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設備管理の指標「稼働率」はどこを見れば良い? 2023年4月21日
「稼働率」にもいろいろあります。
生産現場のIT化や高度化が進み、設備の不具合や故障によるロスが今まで以上に大きな損失につながるようになりました。そのため、設備管理の重要性がますます高まっています。そこで今回から、改めて設備管理について知ってもらうために3回シリーズで解説します。第1回の今回は、設備管理の基本と稼働率について取り上げます。
設備管理はなぜ大切なのか?
設備管理とは、生産設備や建物の保守点検、動作や劣化状態の確認、部品の交換などを行い、設備の機能を維持するための作業全般を指します。特に製造業では、設備管理のクオリティが生産活動に大きく影響します。「設備が故障したから修理する」「設備がエラーを出したから点検する」のではなく、故障やエラーが起こらないようにする設備管理を行うと、以下のようなメリットがあります。
生産効率アップ
設備管理を適切に行うことで、機械設備の劣化を最小限に食い止めることができます。設備は導入してから時間が経つほど老朽化し、確実に性能は劣化していきますが、こまめなメンテナンスを行うことで劣化を防ぐとともに、その時点での最大能力で稼働できます。設備の最大能力で稼働できれば、生産性を高めることができます。
生産ロスを削減し、機会損失を回避する
設備の故障やエラーを設備管理によって未然に防ぐことができれば、生産ロスを回避することができます。特に設備の高度化が進んだ昨今は、故障が起きるとその対応に莫大な時間がかかることがよくあります。
設備が止まると、その間は製品が製造できないために機会損失に繋がりますし、さらに止まっている間の人件費も無駄になります。こまめなメンテナンスには時間と手間がかかりますが、それは結果的に多大なロスや機会損失を回避することになります。
従業員の安全保障
設備の故障は従業員の事故につながる恐れがあります。生産現場において、従業員の安全第一は言わずもがなの鉄則です。そのためには、設備の安全性を高めるこまめな点検やメンテナンスなどの設備管理が欠かせません。
生産効率を表す指標「稼働率」
設備の生産能力がどのくらい有効に利用されているかを示す指標が「稼働率」です。稼働率は視点によってさまざまな指標が算出されます。主な指標を解説します。
時間稼働率
負荷時間に対する実際の稼働時間の割合です。負荷時間とは設備に負荷をかける時間のことです。例えば設備を勤務開始から終了まで動かすとして、勤務時間が8時間、休憩が1時間だとすると、負荷時間は7時間になります。稼働時間とは、負荷時間から予定外の停止時間(時間外停止)を引いたものです。例えば、7時間の負荷時間で段取り替えや設備のエラーにより1時間の停止時間があったとすると、稼働時間は6時間になります。
時間稼働率=稼働時間/負荷時間
上記の例で計算すると、稼働時間6時間/負荷時間7時間≒86%の時間稼働率となります。
正味稼働率
一定のスピードで安定的に設備が稼働しているかどうかの持続性を算出する指標です。単にスピードが早いか遅いかの指標ではなく、遅いなら遅いでそのスピードでどれほど稼働したかを示します。チョコ停や調整による停止など小さなトラブルの有無と、それに伴うロスを明確にする指標です。
正味稼働率=加工数量×サイクルタイム/稼働時間
例えば、1日の加工数量が100個、サイクルタイムが3分、稼働時間が6時間とすると、100×3分÷360分≒83%の正味稼働率となります。
※サイクルタイム…一つの製品を作る工程に実際にかかる時間。稼働時間/生産数量で求めることが出来る。
速度稼働率
正味稼働率はスピードに関わらずロスを明確にする指標ですが、速度稼働率は標準スピードに対する実際のスピードがどの程度かを示す指標です。
速度稼働率=基準サイクルタイム/実サイクルタイム
例えば、基準サイクルタイムが2分、実サイクルタイムが3分だとすると、2分÷3分≒67%の速度稼働率となります。
性能稼働率
稼働時間に対する正味稼働時間を示す指標です。時間稼働率が高くても、スピードを下げて生産していたかもしれません。このような時間稼働率に現れない速度によるロスを算出する指標です。
性能稼働率=正味稼働率×速度稼働率
例えば、上記の正味稼働率83%と速度稼働率67%をかけ合わせると、約56%の性能稼働率となります。
設備総合効率
国際的な生産管理の標準化指標である「ISO22400」は、設備総合稼働率(OEE)を評価基準としています。設備総合効率は、稼働率、性能、品質などを算出し、それをかけ合わせることで総合的な設備効率を評価します。
設備総合効率=時間稼働率×性能稼働率×良品率
※良品率
良品率は生産数(加工数)に対する良品の割合です。
良品率=良品数/生産数(加工数)
これまでの数値をかけ合わせると、時間稼働率86%×性能稼働率56%×良品率90%≒43%の設備総合効率となります。
設備総合効率(OEE)を始めとしたISO22400による指標は、異なる業種で異なる製品を製造していても同じ基準で評価できることが特徴です。導入すれば自社の設備や製造工程を客観的に評価することができますし、投資家や取引先に対して自社の管理能力や生産性の高さを示すこともできます。
稼働率アップのポイント
稼働率が低いということは、設備の生産能力に対して実際の稼働が低い状態にあることを示します。稼働率を上げる主なポイントを紹介します。
設備のロスを削減する
稼働率を上げるには、生産工程を見直し、地道に無駄をなくして生産性を上げることが、遠回りのように見えてもっとも確実で効果の大きい方法です。特に取り組めば結果が出やすいのが、設備の生産性を上げることです。
例えば、トラブルやエラーによるライン停止が頻繁に起こっていると、時間稼働率や正味稼働率が大きく落ち込み、本来の生産能力を発揮できない状況になっています。設備のロスを減らし、設備を最大限働かせてあげることが、稼働率アップには欠かせません。設備のロス削減については次回で解説いたします。
生産計画を見直す
稼働率は生産計画によっても変動します。例えば、季節や環境により受注数に動きがある製品の場合は、受注数が少ないときにはシフト変更などで従業員の勤務時間と設備の稼働時間を減らしたり、別の受注数が多いラインに配置換えしたり、生産能力の調整をすれば稼働率も上がります。
一方で刻々と変化する需要に対して都度最適な生産計画を立てるにはそれなりの手間がかかります。業務が多岐にわたる場合は生産計画システムの導入を検討するなど、DX・省人化に向けて一歩を踏み出してみるべきでしょう。
現在では様々な機能の生産管理システムが供給されています。既に導入しているにも関わらずあまり効果が出ていない場合、そのシステムのカバーする業務範囲や機能が本当に自社に合っているか、一度見直してみるのも良いでしょう。
まとめ
つい後回しにしたり、流れ作業だけになったりしがちな設備管理ですが、適切に行うことで稼働率を向上させ、利益拡大や機会損失回避を実現することができます。また、設備の生産性アップのためにはできる限りトラブルやエラーによる設備ロスを防いで、稼働率を上げることが大切です。次回は、稼働率に大きな影響を与える設備ロスについて解説します。