大ロス」とは?

設備の6大ロス(つづき)

生産現場で稼働率に大きな影響を与える設備の6大ロス。今回は不良ロス・立ち上がりロス・速度ロスについて解説いたします。

図1

不良ロス

不良ロスとは?

不良品の発生によって生じるロスです。不良品が発生すると廃棄や手直しが必要になるため、材料や加工コストの損失に加え、時間の損失が生じます。

不良ロスの影響

不良品が増えると、良品率や直行率は低下します。さらに手直しが発生すると時間稼働率も低下します。また、原因究明のために設備を停止させた場合、正味稼働率が低下するなどさまざまな方向に影響が及びます。

不良ロスの対策ポイント

不良品の発生原因を調査する必要がありますが、手直しして良品になった分のロスは見過ごされがちなため、注意が必要です。トラブルの内容を調査して取りまとめ、再発生しないように根本的な対策を取ることが必要です。

コラム 歩留まり・良品率・直行率の違い

  • 分留まり・・・投入された原材料に対して得られた製品の割合。
  • 良品率・・・投入数に対する良品の割合。手直しして良品になったものは良品に含む。
  • 直行率・・・投入数に対して、手直しすることなく良品になる割合。

図2

参考記事:歩留まりと直行率の違いを説明できますか

立ち上がりロス

立ち上がりロスとは?

生産ラインを立ち上げたりする際に生じるロスです。生産開始時から安定するまでに生じる時間的ロスや物量ロスを指します。例えば、機械のセットアップ、試運転や調整などの作業によって生じるロスです。

立ち上がりロスの影響

立ち上がりから安定するまでの間に生産速度が下がれば、速度稼働率が低下します。また、立ち上がり時には試し打ちなどによる立上げ品が発生する場合があります。立上げ品も量が多ければ歩留まりを悪化させます。生産設備が立ち上がった後、稼働が安定するまでは不良品の発生も増えやすくなり、良品率や直行率も下がることが考えられます。

立ち上がりロスの対策ポイント

立ち上がりロスを減らすには、生産前の作業手順の見直しや自動化、設備の改善、作業員のトレーニングなどが必要です。

速度ロス

速度ロスとは?

生産設備の設定スピードに対して、実際の稼働スピードが遅い状態になっていることで生じるロスです。

速度ロスの影響

速度ロスの影響はサイクルタイムから計算する速度稼働率にそのままあらわれますが、実際のところ速度ロスをチェックするために使う指標は性能稼働率で、速度稼働率と正味稼働率の積で求めます。正味稼働率は設備が一定のスピードで安定的に稼働しているかどうかを見る指標です。そのため、正味稼働率とそこから算出する性能稼働率には、速度ロス以外にもチョコ停などの小さなトラブルの影響も含まれてきます。

過去2回の振り返りも含めて、実際の例で見てみましょう。とある設備の導入から3年後に稼働率をチェックすることにしました。設備は朝9時から夕方5時までの8時間操業しており、昼休みの1時間は休止しているため、この設備の負荷時間は7時間(420分)になります。導入から3年後、チョコ停などで停止する時間が1日に10分×2回生じるようになっており、稼働時間は6時間40分(400分)に低下していました。

また、導入直後は製品を1日に105個製造できていましたが、3年後には80個しか製造できず、不良品も5個発生して出来高は75個になっていました。この設備の状況を表にすると下記になります。

図3

まず速度稼働率を見てみましょう。
速度稼働率=基準サイクルタイム÷実サイクルタイム=4/5=80%

次に正味稼働率を求めます。
正味稼働率=加工数量×基準サイクルタイム÷稼働時間=80×4÷400=80%

上記の二つから性能稼働率が求められます。
性能稼働率=速度稼働率×正味稼働率=80%×80%=64%

おさらいのために、第1回の最後にご紹介した設備総合効率をもう一度算出してみましょう。

設備総合効率=時間稼働率×性能稼働率×良品率

まず時間稼働率を算出します。この例では下記になります。
時間稼働率=稼働時間÷負荷時間=400/420=約95.2%

良品率は下記になります。
良品率=75/80=約93.8%

設備総合効率=時間稼働率×性能稼働率×良品率
=95.2%×64%×93.8%=約57.1%

いくつもの要因が積み合わさって、総合的には4割以上のロスを生じていますが、その中に速度ロスの影響が含まれていることが分かります。

速度ロスの対策ポイント

速度ロスを減らすためには、設備の能力を基準どおり発揮できていない原因を明確にする必要があります。原因としては、例えば設備の老朽化やメンテナンス不足、作業者の教育やトレーニングの不足などが考えられます。また、設備の摩耗防止や不良品の視認のために稼働スピードをわざと遅くしている可能性もあります。その場合もスピードを低下させるに至るまでの経過を調査すべきといえます。

ロスを起こさない設備保全

ここまで設備ロスについて述べてきましたが、生産設備は時間とともに劣化し、ロスが増えていくことは避けられません。けれども、時間経過後も設備が万全な状態で稼働できるように維持する「設備保全」に取り組んでいくことで、設備ロスを最小限に抑えることができます。設備保全は、大きく「事後保全」と「予防保全」に分けることができます。

事後保全とは

事後保全とは、故障や不具合などのトラブルやロスが発生したら対処するという考え方に基づいたアプローチです。すでに問題が発生してから対処することになるため、悪いイメージで語られることもありますが、すぐに交換できる部品などは事後保全が主な対応になります。予防保全にかける工数と事後保全で及ぼす影響を比較して選択すると良いでしょう。

また、設備の機能が低下していることによるロスは、発生してからトラブルに気づくことが多いため、事後保全が主な対策手段になります。もちろん、生産活動に大きな影響を及ぼすような重要な設備が故障してから対処するような事態は、できれば避けたいところです。

予防保全とは

予防保全とは、故障や不具合などのトラブルを未然に防ぐために、定期的な点検やメンテナンスをするという考え方に基づいたアプローチです。つまり、問題が発生する前に、決められた期間で決められた内容の保全業務を行って対処することになります。

予防保全は、生産ラインの停止時間を最小限に抑え、修理費用も抑える効果が期待できます。また、従業員の安全を確保し、設備の寿命を伸ばす効果もあります。

設備保全のポイント

事後保全は故障が発生した後に対処する考え方で、予防保全は故障を未然に防ぐ考え方です。設備ロスを減らす観点では、できる限り予防保全の考え方に基づき、短期間で点検や交換を繰り返したほうがトラブルを防ぐことができますが、一方で予防保全を過剰に行うとコストがかかります。

生産活動に与える影響度や故障からのリカバリーにかかる時間やコストを考え、事後保全と予防保全を組み合わせて、現実的で効率的な設備保全を実現することが大切です。 また、予防保全に関しては寿命の事前チェックができる設備も増えています。適宜取り入れて人的コストを削減しながら予防保全を進めることをおすすめします。

まとめ

設備ロスを減らすためには、すでに起こっている設備ロスを減らす取組みだけでなく、並行してあらかじめロスが生じないようにする予防保全のアプローチも重要です。

ロスを減らして稼働率をあげていくことは、必要な生産性を確保するとともに、BCPにもつながります。長期的な視点を持って取り組んでいきましょう。