KAIZEN記事

塗装工程自動化後のカイゼンが必要な理由 〜塗装の自動化③〜 2024年4月26日

人もロボットもカイゼンを重ねることでより良くなります。

塗装の自動化シリーズの第3回は、塗装工程を自動化した後のカイゼンについて解説します。塗装ロボットやレシプロ塗装機を導入し、工程を自動化しただけでは、品質や生産性は向上しません。導入後のカイゼンの積み重ねが大切になってきます。

第1回の記事:塗装の自動化が進む背景とは? ~塗装の自動化①~

第2回の記事:塗装ロボットのメリットとデメリット、導入コスト低減のヒント ~塗装の自動化②~

自動化後もカイゼンが必要な理由

塗装ロボットやレシプロ塗装機などの自動機は、よほど単純な動きをするのでない限り、設置前にティーチングを行なって、一連の作業の手順を教え込んでから稼働を始めます。それでも、最初から最適な結果が得られるわけではありません。

手吹き塗装の場合も、新しい製品の塗装を始めたり、工程を変更したりした後は課題を見つけて改良していく必要がありますが、ロボットは人間と違い、一人で工夫を重ねることができません。人間がロボットの代わりに課題を見つけて解決策を探し、更にそれをロボットに教えてやらなければなりません。

コラム:外観検査で活躍するディープラーニング

「ロボットは一人で工夫を重ねることができない」と説明しましたが、ロボットの世界は日進月歩。自分で学習するロボットが登場しています。

例えば、完成品の外観検査では良品の基準を事前にロボットに教える必要がありますが、塗装の良品基準は定量的に定めるのが難しく、なかなか自動化できていない分野でした。ディープラーニングを使った画像認識では、大量の良品と不良品のデータをロボットに与え、ロボット自身に選別の基準を学習させます。

この手法を使えば、人間が異物や色ムラなどのさまざまな塗装不良の基準を一つ一つ数値化してロボットに教える必要はなくなります。それでも、たくさんの「良い例」と「悪い例」を集めてロボットにお手本を用意し、その結果正しく学習しているかを検証するのは人間の仕事になります。

自動化後のカイゼン①:塗料使用量の削減

手吹き塗装では作業者の熟練度によって塗料使用量に大きな差が出ます。また、熟練者といえども人間です。調子の悪い時もあるでしょう。そんな時は完成品の品質を優先した結果、ムダ吹きが多くなるかも知れません。

その点、一度工程を自動化してしまえば、塗料の使用量は均一になります。「品質が均一である」ということは、ロボットが持つ大きな強みです。自動化後に徐々に底上げに取り組み、塗料使用量を削減することで、人間の熟練者の技術に及ばないデメリットを上回るだけのメリットを得ることが出来ます。複数台のロボットを長時間稼働させるような場合は、さらに大きな恩恵を得られます。

塗料使用量を減らすメリット

自動化後のカイゼンに取り組み、塗料使用量の削減を実現すると、さまざまなメリットがあります。

コストを削減できる

塗料使用量が減ると、塗料や溶剤の購入費用を削減できます。大量に塗料を使用する工場では、たとえ数%の使用量改善であっても大きなコスト削減になります。近年の材料高騰に伴い、塗料使用量の見直しを図る事業者が増えています。

環境対策・企業イメージの向上につながる

塗料の使用量が減ると、光化学オキシダントやPM2.5の原因の一つであるVOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)の排出量も削減できます。塗料に溶剤として含まれているトルエンやキシレンは、代表的なVOCです。

塗料はVOC発生源の中で最も大きな割合を占めています。塗料使用量削減の取組みは、企業イメージの向上にもつながります。

作業環境を改善できる

塗料使用量の削減は地球環境だけでなく、作業者にも良い影響があります。有機溶剤を扱う事業所ではマスク等の着用が定められていますが、元々の塗料飛散が少ないに越したことはありません。

塗料使用量を減らすポイント

塗料使用量を減らすための基本的なポイントは、手吹き塗装と共通です。

スプレーガンは塗面に対して常に直角に向けるようにします。これはオーバースプレー(被塗物に付着しない塗料)を減らすだけでなく、塗料の垂れや色ムラなどの塗装不良を防ぐためでもあります。

