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塗装工程をクリーンに保つポイントは? 2023年2月24日

ちいさなホコリでも、塗装不良の原因になります。

クリーンエアについて解説するシリーズの第一回ではクリーンルームや清浄度のクラス分けについて、第二回ではクリーンエアを供給するコンプレッサについてご説明しました。

最終回の今回は、塗装とクリーンエアについてです。塗装工程は製造業の中でも作業環境の清浄度が求められる工程です。本記事ではゴミブツ対策や塗装ブースのチェックポイントについても解説いたします。

不純物が塗装に与える影響

塗装不良の8割はゴミブツ

塗装不良の原因には様々なものがありますが、塗装技術の進歩で対策が難しいものが残った結果、塗装不良の原因の実に8割はゴミブツによるものと言われています。また、固形粒子以外の不純物である水分や油分も塗装不良の原因になります。

塗膜に固形粒子が混ざっていると、粒子の周りに塗料が乗ってさらに膨れ上がり、ブツと呼ばれる膨らみが生じます。また、水分や油分が混ざっていると塗料がはじかれ、ハジキと呼ばれる凹んだ箇所が発生します。

図1

塗装工程で問題になる不良は主に外観不良、つまり目に見える塗面の不良です。一般に人が肉眼で見ることのできる最小のサイズは100~200㎛(0.1~0.2㎜)程度と言われていますが、目に見える不良を引き起こしている原因粒子のサイズは更に小さくなります。例えばブツ不良の原因になる固形粒子のサイズはブツの直径の数分の一から数十分の一の大きさです。高度な品質が要求される塗装工程でもまた、日々目に見えない領域でのせめぎあいがあるのです。

塗装不良の製品は廃棄あるいは塗り直しになります。塗り直す場合は元の塗装をすべて剥がすなどの手作業が発生し、手間も材料費もかかります。塗装工程を軌道に乗せるためには、不純物対策をきちんと行うことが大切です。

不純物はどこから来る?

塗装不良をもたらす固形粒子や水分・油分はどこから来るのでしょうか。作業場やその周辺から来るもの、作業者が持ち込むものなどがありますが、塗料を吹き付ける際のエア、つまりコンプレッサが供給する圧縮空気にも含まれています。

基本対策

コンプレッサの対策

対策の一つ目は、コンプレッサが供給するエアに含まれる不純物を減らすことです。前回の記事で詳しくご説明しましたが、オイルフリーコンプレッサを選定すること、コンプレッサが吸い込むエアの不純物対策をすること、フィルタやドライヤ等の補助機器を使うことで不純物を大幅に低減できます。

不純物の持ち込み・発生対策

供給エアに含まれる不純物を減らすことが出来たら、次は作業場の内外から発生する不純物の対策です。塗装作業の妨げになる不純物は水分・油分の他、隣接する工程で発生する金属や樹脂の加工屑、作業者から発生する髪の毛や皮膚、作業服やウェスの繊維屑、塗料カス、ロボットやコンベヤなどの装置から発生する粉塵などです。

これらは日々発生するため、クリーンルームを設置して作業場の内外を区切っていても、メンテナンスを怠ってしまうと効果を得ることはできません。

塗装作業場には不純物を持ち込まないことが大原則です。作業場の周りを整頓し、中に入る際にはエアシャワーや粘着シートを使って体についたホコリやゴミを落とします。また、作業場内部に塗料カスなどが溜まらないように掃除を行ない、スプレーガン等の塗装機器は使用後に洗浄して塗料カスが混ざらないようにすることが大切です。ワーク自体の静電対策を行ない、不純物が付着しないように対策することも大切です。

不純物は作業者自身からも発生します。塗装作業をする際の服装は他の工程とは分けて、専用の作業着を用意します。髪の毛が落ちないように作業帽等をかぶり、作業服は繊維の発生しにくい素材のものを着用します。また、作業者がホコリやゴミを吸い寄せないように、作業服や作業靴には帯電防止措置がされたものを使用します。

塗装ブースの対策

塗装ブースがホコリやゴミを吸い寄せていませんか?

