コンプレッサの更新② ~ライフサイクルコストを考える~ 2024年5月31日
設備が役割を終えるまでのコストを考えてみましょう。
コンプレッサの更新について解説するシリーズの第2回では、ライフサイクルコストについてお話しします。
工場設備の選定では購入時のイニシャルコストだけでなく、電気代やメンテナンスコストなどのランニングコストも考慮する必要があります。更新の機会にコンプレッサにかかるコストの全体像を確認しておきましょう。
コンプレッサのライフサイクルコスト
新しい設備が導入されてから更新や廃棄で役割を終えるまで、トータルでかかるコストがライフサイクルコストです。コンプレッサの更新で機種を選定する際には、ライフサイクルコストについて考えてみましょう。
役割を終えるまでにどんなコストがかかる?
コンプレッサのライフサイクルコストは、導入にかかる「イニシャルコスト」、稼働やメンテナンスにかかる「ランニングコスト」に分けられます。
イニシャルコスト
コンプレッサ本体の購入費用の他に、周辺設備の購入費用や運賃、設置の工事代などが含まれます。
ランニングコスト
購入後の運用にかかるランニングコストの中で最も大きいのは、コンプレッサを動かすエネルギーである電気代です(図1参照)。その次に大きいのはメンテナンス費用です。メンテナンス費用には、周辺機器のメンテナンスにかかった費用や、コンプレッサから出るドレンの処理費用なども含みます。
図1
図1の通り、コンプレッサの制御方式や給油・無給油の違いによってコストの内訳は大きく変わってきます。図1ではクローコンプレッサとスクロールコンプレッサがオイルフリー式、スクリューコンプレッサが給油式です。オイルフリーコンプレッサが排出するドレンには潤滑油が含まれていないため、ドレンを産業廃棄物として処理する必要がありません※1。そのためドレン処理費用に大きな差が出ています。
※1:コンプレッサが吸い込む空気にオイルミスト等が含まれていると、オイルフリーコンプレッサのドレンにもオイルが混入する場合があります。また、排水の基準は自治体によって異なるため、設置場所の自治体の下水道条例等を確認してください。
最大のコストは電気代
コンプレッサのコストを考える時、目に見えるイニシャルコストやメンテナンスコストが注目されることが多いのですが、もっともコストがかかっているのは電気代です。これは制御方式に関わらず同じ傾向にあります。コンプレッサを10年程度使用した場合、ライフサイクルコストの約8割から9割は電気代が占めることになります。
コンプレッサは基本的に長く使う設備です。日頃のメンテナンスをきちんとしていれば機械や部品の寿命を延ばすことができ、突然の故障などで高額のメンテナンスコストがかかるリスクも低くなります。その際に、電気代が余分にかかるコンプレッサを使っていると、せっかく寿命を延ばしてメンテナンスコストを抑えた効果が薄れてしまいます。
これは何も、「高価で高性能な機種を選べば電気代が削減できる」と言っているわけではありません。前回の記事でもご説明した通り、必要以上に大きなコンプレッサを導入したり、用途に合わない制御方式のコンプレッサを選んでしまったりすると、長期間にわたって無駄な電気代を支払い続けることになってしまいます。
コラム:価格より「必要なもの」を重視しよう
設備にかかるコストを抑えたいのは当然のことです。特に導入や更新時のイニシャルコストを重視すると、「たくさん見積をとって一番安いものを選ぶ」傾向があります。それ自体は悪いことではありませんが、そのコンプレッサで本当に大丈夫か、もう一度考えてみて下さい。
運転方式は用途に合っていますか? 出力は足りているでしょうか? 置き場所の騒音値の制限に合致しているでしょうか? 空気量が足りなくて工作機械が停まる、コンプレッサの潤滑油が製品や設備に付着して困る…等々のお悩みは、お客様からよくご相談としてお受けします。「こんなはずではなかった」ということがないように、お悩みの際はメーカーにもご相談ください。
圧縮空気の原単位計算
コンプレッサの電気代削減を考える際には、電気代だけを単純に集計するのではなく、「これだけの圧縮空気を作るのに電気代がいくらかかったか」を示す原単位での管理をすると、より省エネ効果が分かりやすくなります。
原単位とは
