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省エネにもなる、コンプレッサの夏のトラブル対策 2023年7月21日
夏の暑さはコンプレッサにも負担になります。
夏の対策シリーズの第3回は、夏にコンプレッサで起こりやすいトラブルと、その対策について解説します。
コンプレッサは設置環境に大きな影響を受ける設備です。コンプレッサが作る圧縮空気の質や、コンプレッサが消費するエネルギーなどは周囲の気温や湿度によって変わってきます。夏の高温多湿がコンプレッサに与える影響を改めて確認し、本格的な夏の前にあらかじめ対策をしておきましょう。
高温がコンプレッサに与える影響
空気は温度が高くなると体積が大きくなり、膨張します。重さは変わらずに体積が大きくなるため、空気の密度は下がっています。
図1 空気の膨張
コンプレッサは周囲の空気を吸い込んで圧縮空気を作るため、空気の密度が小さいほど多くのエネルギーを使って圧縮空気を作ることになります。そのため、周囲の気温が高ければ高いほどエネルギー消費量は多くなり、夏の高温はコストアップの要因になります。
また、近年の日本の夏は異常な暑さになることが珍しくありません。コンプレッサの設置場所の規定温度は一般に2℃~40℃ですが、コンプレッサは稼働すると周囲に熱を放出するため、換気が不十分な状態だと設置場所の温度が上がってしまいます。夏場に外気温が30℃を超えているような時は、設置場所の換気が悪いままだと周囲温度が40℃を超えてしまうこともあります。
規定温度を超える条件下でコンプレッサを稼働させると、パッキン・ピストン等の樹脂部品やグリスの消耗が早くなり、金属部品にダメージが出てコンプレッサの寿命を縮めてしまうリスクがあります。また、ピストンリングが摩耗していると供給空気量が減ったり、オイルの消費量が増えたりする原因にもなります。
多湿がコンプレッサに与える影響
日本の夏は気温が高くなるだけではなく、湿度も高くなります。ジメジメした多湿の気候は、コンプレッサにさまざまな影響を与えます。
ドレンの増加
コンプレッサは空気を圧縮しますが、空気に含まれる水分は圧縮されません。圧縮空気は配管を通ると冷却されますが、その際に空気中に抱えきれなくなった水分が結露して水となり、ドレンとして出てきます。もともとの空気に含まれる水分量が多ければ多いほど結露しやすいので、湿度が高いと大量のドレンが出ることになります。
給油式コンプレッサを使っている場合、ドレンには鉱物油が含まれるため、そのまま排水することは水質汚濁防止法で禁止されています。産業廃棄物として処理が必要で、処理にはコストがかかります。もちろん、ドレンが多ければ多いほど処理費用は高くなり、夏の多湿はコストアップの要因になります。
その点オイルフリーコンプレッサは圧縮室の内部に潤滑油が使われていないため、ドレンが基準を満たしていれば下水道に排出できますが、コンプレッサは周囲の空気を吸い込んで圧縮することに注意が必要です。周囲の環境に油分が含まれているような場合はオイルフリー式といえどもドレンに油分が含まれ下水道に排出できなくなるため、ドレン処理の費用が発生する可能性があります。
水分混入のリスク
多湿の環境下で作られた圧縮空気には、ドレンが出たあともまだ多くの水分が含まれています。そのまま使うと、さらに空気が冷却されて二次側で水滴になるリスクが高くなります。また、ドライヤの故障や経年劣化によって処理能力が落ちている場合、ドライヤが処理しきれなかった水分が二次側へと流出する可能性があります。
圧縮空気に水分が含まれていると、塗装ではハジキが生じるなど再塗装が必要になったり、設備の故障の原因や配管が錆びる原因になったりと、さまざまな悪影響があります。
夏のコンプレッサのトラブル対策
夏に向けて備えておきたい対策を紹介します。
設置場所を見直す
設置場所
コンプレッサを設置する際には直射日光の当たらない、風通しの良い場所を選ぶ必要があります。既設のコンプレッサが直射日光に当たっている場合は、設置場所の再考や屋根や壁の設置を検討する必要があります。
設置スペースの確保