有機溶剤を使用する塗装作業場には、局所排気装置(塗装ブース)またはプッシュプル型換気装置の設置が義務付けられています。塗装ブースには有機溶剤のミストを排気するほか、余分な塗料も排出して被塗物に再付着するのを防ぎ、塗装不良を低減する効果があります。ただし、塗装ブースは使い方を誤るとかえってホコリやゴミを吸い寄せてしまう場合があります。

塗装ブースに取り付けられた排気ファンは余分なミストと共に周囲の空気も吸い込んで排出します。そのため、給気設備がない場合や、給気設備があっても排気風量の方が多い場合は塗装ブースの内部は空気が足りない、負圧の状態になります。塗装ブースの内部が負圧の場合、排気の効率は良くなりますが、ブース周囲の空気も取り込むことになり、ブースの周囲のホコリやゴミも吸い寄せてしまいます。

塗装ブースの気流チェック

塗装工程を設計する際には給気と排気のバランスを取っているものですが、塗装ブースや排気ダクトを増設していると、給排気のバランスが崩れます。例えば、塗装ブースを増設すると排気風量が増えるので塗装室が負圧になる場合があります。この時は周囲や別の部屋からゴミやホコリを集めてしまうことになります。複数の排気ダクトをつなげたり細いダクトを使っていると、排気風量が減って塗装室内が陽圧になります。この時は塗料ミストを十分に吸うことができませんので、オーバーミストが製品に再付着してしまいます。また、作業者保護の観点からも改善が必要な状況と言えます。また、単純に給気フィルタの目詰まりが原因で給気風量が減っていることもあります。

塗装ブースに向かって流れる気流は風速計などでチェックできますが、無い場合はスモークテスターで調べることも出来ます。排気ファンを稼働させた状態で塗装ブースと反対に向かって空気の流れが生じ、陽圧になっていることが確認できたら、フィルタが目詰まりしていないかチェックしてください。ブースに向かって空気の流れが生じている場合でも、風速計を準備して適正な値なのか調べられるようにすると良いでしょう。

塗装作業場内外の給排気のバランスが取れているのが理想ですが、すぐに給気風量を増やすのが難しい場合は、塗装ブースに向かってホコリやゴミが飛んで行かないように対策します。前述のように空気の流れをチェックし、風上側にあたる場所で発生するホコリやゴミを減らし、塗装エリアとの間をパーティション等で区切って隙間にはフィルタを設置するなどの対策が出来ます。

自動車製造工程は塗装の最先端

自動車の塗装工程は塗装技術の最先端です。自動車の塗装ラインは全体が大きな塗装ブースの中にあり、外部から不純物が侵入することを防いでいます。また、塗装ロボットが導入され、工程のほとんどが自動化されているため、作業員が持ち込む不純物も抑えられています。

これほど厳重な対策を行なっていても、微細な不純物の付着を完全に防ぐことはできません。自動車塗装では塗装して乾燥させた後の検査工程で不純物の付着を発見すると、研磨して補修します。

まとめ

以上、3回にわたって製造業におけるクリーンエアについてお話ししました。製品の微細化や品質基準の厳格化にともない、クリーンエアの需要はますます高まっています。エアの供給源であるコンプレッサの需要もこの流れに従い、オイルフリー製品の活躍の場が拡がっています。

塗装作業もまたクリーンエアを必要とする工程です。他の工程同様にコンプレッサ由来の不純物を減らす他に、局所排気装置が生みだす気流にも注意を払う必要があります。少しの工夫で費用をかけずに改善できる可能性がありますので、ゴミブツ不良にお悩みの場合は一度空気の流れを見直して見ると良いでしょう。なかなか手が付けられない場合は、塗装機器メーカなどに相談してみるのも一つの手段です。