KAIZEN記事
直行率を下げる要因は?人的ミスだけではない、本当の理由2022年3月18日
まずは現状の把握から。
製造業において、規模・工程数の大小を問わず、生産性を高めることはものづくりの基礎です。生産性の向上を常に把握し、数字を上げていく取り組みを行うことが、品質を高めることにつながります。
今回は直行率をアップするためのポイントをご紹介いたします。現場ごとに直行率アップへのアプローチはさまざまですが、できることから取り組んでみましょう。
直行率とは
直行率とは、生産工程のパフォーマンスを表す指標のひとつです。生産ラインへ投入された原材料が、途中で不良品として脱落したり、手直し品として寄り道したりせず、直接に製品へ至る割合で、総合合格率とも言います。
直行率は、以下の計算式で導きます。
立ち上げ品とは、設備が立ち上がってから合格品が生み出されるまでの間に出てくる品物です。例えば、樹脂成型の機械は、樹脂の溶け具合が不十分で固形分が混ざってしまったり、材質の粘性が落ち着かずにバリが多くなったり、立ち上げ当初は品質がバラつきがちです。立ち上げ品の廃棄が発生することは避けられないものとも言えます。
不良品は、廃棄処分されるものです。損金に直結するので、対策を実施し、効果を検証するPDCAサイクルを回し続け、できる限り減らすことを目指します。
手直し品とは、不良品として廃棄するほどではないものの、製造ラインから一度外し、不具合箇所を手直ししなければならないものです。手直しすれば合格品になりますが、手直し工数分のコストが追加で掛かります。
直行率を上げるポイント
直行率を下げている要因の把握
直行率を高めるためには、まずは直行率を下げている要因を把握することが必要です。
生産計画が明確化され、全体に共有されているかを再点検しましょう。生産計画を従業員がハッキリと把握しないまま漫然と作業を続けていることが、直行率を下げている根本的な要因になっていることが非常に多いです。
次に、具体的な要因を調査、分析します。
不良品と手直し品が多いと直行率が下がりますが、発生する主な要因は以下です。
- 作業ミス(ヒューマンエラー)
- 社内体制の不備や作業手順の共有不足
- 材料不良
- 計画外作業
これらも深堀りすれば、さまざまな課題が重なり合っています。例えば、ヒューマンエラーは、すべてがミスをした従業員のスキル不足や意識の低さに理由があるわけではありません。部品の取り付け間違いは、生産管理のミスと言うこともできます。図面のデータが古かったり記載が複雑で間違いやすくなったりしていることが理由ならば、設計図や管理者のミスになります。
直行率を下げている要因を分析して、より適した生産工程を構築できるようにする必要があります。
社内体制、管理体制、作業内容の見直し
ほぼすべての工程で人が関わる工場の場合、直行率を下げている理由を人的ミス、つまりヒューマンエラーとしてしまいがちです。ヒューマンエラーの原因は従業員だけにあるわけではなく、社内体制や管理体制にもある場合が非常に多くあります。
そこで、根本的な原因を探るためには、作業の管理体制を改めて見直してみましょう。
- 作業ステップや設定された標準時間に無理はないか
- 指示書はわかりやすく正確か
- 従業員への技術指導は十分か
- 計画外作業
などを見直していきます。
スキルに関わることだけでなく、従業員の作業環境やモチベーションアップへの取り組みなど、広い範囲で見直していきましょう。
設備の点検
直行率を下げる原因として見落としがちなのが、設備不良です。生産設備の性能が低下していると、不良品や手直し品の増加につながります。
定期的なメンテナンスはもちろん必要ですが、毎日の作業前の点検や清掃もトラブル防止になります。ほこり、振動などの影響が出ていないか、生産現場を細かく観察してみましょう。
生産管理システムの導入
直行率を上げるために「直行率低下の要因の把握」「体制や作業の見直し」「設備点検」を挙げましたが、すべてを徹底するのは非常に難しいものです。しかし、生産管理システムを導入すれば、これらの生産情報を一元管理・共有することが可能となります。
特に、何よりも重要な現状を分析し、直行率を下げている要因を見極める際に、生産管理システムは大きな力を発揮します。
- 製品不良分析
- 製品の追跡
- 可否の判断
などを自動的に「見える化」できるようになり、業務が効率化されます。
ただし、システム導入のコストはまさにピンキリです。また、システムを導入することが目的になってしまうと、結局運用されなくなってしまいます。システムを導入する際は、導入目的を明確にして、最適なシステムを構築できるように検討を重ねてください。
直行率アップの事例紹介
直行率アップの取り組みをしている企業の事例をご紹介します。
事例1:マークシートによる製造現場の見える化を実現
マークシートのシステムを自社構築し、作業工数を把握することで直行率を高めた事例を紹介します※1。
高知県の金属加工業者では、まず作業工数を把握する取り組みをスタートし、マークシートのシステムを活用した工数収集システムを自社構築しました。収集データは、製品別の部品ごと工数や実時間、直行率を製品ごとに出すことができるようになっています。
これにより、作業工数が把握でき、製造工数や直行率の算出が可能になりました。また、職人のスキルもはっきりと評価できるようになりました。こうして製造現場の見える化ができたことにより、生産性アップへの具体的な取り組みができるようになりました。今後は、職人のスキルアップなどへつなげていく予定です。
事例2:品質不良の原因追及で廃棄ロスを低減
二つ目は、不良品の発生要因を調査した結果、廃棄ロスを大幅に削減した事例です※2。
長野県にある食品工場では、主力商品である油揚げの生産工程で大量の廃棄ロスが発生しており、改善に取り組みました。それまでは選別工程で不良品をまとめて廃棄していましたが、原因調査のために不良のタイプ別に廃棄箱を用意し、それぞれ数量を調査して原因を分析しました。
その結果、特に数が多かった不良品は、製品の一部が固くなるというものでした。原因は、材料を撹拌する時に出る凝固物が混入することでした。改善後は攪拌機の凝固物を定期的に除去することで、廃棄ロスを42%も削減することが出来ました。
こちらの事例ではカイゼンの専門家を招聘して社長自身が陣頭指揮をとったことで、社員の意識が変わり、全社的な活動につながったことも成功のポイントです。
直行率アップのためには、広い視点で生産現場を見直そう!
直行率を改善する取り組みを進めることは、品質を向上させるとともに、収益的にも大きなプラスになります。そのためには、ヒューマンエラーだけに着目するのではなく、広い視点で生産現場を見直すことが必要です。まずは直行率低下の要因を分析し、できるところから直行率アップの取り組みを進めていきましょう。