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塗装の自動化が進む背景とは? ~塗装の自動化①~ 2024年3月29日

「最先端」を支える「熟練の技」があります。

現在でも職人の腕に頼ることの多い塗装工程ですが、近年は自動化が進んできています。以前は大規模な工場が自動化の中心でしたが、中小規模の生産現場でも導入されるようになってきました。

本シリーズではさまざまな現場で導入が進んでいる塗装の自動化について、3回にわたって紹介します。第1回は、塗装の自動化が進む背景とレシプロ塗装機について解説します。

塗装の自動化が進む背景

塗装の自動化が求められる背景には、日本の製造業が置かれている状況によるものが大きくなっています。主な理由を紹介します。

製造業の人材不足

日本の総人口は2008年をピークに減少を続け、2015年には75歳以上の人口が14歳以下の人口を上回るなど、急激な少子高齢化が進んでいます。特に15歳~64歳の生産年齢人口の減少は労働力人口の推移に大きな影を落としています。女性や高齢者の就業率が上昇しているため、就業者数全体では増加が見られるものの、産業によってはその恩恵を受けられていません。

日本全体で人手不足が進む中でも、特に製造業は他産業に比べて新規就業者が少なくなっており、同時にベテラン人材の退職が迫っています。「2023年版 ものづくり白書」によれば、製造業の若年就業者数は約20年間で129万人減少している一方で、高齢就業者数は32万人増加しています。

製造業は高齢化が顕著になっており、これまで中心的存在であったベテラン人材が退職を迎える年代に差し掛かっていますが、その技術を引き継いでいくはずの若者が職場にいない状態です。そのため、技術を受け継ぎ、磨いてきたベテラン人材が退職すると、事業の継続が難しくなってしまいます。特に塗装分野の技術は、作業者のカンやコツに頼ることが多く、マニュアル化しにくいと言われます。検査も慣れた人の目検で行うなど、作業の多くを人の手に頼ってきました。技術を持ったベテラン人材の大量退職が迫る中、人材不足をカバーできる自動化が求められています。

参考
経済産業省 2023年版 ものづくり白書
総務省統計局 統計トピックスNo.119 統計が語る平成のあゆみ
総務省統計局 統計トピックスNo.138 統計からみた我が国の高齢者

労働環境の改善

塗装工程は、作業者にとっては厳しい環境です。塗料にはシンナーなどの有機溶剤が含まれていることが多く、人体に影響があるため有機溶剤を吸わないようにマスクや長袖の作業着が必須になります。高温になる夏場は体力的に厳しい作業になります。

作業時の体勢も立ちっぱなしで腰をかがめることが多く、腰痛になることもあります。また、スプレーガンを長時間握る作業で手の痛みや腱鞘炎が起こることもあります。作業者の負担を減らし労働環境を改善するためにも、塗装の自動化は求められています。

品質と生産量の安定

人の手で塗装をする場合、品質のムラを無くすには熟練工の技術が必要になります。また、人が作業し続けられる時間には限りがあり、生産量にも限界があります。塗装作業を自動化すると、一定の作業を一定の品質で継続できるため、品質の安定につながります。稼働時間を増やすことで大量生産にも対応できますし、生産量の管理も容易になります。

コラム 自動化が進んでも職人は必要

塗装の自動化は、自動車の塗装から始まったと言われています。この分野の技術の進歩はめざましく、現在の一般的な自動車の塗装はほぼ自動化されています。

塗装工程が自動化されたからといって熟練の技術者が要らなくなったわけではありません。工程を自動化しただけでは効率も品質もあがらないため、改善を重ねる必要があります。その際の塗装方法の効率化や、塗膜の評価に職人の知識や経験が必要になってきます。また、ロボットで再現できていない職人の技もあります。

そのため、塗装が自動化されても技術伝承は不可欠です。自動車メーカーなどでは、手吹き塗装の技術を若手職員に習得させる取り組みが行われています。

塗装の自動化手段

自動化の手段として使われる塗装機にはいくつか種類があります。

レシプロ塗装機

「レシプロ」とは「往復運動」を意味し、往復運動をしながら塗料を噴霧していくタイプの塗装機です。レシプロケータとも呼ばれ、広く普及しています。従来、塗装の自動化はレシプロ塗装機が主流でした。

