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稼働率に大きな影響を与える「設備の6大ロス」とは? 2023年5月19日

設備の6大ロスとは?

生産現場で稼働率に特に大きな影響を与える要因として、「設備の6大ロス」があります。6大ロスを最小限に抑えることが、生産効率の向上やコスト削減につながります。

図1

今回の記事ではこのうち3つ、故障ロス・段取り替えロス・チョコ停ロスについて、それぞれの意味やロスが稼働率に与える影響、対策のポイントについて説明し、合わせてロスの改善ステップについても解説いたします。

故障ロス

故障ロスとは?

生産設備の故障により生じるロスです。生産ラインが停止する時間的なロス、生産量が低下したり不良品が増えたりする物量ロスなど、さまざまな形で影響を及ぼします。

故障ロスの影響

故障ロスは生産ラインを停止させてしまうので、停止している時間は設備を稼働させることができません。例えば、7時間の負荷時間で、故障のために1時間の停止時間があったとすると、稼働時間は6時間になります。

稼働時間(6時間)÷負荷時間(7時間)=約86%

上記の例だと、時間稼働率が約14%低下していることになります。さらに、故障からの立ち上がりの際、サイクルタイムが通常よりも遅くなったり、不良品が発生して良品数が少なくなったりします。そのため、速度稼働率や良品率にも影響を与えます。

故障ロスの対策ポイント

故障ロスを減らすには、定期的なメンテナンスや点検を行うことで設備の信頼度を高め、異常があればできる限り早期発見する技術が必要です。各設備の取扱説明書に記載されている日常点検は、自身ですぐに始められる対策の1つです。また、故障が発生してから復旧までの時間を最小にする技術も求められます。設備に対する知識を深めておけば、故障内容から自身で処置できるのか、メーカーに依頼すべき内容かを判断することもできます。

他にできる対策として、予備機の用意があります。故障機と入れ替えることで、稼働を停止せずに故障機を修繕することができます。加工機などの大きな設備は予備機の用意は難しいため、消耗部品のスペアを持っておけば部品摩耗による故障に対して備えることができます。

段取り替えロス

段取り替えロスとは?

生産ラインの製品切り替え時に生じるロスです。製品を切り替える際は、材料や工具を入れ替える必要があります。前の製品の材料や工具の取り外しと清掃、次の製品の材料や工具の取り付けと調整にかかる時間がロスになります。

近年は少量多品種・短納期のニーズが強いため、段取り替えロスが起きるケースが増えています。塗装工程での少量塗布作業などは典型的な例で、色替え時の洗浄で機器の設定をリセットし、次の色の吐出量をセッティングするのに時間がかかってしまう場合があります。

段取り替えロスの影響

生産ラインの製品切り替え時に生じる段取り替えロスは、生産ラインが停止してしまえばその時間分の時間稼働率が低下します。例えば、7時間の負荷時間で1日に一時間×2回の段取り替えによる停止があったとすると、稼働時間は5時間になります。

稼働時間(5時間)÷負荷時間(7時間)=約71%

段取り替えロスの対策ポイント

段取り替えロスを減らすには、段取り作業の手順や時間を明確にし、動作や待ち時間を削減する標準化や、設備稼働中に行える工程を先に行う並行化、段取り替えや調整を自動化する方法があります。

チョコ停ロス

チョコ停ロスとは?

故障ではなく、部品が詰まるなど一時的なトラブルのために設備が停止したり、空転したりして生じる「ちょっとした停止によるロス」です。ひとつひとつの停止時間は短くても、積み重なると大きなロスになります。

チョコ停ロスの影響

チョコ停はわずかな停止なので記録として残らないことが多く、見逃されがちです。けれどもチョコ停が発生すると、以下のような復旧の手間が発生し、ロスが生じています。

  • 1.停止した設備を認識
  • 2.チョコ停が発生している場所とチョコ停の原因を把握
  • 3.チョコ停の原因を排除し、設備を復帰、再スタート

チョコ停ロスが起こると、正味稼働率(加工数量×実サイクルタイム÷稼働時間)が低下します。また、稼働時間に対する正味稼働時間を示す指標の性能稼働率(正味稼働率×速度稼働率)も低下します。

