スプレー塗装の効率化② ~意外に大きい、塗装不良のコスト~ 2025年9月26日
「見えないコスト」に気が付いていますか?
スプレー塗装の効率化についてお話しするシリーズの第1回では塗着効率を上げる工夫をご紹介しました。第2回の今回は工業塗装でよくある塗装不良の原因と対策についてお話しします。
塗装不良の見えないコスト
製造現場で削減すべきムダの中でも、「不良や手直しのムダ」が最も影響が大きいと言われています。特に塗装工程ではその傾向が顕著です。
塗装工程は多くの場合製造工程の最後の方、仕上げに近い工程になります。被塗物が高価な場合、あるいは顧客からの支給品である場合などは、塗装不良の製品でも捨てることができません。場合によっては不良の塗膜をすべて剥がして洗浄して、もう一度下塗りからやり直しになってしまいます。
やり直しになった場合にかかるコストは材料費だけではありません。手塗りの場合は職人の貴重な時間を使うことになりますし、自動塗装の場合はロボットの調整をしている間はラインがストップしてしまい、大きな機会損失が発生します。
このように塗装工程においては塗装不良の発生を未然に防ぐことが大切になってきます。そのためには工業塗装で良く起こる塗装不良のパターンを知り、対策しておく必要があります。
塗装不良のケーススタディ
工業塗装の現場で良くある10の塗装不良について、不良が起こるメカニズムや起こりやすい状況、原因と対策などをご紹介します。
白化(はくか)
白化とは?
「塗面の仕上がり状態に艶が無く、白く濁る現象」のことを言います。塗装直後に発生することが多く、別名、ブラッシング・白濁・かぶり・ブルーミングとも言われています。
白化が起こるメカニズム
湿度の高い環境下で溶剤が急激に揮発するなどして被塗物から気化熱が奪われると、結露が発生して未乾燥の塗面に微細な水滴が付着します。すると塗膜の中に混ざり込んだ水分が光の乱反射をおこし、艶が無く白く濁ったように見えます。
また、乾燥工程で水分が蒸発した後は水滴のあった部分に穴が残ります。穴の中の空気と塗膜の境でも光の反射がおこるため、やはり白く濁ったように見えます。
図1 白化が起こるメカニズム
発生しやすい条件
白化が発生しやすい環境や条件はいくつかありますが、いずれも結露が発生しやすい状況になっていたことが原因です。
- 夏場や梅雨時などの高温多湿な環境化
- 冬の屋外作業など、気温が急激に低下する環境下
- 圧縮空気に水分が混ざっている
- 揮発速度の速い溶剤を使用している
- 塗装時の空気圧が高すぎる
対策
- 結露が発生しやすい環境での塗装作業を避ける
- エアドライヤを設置し、除湿された圧縮空気で塗装する
- 溶剤の揮発速度を調整する
- 夏用と冬用のシンナーを使い分け、必要に応じてリターダー(遅乾剤)を加える※
- 白化が発生してしまった場合は、乾燥後に再塗装するか、軽度であれば磨くことで修正が可能
※色味が変わってしまう可能性があるため、塗料メーカーや塗料販売店にご相談ください
膨れ(ふくれ)
膨れとは?
塗膜が素地または下地から膨れて水膨れのように凸凹になる現象です。膨れた部分の塗膜は破れやすくなります。ブリスターとも呼ばれます。
膨れが起こるメカニズム
雨水などの水分は塗膜に浸透します。通常は気温の上昇とともに蒸発・排出されて塗膜内に留まることはありませんが、上塗りと下塗りや、上塗りと被塗物の密着力が低い箇所、塗膜内に水分・油分・不純物などが存在する箇所では、水分は蒸発しきれずにその部分に停滞してしまいます。滞留した水分は熱などにより膨張し、塗膜を内側から押し上げ、膨れとして現れます。
図2 膨れが起こるメカニズム
発生しやすい条件
- 被塗物が汚れていたり油分や水分が残ったりしたまま塗装をする
- 圧縮空気に水分が混ざっている
- 下地が乾いていない。特に下塗り後の中間乾燥が不十分な時に発生しやすい
対策
- 塗装前の被塗物の清掃をしっかりとする
- 下塗り塗料の乾燥時間をしっかり守る
- 膨れの再補修は、膨らんだ表面のみを研磨除去しただけでは時間が経つと再発する。発生原因の元まで完全に剥離し、下地から再塗装する必要がある
ピンホール
ピンホールとは?