図1 レシプロ塗装機の例

塗装ロボット

塗装ロボットは、ロボットアームに塗料を噴霧するためのスプレーガンが付いたもので、多関節ロボットとも呼ばれる形状をしています。曲がる関節の数によって5軸ロボット、6軸ロボットなどと呼ばれます。アームがさまざまな角度に回り込んで、複雑な形状の被塗物も塗装することができ、近年利用が広がっています。塗装ロボットについてはシリーズの第2回で詳しく解説する予定です。

図2 塗装ロボットの例

その他の自動塗装機

レシプロ塗装機にも、アーム型の塗装ロボットにもあてはまらない塗装機械があります。用途や塗装するものによってさまざまな自動塗装機があり、ドラム式洗濯機のように被塗物を入れて回転させる方式のものもあります。専用にカスタマイズして開発された自動機も多くなっています。

レシプロ塗装機

それでは、それぞれの自動機について詳しく見て行きましょう。まずは自動化に大きな役割を果たしたレシプロ塗装機からです。

レシプロ塗装機とは

レシプロ塗装機は前述の通り、往復運動しながら塗装する機械です。機械に取り付けられたスプレーガンを往復させながら塗料を噴霧します。

レシプロ塗装機には、ヘッドが上下の縦方向に動く垂直型と、左右の横方向に動く水平型があります。垂直と水平の2軸で動くものや、更に動く方向を増やして3軸で動くものもあります。塗装の自動化はレシプロ塗装機が広まることで一般的になっていきました。

レシプロ塗装機のメリット

サイクルタイムを短縮できる

複数のスプレーガンを搭載し、塗料の吐出量を上げて塗布するため、サイクルタイムを短縮することができます。

複雑なティーチングが不要

レシプロ塗装機にはストロークの幅や速度が一定のタイプと、ストロークの幅や速度を変更できる可変レシプロケータと呼ばれるタイプがあります。ストローク動作の制御も、センサーで被塗物を感知して動くティーチング不要のタイプや、ロボットのようにプログラムに従って動くタイプがあります。仕様によってはティーチングが必要な場合がありますが、いずれにせよ塗装ロボットのように複雑な動きを教える必要がなく、ティーチングにかかる手間は軽くなっています。

レシプロ塗装機のデメリット

複雑な形状の塗装には不向き

レシプロ塗装機は平らな面の塗装は得意です。その一方で、スプレーガンと被塗物との距離や角度は固定されて自動では変更できないため、柔軟な対応が難しい一面もあります。多少は丸みのある面も塗装できますが、複雑な形状の製品の塗装には適していません。

塗料使用量が多い

複数のスプレーガンで一気に塗装するレシプロ塗装機は、作業時間は短くなりますが、塗料の使用量も多くなります。そのため、塗料のコストがかかることがあります。有機溶剤を使った塗料の場合は、環境に与える影響も大きくなります。

防爆措置や作業者の安全対策が必要

これは自動塗装機全般に言えることですが、塗料の有機溶剤は引火性のため、爆発の危険性があります。安全性のために、レシプロ塗装機は防爆仕様が求められます。作業者の安全性を確保するため、巻き込みや衝突防止などの対策も必要です。

レシプロ塗装機の進化

当初はシンプルな機能だったレシプロ塗装機ですが、テクノロジーの発達に伴って機能が進化しています。例えば、往復の幅を細かく制御することができる機種が登場しています。また、被塗物をセンサーで認識してムダな塗装を抑えるなど、より使いやすく、環境にも配慮できるよう進化してきました。得意とする平面塗装では、まだまだレシプロ塗装機が活躍しています。

まとめ

少子高齢化、就業人口の減少などによって、製造業の人材不足は著しい状況にあります。作業者の安全性確保や生産性向上などの課題もあり、今後も塗装の自動化はますます進んでいくでしょう。

塗装の自動化が浸透し始めた当初からその役割を担ってきたレシプロ塗装機も、近年は技術改良により進化しています。往復運動のシンプルな仕様ではありますが、平面塗装ではレシプロ塗装機のメリットを発揮して、今後も活躍の場は数多くありそうです。

次回は近年導入が進んでいる塗装ロボットについて、メリット・デメリットや導入のポイントなどについて解説します。