コンプレッサの取扱説明書には「どの面を壁から〇センチ離す、コンプレッサを並置する場合は間を〇センチ以上空ける」といった設置の条件が記載されています。壁や隣の機械との距離が十分に取れていないと排熱が出来なかったり、排熱風が吸気側に回り込んで吸気温度が上がってしまったりします。十分な距離が取れているか再確認してみてください。
換気を十分におこなう
コンプレッサの換気を考える時、部屋全体で考える全体換気と、ダクトによる局所換気があります。いずれにしろコンプレッサの設置場所の温度が40℃を超えないように換気の計画を立てます。
全体換気
全体換気の場合は換気扇や給排気口を使った換気になります。基本的に設置時には必要な換気量を確保しているはずですが、機械の増設や機種の変更で当初は足りていた換気量が足りなくなっている事もあります。その場合は給気口や換気扇を増設するなどして必要な換気量を確保してください。
必要換気量の計算は放熱量の算出から行います※1。設置されている機器の出力から放熱量を求め、さらに放熱量から必要な換気量が求められます。
換気量に加えて、コンプレッサが吸い込む空気のことも考慮する必要があります。必要換気量とコンプレッサの吐き出し空気量を合わせた量が、コンプレッサ室全体の吸気量になります。
図2 全体換気
局所換気
ダクトを使った局所換気は全体換気よりさらに効果的です。コンプレッサが空冷式の場合や、近くに他のコンプレッサやボイラーなどの発熱体がある場合、コンプレッサは周囲の温められた空気を吸ってしまいます。必要に応じて排気ダクトや吸気ダクトを取り付けてコンプレッサ室の外と直接換気できるようにすると良いでしょう。
ダクトを取り付けるにあたっては、いくつか注意しなければならない点があります。まずダクトは空気の流れを妨げることの無いように圧力損失の少ない形状にする必要があります。排気側の空気の流れが滞ると十分な換気が出来ませんし、吸気側に圧力損失が生じてコンプレッサが吸い込む空気の量が減ってしまうと、コンプレッサの性能が低下してせっかく吸気温度を下げた効果を打ち消してしまいます。
また、コンプレッサには排気口が何カ所かある場合がありますが、コンプレッサ内蔵の冷凍式ドライヤの排気口には換気扇付きの排気ダクトを設置してはいけません。別置式冷凍ドライヤの場合も同様です。強制排気によって過冷却がおこり、ドライヤ内部が凍結してしまう可能性があります。
図3 ダクトによる局所換気
圧縮空気を除湿する
湿度が高い空気を吸い込んだ場合、圧縮空気の湿度も高くなります。圧縮空気を除湿するエアドライヤや除湿用エアフィルタなどを使うと、水分の混入リスクを下げることができます。
コラム 温度差にも注意
コンプレッサ室にはエアコンなどの空調を施していない場合がほとんどです。空調がなくとも換気が出来ていればコンプレッサが高温で停止するような事態にはなりませんが、結露には注意が必要です。エアドライヤなどで圧縮空気を除湿しても、コンプレッサの設置場所と供給先の温度差が激しいと結露が生じることがあります。
例えばドライヤ内蔵式のコンプレッサで作られた圧縮空気の供給先が空調の効いた涼しい部屋だったりした場合、コンプレッサ室内の環境で圧縮空気を乾燥させてから送り出したとしても、供給先の気温が低いために結露が発生することがあります。その場合は供給先で再度除湿するなどの対策が必要になります。設置場所と供給先の温度差にも注意しましょう。
図4 温度差による結露
ドレン抜きや掃除をこまめにする
エアタンク内に溜まったドレンを放置しておくと、タンク内の容量が減ってコンプレッサの発停回数が増えてコンプレッサに負荷がかかってしまいます。またドレンが溜まっていると二次側に水が流出する可能性があります。ドレンは毎日終業時には抜くようにしましょう。自動的に排出するオートドレン(エアートラップ)を使うこともおすすめです。
また、吸気口や排気口、吸い込みフィルタはこまめに掃除をして、空気の流れを妨げないようにしましょう。清掃時は必ずコンプレッサのメイン電源をOFFにしてから行ってください。
まとめ
高温多湿な日本の夏は、生産現場にさまざまな影響があります。高温多湿の影響を改めて確認し、トラブルが起きないように早めに備えておきましょう。