チョコ停ロスの対策ポイント

設備が停止したあとの復旧は現場の作業者が行い、停止時間が短いので記録に残らないことが多く、見逃されがちなロスです。まずはチョコ停ロスを顕在化させることが大切です。設備のモニタリングを実施し、チョコ停や段取り替えによるロスを細かく記録します。

チョコ停のたびに記録するのは負荷が大きいので、あくまで期間限定で実施します。紙に記入するのが難しい現場であれば、音声でとりあえずロス時間と停止理由を録音しておき、後でデータとしてまとめる方法もおすすめです。

設備ロスの改善ステップ

設備ロスを減らすために必要な取組みについて紹介します。設備ロスの改善は下記の4つのステップで行います。

図2

ステップ1:現状の把握

生産現場では日々さまざまなロスが生じています。設備の6大ロスがどのくらい起きているのか、まずは現状を把握することが大切です。設備を稼働している時間、稼働していない時間が把握できたら、さらに稼働していない時間を「計画停止時間」と「予想外停止時間」に分けます。ここで、時間稼働率と正味稼働率の差を測ります。チョコ停ロスや段取り替えロスが多く起こっているほど、時間稼働率と正味稼働率の差が大きくなります。

時間稼働率=稼働時間/負荷時間
正味稼働率=加工数量×サイクルタイム/稼働時間

前述の例で、負荷時間7時間、稼働時間6時間(360分)、加工数量100個、サイクルタイム3分としてみましょう。

時間稼働率=6時間/7時間=約86%
正味稼働率=100×3分÷360分=約83%

時間稼働率と正味稼働率に3%の差が出ていることが分かります。自社に置き換えた際、時間稼働率と正味稼働率の差が大きい場合は大きな課題ですが、気落ちすることはありません。改善の余地があり、生産効率を上げられるということになります。

ステップ2:重点改善項目の設定

設備ロスが顕在化すれば、課題は明確になり、特に重要な改善項目も絞り込むことができます。ここで気をつけたいことは、従業員に課題を提示して個々の意識改革に任せても、大きな改善には繋がらないことです。プロジェクトチームを立ち上げて、課題と対策を共有しながら、全員参加ですすめることが大切です。

<プロジェクトチームで実施すること>

  • 改善に必要なメンバーを集め、プロジェクトの責任者を決める
  • プロジェクトメンバーで課題を共有する
  • プロジェクトメンバーひとりひとりの役割を明確にして、責任範囲を明確にする
  • 目標を明確にする(正味稼働率◯%アップなど)
  • プロジェクトメンバーから全員に課題と具体的な改善方法を提示し、全員参加で進める

ステップ3:効果測定

プロジェクトメンバーを中心に全員参加で改善活動をスタートしたら、できれば週単位でプロジェクトの進捗状況を責任者に報告したり、相談したりするフローを作ります。また、成果が明確に見えることが改善活動を続けるモチベーションになるので、定期的にモニタリングを実施して改善活動の結果を計測し、全員で共有します。

ステップ4:標準化

目標が達成されたら、ここまで続けてきた作業レベルを今後も続けていけるように、稼働率の進捗状況を共有する仕組みを継続・標準化していくことが理想です。 第1回で紹介した稼働率の指標を活用して埋もれがちなロスを顕在化し、生産現場を改善する仕組み自体を、他の工程の課題解決にも応用していきましょう。

まとめ

今回は設備の6大ロスのうち3つのロスについて、影響や改善策をご紹介しました。設備のロスは、生産稼働率にさまざまな影響を与えます。ひとつのロスによる影響が広範囲に及ぶため、総合的な指標である総合設備稼働率が大きく落ち込むこともあります。総合設備稼働率は国際的な生産管理の指標である「ISO22400」での評価基準になっているため、他社に比べて低い場合は企業価値を低下させかねません。稼働率を上げるためには、設備ロスをできる限り減らすことが大切です。

次回は残り3つのロスである速度ロス・不良ロス・立ち上がりロスと、ロスを事前に防ぐ設備管理の手法について解説します。