図1 スプレーガンの角度と塗料の付着状況

ちなみに、「複雑な形状の被塗物でも塗面に対して直角にスプレーできる」という点は多関節塗装ロボットの大きな特長です。ロボットの利点を活かせるように調整します。

図2

パターン幅を狭くする

パターン幅を狭くすることでもオーバースプレーを減らすことができます。ただし、塗膜が厚くなり、塗料が垂れやすくなりますので、色ムラが出ないように調整が必要です。また、一度に塗れる面積が狭くなるため、塗り重ねのパス回数が増えてサイクルタイムが遅くなります。

図3

スプレー距離を近づけ、一定に保つ

パターン幅を狭くするのと同様、オーバースプレーを減らすことが出来ます。この場合も垂れや色ムラが発生しやすくなりますので、品質に影響が出ない範囲での調整が必要です。また、キャップに塗料が付着する場合があります。その他、距離を近づけるとパターン幅が狭くなりますので、サイクルタイムは遅くなります。

図4

吹付空気圧を低くする

吹付空気圧(スプレーガン入口部の圧力)を低くすると塗料の粒子が大きくなるため、被塗物に付く塗料が増えます。また塗料ミストの飛散も抑えることもできます。一方、粒子が大きくなることで塗装後の仕上がりに影響が出るため注意が必要です。

図5

ロボットの動作スピードを落とす

塗装ロボットやレシプロ塗装機などの動作スピードを遅くすると、塗料が周囲に飛散するのを防ぎ、塗料の無駄を減らすことができます。ただし、同じ噴出量のまま動作スピードだけ下げると塗料使用量は減りませんので、調整が必要です。

図6

塗料の噴出量を減らす

塗料の噴出量を減らせばオーバースプレーの分の使用量が減ります。この場合も元の条件のまま噴出量だけ減らしてしまうと塗料の粒子が細かくなって塗着効率が下がり、かえって塗料使用量は増えてしまいますので、調整が必要です。

用途に合った塗装機を選定する

自動スプレーガンにも多くの種類があります。被塗物に適したスプレーガンを使用することで、塗料使用量も減らすことができます。

例えば被塗物の大きさによって、小物用の小形スプレーガン、大物用の大形スプレーガンがあります。用途も金属塗装・樹脂塗装・木工用がありますし、その中でも更に中塗り・上塗りに適しているかどうかで分かれます。また、用途が同じでも液剤の粘度によってノズルの口径が変わってきます。

一種類のスプレーガンで数種の製品が塗装できるように汎用性を高めたスプレーガンもありますが、このようなスプレーガンでもパターン幅や塗料噴出量に応じてキャップやノズル口径を選んで、より用途や目的に添う仕様にすることが出来ます。

上記の他、釉薬や接着剤、離型剤用の専用スプレーガンや、静電塗装用、回転塗装用の自動スプレーガンがあります。

自動化後のカイゼン②:塗装条件の適正化

「塗料使用量を減らすためのポイント」でご紹介した中で、「パターン幅を狭くする」「吹付空気圧を低くする」「ロボットの動作スピードを落とす」「塗料の噴出量を減らす」などの変更は、いずれも塗装作業にかかる時間を増やしてしまいます。やり過ぎて極端に生産性が落ちてしまわないよう、見極めながら改良しましょう。

塗料使用量を減らしつつサイクルタイムを短縮するには、ロボットに無駄な動きをさせないことも大切です。この際、作業の熟練者がいれば手の動きを参考にすることができます。ロボットは人間と完全に同じ動きをすることは出来ませんが、熟練者の持つスプレーガンが被塗物からどのくらいの距離にあるか、どこから塗り始めてどんな軌跡を辿っているか、どれくらいのスピードで動いているかなど、参考にすべきことはたくさんあります。

まとめ

3回にわたって、塗装の自動化について解説してきました。塗装の自動化は、人材不足、作業者の安全確保、環境対応、品質の安定や生産性の向上など、製造業を取り巻く課題を解決できる手段のひとつです。

その一方で塗装工程を自動化しただけでは、メリットを最大限活用することはできません。自動化後のカイゼンの積み重ねが大切になってきます。