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塗装ロボットのメリットとデメリット、導入コスト低減のヒント ~塗装の自動化②~ 2024年4月12日

ロボットにも得意と不得意があります。

塗装の自動化シリーズの第2回では、塗装ロボットについて解説します。塗装ロボットは自動車(新車)の塗装工程で導入が進み、近年では自動車以外のさまざまな塗装現場でも活躍しています。

本記事では塗装ロボット導入のメリットやデメリット、導入する際にコストを抑えるポイントなどについて解説します。

前回の記事:塗装の自動化が進む背景とは? ~塗装の自動化①~

塗装ロボットとは

塗装ロボットのアームにはスプレーガンが装着されており、アームがあらかじめ制御された動きをすることで塗装作業を行います。

代表的なロボットはアームが6軸の構造になっていて、3次元に自由度の高い動きをする垂直多関節ロボットです。人間の腕のような入り組んだ動きができるため、複雑な形状のものを塗装することができます。

図1 6軸多関節ロボットの例

塗装ロボットの特徴

塗装ロボットの導入後は生産量や品質が安定します。また、自由な動きができるロボットだからこそのメリットもありますが、一方でデメリットもあります。

塗装ロボットのメリット

複雑な形状の塗装ができる

多関節ロボットの場合、アームを色々な角度に動かし、被塗物の側面や裏面に回り込むことができます。そのため、平面塗装向きのレシプロ塗装機とは違って複雑な形状の被塗物に対応できます。

作業者の動きを再現できる

現在の塗装ロボットは熟練した作業者の技術には及びませんが、往復するだけのレシプロ機とは違い、人の手の動きをある程度再現することができます。

人手不足の解消・品質の安定・大量生産対応

自動化全般に言えることですが、塗装ロボットを導入することにより、人材の不足を補うことができます。最低限の人員は必要ですが、熟練した作業者を何人も揃えなくとも良くなります。またロボットは人間と違って長時間同じ作業をさせることが出来るため、品質が安定し、稼働時間を延ばせば大量生産も可能になります。

塗装ロボットのデメリット

ティーチング作業が必要

塗装ロボットを動かすためには、事前にロボットに動作を教え込むティーチングを行なう必要があります。ティーチングにはいくつかの方法がありますが、ロボットとの衝突などの事故を防ぐため、労働安全衛生法に従って特別教育を受けた作業者がおこなわなければなりません。

またティーチングは現場のロボットに動作を教えるため、通常は生産ラインを停める必要があります。近年ではあらかじめロボットの動きをシミュレートしたソフトウェアが開発されるなどして、ラインを停めなくても出来る場合がありますが、依然としてティーチングは時間やコスト、手間のかかる工程になっています。

防爆対策・作業者の安全対策が必要

レシプロ塗装機と同様、塗装ロボットにも防爆対策や作業者の保護が必要です。多関節ロボットはレシプロ塗装機よりも複雑な動きをします。回転霧化方式のスプレーガンの場合は、スプレーガンの部品が毎分1万回転以上の高速で回転することもあります。さらに被塗物を載せた台(フィーダー)が動いたり、被塗物を高速で回転させたりすることもあります。このように思わぬところで事故が起こる可能性があります。

作業者との衝突や巻き込みなどは誰もが思い浮かぶ事故ですが、ロボットが被塗物と衝突して破片が飛び、作業者が怪我をしたような事例もあります。このような事故が予想される場合は目の細かい防護柵を設置するなどの対策が必要になります。

設置スペースが必要

塗装ロボットを導入する際には、ロボットと人の動作範囲を考えて、十分な設置スペースを取る必要があります。ロボットの付帯設備や防護柵を設置する場合は、更に広いスペースを確保しなければなりません。

塗料使用量が多い

レシプロ塗装機ほどではありませんが、塗装ロボットが使用する塗料も多めです。導入後に改善を重ねることでレシプロ塗装機に比べて大幅に塗料使用量を削減できますが、それでも熟練の作業者に比べるとムダがあります。

導入コストがかかる

塗装ロボットを購入するにはコストと時間が掛かります。多くの場合ロボット本体だけでなく、治具などの付帯設備も同時に購入することになります。その他にも社員にティーチングの教育を受けさせたり、ティーチングを外注したりするコストが必要になります。これらのコストを単純に積み重ねると、トータルの導入コストは非常に高くなってしまいます。次章では導入コストを抑えるポイントを紹介します。

導入コストを抑えるには?

