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コンプレッサの省エネ①:吐出圧力を下げると省エネになる理由 2023年3月24日

圧力を下げることが省エネにつながるのはなぜでしょうか。

前回の記事では世界的にエネルギー事情が逼迫している背景や、企業や工場に求められる省エネについてお話ししました。ここからは二回にわたって工場設備の省エネ対策についてお話しします。工場設備の中でもコンプレッサの消費電力は大きな割合を占めており、きちんと対策すれば大きな省エネ効果を得ることも可能です。

コンプレッサの省エネ対策として効果が大きいのは①吐出圧力の低減と②エア漏れ対策です。まずは吐出圧力の低減について、圧力を下げるとなぜ省エネになるのか見ていきましょう。

コンプレッサの省エネ対策の基本

コンプレッサは消費エネルギーが大きい分、日々のメンテナンスや運用方法を見直せば、十分な省エネ効果を生み出すことができます。はじめに基本的な省エネ対策をご紹介します。

定期メンテナンスの徹底

コンプレッサの定期メンテナンスは、トラブルを未然に防いで機器の寿命を延ばすだけではなく、性能維持のために欠かせないことです。性能が落ちれば、それだけ圧縮空気を生み出すために無駄なエネルギーを消費することになります。

すぐにできることで意外と効果が高いのは、吸込みフィルタを清掃することです。吸込みフィルタが目詰まりしていると、コンプレッサが吸い込む空気の量が減ってしまい、圧縮できる空気の量も減ってしまいます。同じ空気量を吐き出すのに余分なエネルギーを使ってしまいます。

コンプレッサへの吸気温度を適切に保つ

コンプレッサの性能は、気温が高くなると低下し、低くなると上がります。

これは、気温が上がると空気の密度が下がることが理由です。例えば、寒い時期に暖房をつけると、暖かい空気は上の方に、低い足元は冷たい空気が溜まって、まったく暖かく感じない、という経験は誰にでもあるのではないでしょうか?これは低い温度の空気は密度が高く重いので、部屋の下の方に滞留しているのです。空気の密度は温度が低くなれば大きくなります。そうなると、同じエネルギーでも作られる圧縮エアの体積は増加するので、高い温度の空気に比べると効率が良くなります。

そのため、特に気温が高くなる時期は、コンプレッサが置かれている場所の換気を見直したり、熱が上がらないように工夫したり、室温管理を行うと省エネになります。

配管サイズ(口径)・長さの適正化

気体や液体などを配管に通して運ぶ際、上流側の圧力と比べて下流側の圧力は低下していきます。これが圧力損失です。圧力損失はそのままエネルギーの損失であり、大きい場合は反省エネと言えます。

圧力損失の原因は流体の粘度や配管内の摩擦など様々ですが、配管が細く長いほど、また曲がりくねっているほど圧力損失は大きくなります。配管が細すぎないか、無駄な流路がないか、急角度で曲がっていないかチェックすると良いでしょう。

ドレン溜りの排除・見直し

コンプレッサから吐き出された圧縮エアは、配管内で冷却されると、抱えきれなくなった水分が水滴となり、配管やエアタンクなどにドレンとして溜まります。

ドレンが配管に溜まると、配管の腐食の原因になるだけでなく、圧力の損失にもつながります。できる限りドレン溜りが発生しないように配管に勾配をつけてルートを計画し、除湿機の設置など露点温度管理を行うことで省エネになります。

台数制御盤の導入

一番シンプルなコンプレッサの省エネ対策は、必要な空気量に対して必要最小限の台数を運転することです。台数制御盤を導入して運転台数を制御すれば、省エネになるだけでなく、各コンプレッサの運転時間を平準化し、機器の寿命も伸びます。

コンプレッサの吐出圧力低減による省エネ

コンプレッサの吐出圧力を下げると、大きな省エネ効果が期待できます。その主な理由は以下の2点です。

コンプレッサの消費電力の節約

コンプレッサは吐出圧力が高いほど、大きなエネルギーを必要とします。下のグラフでは吐出圧力を0.7MPaから0.6MPaに下げることで、理論上消費電力が8%改善することが分かります。