原単位とは、一定量の製品を生産するのに必要な原料やエネルギーの量のことを言います。製造業ではエネルギー消費原単位などが身近な単位です。一定量の生産や稼働のためにエネルギーがこれだけ必要だったというように単位を揃えて比較します。
コラム 省エネ法とエネルギー消費原単位計算
日本の省エネ法はオイルショックをきっかけに制定され、その後何度も改正が重ねられて名称も変更されてきました。令和6年現在の名称は「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」で、2023年4月に施行されています。
現在の「省エネ法」では、一定規模以上の工場や事業場、運送業者や荷主(特定事業者等)に対して、エネルギーの使用状況について定期的に報告する義務を課しています。また、特定事業者等以外の事業者にも、エネルギー使用合理化の努力義務を課しています。
エネルギーの使用状況を把握し、合理化するには、エネルギー消費原単位(エネルギー使用量÷生産量)を使った計算が必要です。計算式の分子にあたるエネルギー使用量は原油換算値(㎘)を使用することが定められていますが、分母の方はエネルギーの使用量と密接な関係を持つ値を事業者が任意に設定できます。
事業の内容に合わせて分母には床面積や製品の生産数量や重量などが設定されています。なかには「床面積×稼働時間」などの二つの項目を掛け合わせた数字を利用する例もあるそうです。
圧縮空気の原単位計算
圧縮空気の原単位計算では、一般に「1㎥の空気を圧縮するために必要なコスト(円/㎥)」を使い、下記の計算式で算出できます。
圧縮空気原単位(円/㎥)
モーター効率(%) × 吐出空気量(m³/min) × 60(min/h)
出力37kW、吐出空気量7.0㎥/min、モーター効率93.7%のスクリューコンプレッサを例に、電気料金単価20円/kWhの場合で考えてみましょう。
圧縮空気原単位(円/㎥)
モーター効率(%) × 吐出空気量(m³/min) × 60(min/h)
=
0.937 × 7.0 × 60
≒1.88円/㎥
1㎥の圧縮空気を作るために1.88円の電気代が必要になっている計算になります。
コラム インバーター制御は万能ではない
インバーター制御の機種は省エネ性が高いと言われますが、使い方によっては省エネにならないことがあります。インバーター制御方式はスクリューコンプレッサなどに採用され、必要な空気量に合わせてモーターの回転数を変化させることで無駄なエネルギーの消費を抑えています。
万能のようにも聞こえますが、図2のグラフを見てみると、空気消費量率(負荷率)が低いエリアと高いエリアでは消費電力率が高くなっていることが分かります。インバーターの特性として、一旦停止してしまうと再起動まで時間がかかります。つまり、インバーターが再起動するまでコンプレッサも再起動できなくなります。また、インバーターが待機している間はファンを回して熱の放出を行っているため、消費電力は0にはなりません。インバーターは設定圧力の下限を割らないように制御するため、消費空気量が減って圧力が下がると、圧力を維持しようとしてインバーターが回転数を上げます。この制御は設定圧力の範囲内でも働きますので、負荷率の低い状況ではかえって消費電力が増えてしまいます。
逆に、負荷が100%に近いような使い方の時もインバーターの省エネ効果は得られません。インバーターの役目はモーターの回転数を制御して無駄なエネルギー消費を抑えることですから、もともとフル回転しているような場合はインバーターが追加された分の損失で消費電力が増えてしまいます。グラフを見て分かる通り、インバーター制御のコンプレッサが大きな省エネ効果を発揮するのは、負荷率40%~70%のときです。
図2
インバーター制御の機種は他の運転方式に比べてイニシャルコストも高くなります。負荷変動が大きい場合は、無理にインバーター制御の機種で対応するより、複数台のコンプレッサを設置して対応するとコストパフォーマンスが良くなる場合があります。
まとめ
コンプレッサは長期間にわたって稼働し続ける設備です。そのため、更新する際には購入代金などのイニシャルコストだけでなく、ランニングコストも考えて選定する必要があります。
特に電気代はコンプレッサのライフサイクルコストの中でも大きな割合を占めています。省エネタイプと呼ばれる機種が万能なわけではなく、生産現場によって適したコンプレッサは異なります。コンプレッサメーカーなどに相談しながら、用途にあった設備を選定するようにしましょう。