塗膜に針で刺したような 小さな穴が出来る現象です。塗面に黒い小さな点があるように見えます。
ピンホールが起こるメカニズム
塗料の中に空気や溶剤が混入して塗膜に残ると、乾燥中に揮発してすでに膜となっている塗膜表面を押し上げ、破裂し、塗膜に穴が残ります。
図3 ピンホールが起こるメカニズム
発生しやすい条件
ピンホールは下記のような場合に発生しやすくなります。
- 塗料の粘度が高く、塗膜の中に空気や溶剤が残っている
- 高温の環境下で揮発の早い溶剤を選択し、表面乾きが早くなる
- 塗料中にマイクロバブル(細かい気泡)が存在していて、一緒に塗装してしまう
- 1回で塗装する塗膜が厚すぎる(内部に揮発物が閉じ込められてしまう)
対策
- 塗料の粘度を適正に保つ
- 作業環境にあった揮発速度の溶剤を使用する
- 1回で塗装する膜厚を管理し、厚くし過ぎないようにする
ちぢみ
ちぢみとは?
乾燥した塗膜の上に他の塗料を塗った際に、下塗りの塗膜がシワになる現象です。
ちぢみが起こるメカニズム
下塗りの塗膜に、上塗りの塗料の溶剤が染みこんで膨潤し、その後収縮する過程で下塗りの塗膜にシワがよります。
図4 ちぢみが起こるメカニズム
発生しやすい条件
ちぢみは下記のようなときに起こりやすくなります。
- 下塗りの塗膜が厚い
- 上塗りや下塗りの溶剤分が多い
- 下塗りの塗膜の硬化不良(塗膜の中が固まっていない状態)
- 2液反応型塗料の場合は特におこりやすい
対策
- 溶剤が下塗りの塗膜に染みこまないよう厚塗りを避けて、薄く数回に分けて塗装する
たれ
たれとは?
塗膜が重力で流れ、たれ(垂れ)てしまう不具合です。
たれが起こるメカニズム
厚塗りのし過ぎや低粘度の塗料を使用したことが原因です。
図5 たれが起こるメカニズム
発生しやすい条件
スプレーガンを被塗物に近づけ過ぎたり、塗料の吐出量が多すぎたりすると厚塗りになります。その他、被塗物が冷えていると塗料の流動性が増して垂れやすくなります。
対策
- 厚塗りを避けて、薄く数回に分けて塗装する。垂直面では特に注意する
- スプレーガンと被塗物の距離や角度を適正に保つ
- 塗装作業前に被塗物を常温に戻す
コラム 塗装に適した湿度とは?
ここまで、湿度の高い環境で塗装した場合の塗装不良をいくつかご紹介してきましたが、塗装環境の湿度は低ければ良いというわけでもありません。
溶剤の揮発が速すぎる場合にも塗装不良が発生しますし、何より湿度が低すぎると静電気が発生しやすくなります。作業者や被塗物にホコリが付きやすくなりますし、有機溶剤を使用している場合は静電気が火元の火災が発生する危険性があります。塗装作業場では加湿器を置いたり床に水をまいたりして湿度をあげることもおこなわれています。
ではどのくらいの湿度が良いのか?というと、温度などの条件にもよりますが一般的に40%~60%くらいが塗装に適した湿度と言われています。結露も静電気も発生しにくい、人にとっても快適な湿度が塗装に適しています。
色むら
色むらとは?
主にメタリック塗装やパール塗装などで、仕上がりに濃淡が出たり、色合いが均一にならなかったりする不良です。
色むらが起こるメカニズム
塗膜中の顔料や金属粒子が不均一に並んでいると、仕上がりに色むらや濃淡が出てしまいます。
図6 色むらが起こるメカニズム
発生しやすい条件
色むらは下記のような場合に起こりやすくなります。塗膜中の粒子が均一にならないことが原因です。
- スプレー塗装する際、被塗物からの距離や、スプレーガンを動かす速度が一定になっていない
- 重ね塗りが均一ではなく、バラつきがある
- 塗料の攪拌が不十分
- 塗料の乾燥速度が不均一
対策
- スプレーガンの設定を正しく調整する
- 塗料を十分に攪拌する
- 一定の距離と速度を保って塗装し、重ね塗りの幅を一定に保つ
- メタリック塗料の場合は薄く吹き付ける「ミストコート工程」を入れる
- 作業場の温度・湿度を適切に保つ
- 作業場の照明を明るく均一にすると、塗りムラの早期発見につながる
ユズ肌
ユズ肌とは?