吐出圧力と消費電力のグラフ

図1

エア漏れの低減

一般的に、工場での圧縮エアの漏れは20%程度あると言われています。漏れるエアの量は吐出圧力に比例し、圧力が高ければ高いほどエア漏れは多くなります。浮き輪から空気を抜く時を思い出してみてください。浮き輪の注入口を開けただけでは中の空気は少しずつしか抜けて行きませんが、足で踏んだりして圧力をかけると勢いよく空気が抜けて行きます。配管も同じで、吐出圧力が下がれば、それだけエア漏れは少なくなります。

コンプレッサの吐出圧力低減の手順・注意点

コンプレッサの吐出圧力を低減すれば省エネになりますが、設備稼働に影響がないように慎重に進める必要があります。圧力低減を実施する際の手順や注意しておきたい主なポイントを紹介します。コンプレッサは製造工程に欠かせないので、運用を変更すると影響は多岐に及びます。自社での実施が難しい場合は、省エネの専門機関やコンプレッサメーカに相談してみましょう。

配管の系統図を用意

まずは現状の配管系統図を用意し、コンプレッサの吐出圧力の変更が、どの設備に影響があるのか明確に把握します。この系統図をもとに、現状の圧力、変更に伴う想定圧力などをチェックしていきます。

吐出圧力、供給圧力のチェック

コンプレッサの吐出圧力と、使用している機器すべての配管末端圧力(配管を通り、使用する機器に供給されている圧力)を測定します。製造工程に影響が出ないようにするために、圧縮エアの使用量が最も多いタイミングの圧力を測定しましょう。使用先が多岐にわたったり、タイミングがわからなかったりする場合は、連続して測定して最大使用量を明確にします。

使用機器の必要圧力と、実際の供給圧力の差をチェック

使用先の機器で必要な圧力と、実際の供給圧力に差があれば、コンプレッサの吐出圧力を低減できる可能性があります。特に減圧弁を使用して圧力を絞っている場合は、圧力調整の余裕幅がさらに大きくなっています。下のグラフの例では供給元を出た圧縮空気が少しずつ圧力を下げながら使用先に向かい、使用箇所の手前で減圧弁を設置してさらに圧力を下げています。点線(低減前)から実線(低減後)のように、供給元の圧力を下げる余地があることが分かります。

供給圧力と使用箇所の圧力の差

図2

ちなみに、減圧弁で絞っていないのに吐出圧力と機器への供給圧力に大きな差がある場合は、配管サイズが小さかったり、配管内が汚れていたり、何らかの供給圧力が下がる理由があるので、配管を確認しましょう。

部分的に高圧が必要な機器がある場合

全体的には低圧でも問題がないのにも関わらず、工場内で高い圧力が必要な機械が1台あったら、その機械に合わせて全体を高圧に設定している事例はよくあります。しかし、これは多くの電力を無駄に消費していることになります。

コンプレッサの吐出圧力を下げ、高圧が必要な機械にだけ高圧な圧縮空気を供給する部分増圧にすれば、大きな省エネになります。

段階的に低圧化を実施

大きく吐出圧力を下げることが可能だと判断した場合も、一度に下げないで2回に分けるなど段階的に下げます。またこのとき、減圧弁の調整も行います。

設備への影響を確認しながら進めましょう

コンプレッサの吐出圧力を下げると、冷凍式ドライヤや他の設備に影響が出る可能性があります。供給圧力が下がるとその分供給する空気量が増えますが、ドライヤは性能によって処理できる空気量の上限があるからです。対策としては、まずドライヤが処理できる空気量(処理流量)を確認します。その次に、使用しているコンプレッサの性能曲線を見て、圧力を下げるとどのくらい吐出空気量が増えるか確認します。コンプレッサの吐出空気量がドライヤの処理流量を超えないように目標圧力を設定した上で、設備への影響を確認しながら徐々に供給圧力を下げていくと、不要なトラブルを回避しやすくなります。

まとめ

工場全体の電力使用量の20〜30%を占めると言われるコンプレッサは、吐出圧力を低減すると大きな省エネにつながります。製造工程に影響が出ないように確認しながら、吐出圧力を下げられるか検討してみましょう。配管が複雑化していたり、圧力の測定が難しかったり、自社だけでの実施が難しいと感じた場合は、コンプレッサメーカや省エネの専門機関に相談してみてください。

次回は、コンプレッサのもうひとつの省エネ対策である「エア漏れ対策」について詳しく解説します。

参考リンク

一般財団法人省エネルギーセンター「工場の省エネルギーガイドブック2022」