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夏の塗装のトラブル対策 2023年7月7日

暑い夏。塗装にも厳しい条件になります。

夏の対策シリーズの第2回は、夏の塗装現場で起こりやすいトラブルと、その対策について解説します。

前回の記事 高温多湿の夏は特に注意!湿式塗装ブースの悪臭対策

塗装作業場の多くは換気のため開放的で、夏は外気と同じく高温多湿の環境になります。塗料は気温や湿度に影響を受けるため、塗装のトラブルが起こりやすくなります。本格的な夏の到来に向けて、今からできることを準備しておきましょう。

気温と湿度が塗装に与える影響

塗装には適した条件があります。仕上がりや作業の注意点など、気温や湿度が変化すると、さまざまな面で影響があります。

各塗料メーカは塗料を使用する条件を定めて製品に記載しています。よく目にする条件として、「気温5℃以下、湿度85%以上の条件下では塗装不可」というものがありますが、これは結露が自然発生しない最低限の条件を記載したものです。

塗装に適した条件は使用する塗料によって変わりますが、一般的に気温15℃~25℃、相対湿度40%~60%の条件下であれば、不良の発生も少なくなります。これは作業者にとっても快適な条件と言えますが、夏場はそうもいきません。

塗装品質に与える影響

一般的に、気温が低いと塗料の乾燥が遅くなるため、乾くまでの間にホコリが付くなど外部要因によるリスクが高くなります。逆に気温が高ければ乾燥は早くなりますが、乾燥が早すぎると塗膜にブツブツと気泡の痕が残るなどのトラブルが発生することがあります。

また、湿度が低いと塗料の乾燥は早くなりますが、低すぎると気温が高いときと同様に気泡の痕が残ったり、塗料中の溶剤分が蒸発して均一な塗布が難しくなったりすることがあります。逆に湿度が高すぎると、乾燥が遅くなり、塗装面にホコリなどが付着しやすくなります。空気中の水分が塗料と反応して、均一な仕上がりにならなかったり、塗装面がでこぼこになってしまったりすることもあります。

温度や湿度が適切でない環境で塗装をすると、見た目が損なわれるだけではなく、塗膜の密着性や耐久性にも影響があります。

熱中症にも注意!

気温が高くなる夏の塗装作業は、脱水や熱中症のリスクが高くなります。塗装作業場の多くは空調が十分でないため、夏場は温度・湿度共に上昇します。また作業者は防塵服やマスクを着けているため、よけいに暑さを感じますし、汗も多量にかきながらの作業になります。

人は汗をかいた分の水分や塩分を補給しないと脱水や熱中症に陥ってしまいます。また、湿度が高い環境や吸湿性の悪い防塵服を着た状態だとせっかくかいた汗が気化せず、ますます体温が上がってしまいます。適度な休憩やこまめな水分・ミネラルの補給など、脱水と熱中症の対策を忘れないようにしましょう。

参考:労働災害事例(厚生労働省 職場のあんぜんサイト)塗装工程における熱中症

夏に起こりやすい塗装トラブル

湿度が高い状態だと塗料の乾燥に時間がかかり、その間に塗面に水やゴミが付着しやすくなります。他にも、高温多湿になる夏に気をつけたい代表的な塗装トラブルを紹介します。

ハジキ(クレータ)

塗膜の表面に、小さなへこみや穴が生じる現象です。水分や油分など塗料よりも表面張力が低い物質が混入した場合、要因となる物質が塗料によって引っ張られて広がり、その部分の塗膜が薄くなることで起こります。湿度が高い夏は、水分が混入しやすくなります。

塗装環境の湿度だけでなく、圧縮空気に含まれている水分にも注意が必要です。除湿が不十分なエアを使用すると塗膜に水分が混入し、不良の原因になります。

図1

かぶり(ブラッシング・白化)

塗面の仕上がりに艶がなく、霞がかかったように白くぼけている現象です。十分に乾燥していない塗面に結露が発生することで起こります。塗装環境の温度が高いと溶剤が急速に揮発して、気化熱により塗面の熱を奪っていきます。そうすると塗面とその周辺の温度が下がり、結露が発生して塗面に水滴が付着します。そのまま乾燥すると塗面がでこぼこの状態になり、白く濁って見えるようになるのです。

湿度が高く、気温と塗装面との温度差が大きい環境で塗装をすると起こりやすくなります。また冬の結露で発生することもあります。

図2

ゆず肌(小さな凸凹)

オレンジやゆずの皮のように、塗膜に小さな凸凹が生じる現象です。塗料を吹付けた後、レベリングする前に乾いて硬化してしまうことが原因です。気温が高い環境下で、蒸発が速いシンナーを使うと起きやすくなります。

図3

発泡(ワキ・あわ)

塗膜の硬化、乾燥の際、表面に小さな泡状の膨れや穴が生じたり、気泡の痕が残ったりする現象です。塗布した塗料に含まれている気泡が抜ける前に塗膜の表面が先に乾燥したり、湿度が高い環境で水や油が混入したりすると発生します。

図4

夏の塗装トラブルを回避するためには?

夏の塗装トラブルの原因の多くは、高温と多湿の二つです。高温により乾燥が早すぎたり、多湿により水分が塗膜に付着したりすることでトラブルはおこります。

季節による塗装条件の変化を把握する

塗料や溶剤は温度・湿度によって粘度や乾く速さが変わってきます。塗料ごとに仕様の確認が必要ですが、気温が高くなると液剤の粘度が下がるため、霧化しやすくなります。つまりスプレーミストの粒が小さくなりますので、乾燥が早くなって塗面がばさつくなどの不具合が起こります。周囲条件の変化に合わせた対策が必要になります。

例えば夏はシンナーの蒸発が早まり、トラブルが起こりやすくなります。冬とはシンナーを変えて揮発速度の遅いシンナーを使用するとトラブルを防ぎやすくなります。また、揮発速度を遅くするための添加剤であるリターダーを入れることもあります。いずれの場合も、使用する場合は塗料メーカに相談すると良いでしょう。

エアの品質を上げる

塗料を吹き付けるエアにゴミ、水分、油分が含まれていると、トラブルの原因になります。夏はドレンの量も増加し、エアの中に水分が混入しやすくなります。コンプレッサはこまめにメンテナンスをして、使用箇所の前にフィルタやドライヤを設置して油分や水分、ダストなどの異物を除去します。また、スプレー時のエア圧が高いと霧が細かくなり、シンナーの蒸発が促進されて乾燥が早まるため、高温下での作業の際は注意しましょう。

湿式塗装ブースの水位にも注意!

気温が高くなると湿式塗装ブースの水の蒸発が早くなり、いつの間にか水位が低下していることがあります。メーカの推奨する水位より下がってしまうと、オーバーミストの捕集効率が低下し、排気ダクトからでるオーバーミストの量が増加します。周囲環境を悪化させる原因になりますので注意が必要です。水位はこまめにチェックするか、水位管理システムの導入を検討すると良いでしょう。

まとめ

塗装には適した条件があり、高温多湿になる夏は塗装のトラブルが起きやすくなります。夏の塗装トラブルは高温が原因で塗料の乾燥が早くなること、湿度の高さが原因で塗膜に水分が混入しやすくなることが主な原因です。あらかじめ空調を整えたり、コンプレッサの対策や季節に適したシンナーの準備をしたりするなど、本格的な夏が到来する前から対策を講じておきましょう。

次回は、夏にコンプレッサを使う際に気をつけたいことや、トラブルを防ぐ対策について解説します。