塗膜の表面が柑橘類の皮のようにざらついて見える塗装不良です。オレンジピールとも呼ばれています。
ユズ肌が起こるメカニズム
塗料の粘度が高過ぎたり、塗膜の乾燥が速すぎたりすると、塗膜が平らにならず、凸凹のまま固まってしまいます。
図7 ユズ肌が起こるメカニズム
発生しやすい条件
ユズ肌は下記のような環境と条件で発生しやすくなります。いずれも塗膜表面が平らにならないうちに乾いてしまうことが原因です。
- 塗料の粘度が高すぎる
- 速乾性のシンナーを使っている
- 被塗物や作業環境が高温になっている
対策
- 塗料の粘度を適正に調整する
- 遅乾性のシンナーを使用する
- スプレーガンの距離や速度を一定に保つ
- 発生してしまった時は軽度なら乾燥後に研磨して平らに整えることもできる
はじき
はじきとは?
塗膜の表面に小さなクレーター状の穴が発生する現象です。
はじきが起こるメカニズム
被塗物の表面に油分やシリコン、ワックスなど、撥水性の物質が残っていると、塗料がはじかれてしまい、クレーター状の穴が発生します。
被塗物に残っていた撥水性の物質(表面張力が低い物質)に塗料が触れた時、塗料の方が表面張力(丸まろうとする力)が高いため、塗料がはじかれたように丸まってしまい、塗膜に穴が開いてしまうのです。
図8 はじきが起こるメカニズム
発生しやすい条件
下記のような時に起こりやすくなります。
- 被塗物の表面が汚れている
- 圧縮空気に不純物が混ざっている
- 作業場の近くで撥水性の物質を使用している
対策
- 被塗物の表面を脱脂する
- 圧縮空気に不純物が入らないようにする
- 塗装作業場の近くでシリコンスプレーなどを使わない
- ワックス等の付いた手で被塗物を触らない
ゴミブツ
ゴミブツ不良とは?
塗膜に異物が付着して、そのまま乾いて異物感が残っている塗装不良です。
ゴミブツ不良が起こるメカニズム
浮遊している粉じんや塗料カス、作業者の衣服の繊維などが塗膜に付着して起こります。
図9 ゴミブツ不良が起こるメカニズム
発生しやすい条件
作業場にホコリが溜まっていたり、作業者の衣服の除塵が不十分だったりすると起こりやすくなります。また、作業場が負圧になっていると作業場の外からゴミやホコリが(環境によっては虫も)吸い寄せられてきます。
- 塗装作業場や塗装ブースにホコリや塗料カスが堆積している
- 除塵や静電気の除去ができていない
- 給気が不十分で塗装作業場が負圧になっている
- 排気が不十分で塗装環境にゴミブツが舞っている
- 塗料調合中に異物が混入してしまう
対策
- 塗装ブースや塗装作業場を定期的に清掃する
- 塗装ブースの給気と排気のバランスを調整する
- 防塵・帯電防止性能のある作業着を着用する
- 作業前にエアシャワーや粘着ローラーでホコリを除去する
- 被塗物の脱脂をおこなう
- フィルタで塗料を濾してからカップ・コンテナに供給する
- 塗料供給装置の塗料取出口やスプレーガンの塗料ジョイントにフィルタを取り付ける
塗膜剥離
塗膜剥離とは?
乾いた後に塗膜が剥がれてしまう不具合です。
塗膜剥離が起こるメカニズム
塗膜が被塗物や下地にしっかりと密着していない場合に起こります。
図10 塗膜剥離が起こるメカニズム
発生しやすい条件
被塗物の素材と塗料の相性が悪かったり、下地処理が不十分だったりすると起こります。
- 素材と塗料の相性が悪い
- 下地処理が不十分
対策
- サンディングをおこなって被塗物と塗膜を密着させる
- プライマーを使用する
- 素材に合った塗料とプライマーを選定する
- テスト塗装をおこなって密着性を確認する
まとめ
2回にわたってスプレー塗装の効率化についてお話ししてきました。塗装不良は塗料を余分に消費し、環境に悪いだけでなく、生産性も大きく下げてしまいます。塗装不良の原因はいくつも考えられることが多いのですが、多くは、塗料メーカーや塗装機メーカーが推奨する条件を守っていれば防ぐことができます。
塗装不良による見えない人件費の発生や機会損失によって、大きなコストを生じているかも知れません。この機会に一度見直してみてはいかがでしょうか。