塗装ロボットの導入で障害になるのは、何と言ってもコストでしょう。ロボット本体の購入コストはもちろんのこと、移載ロボットや防護柵、コンベアなどの付帯設備が塗装ロボットの数倍かかることがあります。それでも、工夫次第である程度導入コストを抑えることができます。

計画的に、段階を踏んで導入する

冒頭で本体以外の設備が数倍の価格になる場合があると説明しましたが、本体と付帯設備を一度に揃えるのではなく、既存設備との配置を考えて、最小限の設備から導入すればコストを抑えることができます。

今現在手吹き作業に合わせて設備を揃えている場合、塗装ロボットの導入前に、自動化に対応できる間口(横幅)の塗装ブースを設置する必要があります。既存の塗装ブースが小さなものの場合、更新や増設の機会に将来の自動化を見据えたレイアウトを検討してみましょう。レイアウトを工夫して既存設備を活用すれば、その後の付帯設備の購入も省略できる部分があるかも知れません。

塗装ロボットを導入する際にも、付帯設備をすべて同時に揃える必要はありません。移載ロボットやコンベアを使わず人の手で被塗物を受け渡しする、ロボットの設置場所を考えて必要な箇所のみ防護柵を設置する、使える既存設備を最大限活用するなど、工夫の仕方は色々あります。

まずは小さな範囲から工程を自動化し、ある程度稼働が安定してノウハウも得られてから自動化の範囲を拡大していくと、比較的大きな負担やトラブルに直面することなく自動化を進めることができます。次回で解説しますが塗装工程は自動化後のカイゼンの積み重ねが大切です。段階を踏んで進めると良いでしょう。

補助金を活用する

塗装ロボットの導入に際しては国や自治体から補助を受けられる可能性があります。補助金制度の目的によって、企業規模や事業内容など、応募の条件があります。

例えば中小企業向けの「ものづくり補助金」を例にとると、2024年3月の応募は「第18次」というように何度も再募集されていますが、公募回によって条件が変わるため、前回の募集と同じ条件で応募できるとは限りません。応募には多くの書類を用意し、事業計画や設備の導入目的をきちんと定める必要がありますが、高額の補助を受けられる可能性があります。

以下は補助制度の例です。(募集は終了している場合があります。)

経済産業省・中小企業庁他「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」

経済産業省 令和5年度補正「中堅・中小企業の賃上げに向けた省⼒化等の⼤規模成⻑投資補助⾦」

サブスクリプションを活用する

近年は産業用ロボットの分野にもサブスクリプションサービスが広がっています。必要な設備の中にサブスクやレンタルで対応出来るものが無いか、確認してみると良いでしょう。サブスク・レンタルは高いと感じる方も多いと思いますが、自社で購入しなくて良い、あるいはコストを一度に負担しなくて良いというのは大きなメリットです。また設置や技術のサポートなど、単純な利用以外のサービスを受けられる場合もあります。

従来、塗装工程は現場ごとの違いが大きく、カスタマイズが必要なため、サブスクリプションは難しいと言われてきましたが、今は塗装ロボットにもサブスクリプションサービスが登場しています。利用すれば初期コストを大幅に抑えることができます。

塗装ロボット「SWAN」のサブスクリプション(アネスト岩田)

まとめ

複雑な形状の被塗物に対応でき、生産量や品質の安定も期待できる塗装ロボットは、大規模な工場だけでなく、中小規模の工場でも導入が進んでいます。製造業の大きな課題である後継者不足を補う意味でも、今後ますます導入が進んでいくでしょう。

塗装ロボットの導入には初期コストがかかりますが、工夫次第でコストを抑えることができます。また、塗装ロボットの導入後は生産量の増加や品質の安定が見込めますが、効率を上げるためには塗装ロボットの作業を見直す“カイゼン”が欠かせません。次回は塗装の自動化後の“カイゼン”について解説します。