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脱プラについて考える① ~なぜ脱プラが必要なのか?~2022年7月22日

海へ流れたペットボトルはどうなるのでしょうか。

私たちの暮らしのさまざまなシーンで使われているプラスチック。加工がしやすく、軽くて低コストと非常に便利ですが、一方で地球温暖化など世界で課題になっている環境問題と密接に関わっていると言われています。

そのため、環境問題への意識が高まる中、世界的に「脱プラスチック」の動きが加速しています。日本でもプラスチック削減に向けた取組みが求められるようになってきました。そこで今回から3回にわたって、さまざまな角度から脱プラスチックについて解説します。初回となる今回は、改めて確認したいプラスチックの基礎知識や、脱プラスチックが求められる背景についてご紹介します。

「プラスチック」(合成樹脂)の基礎知識

「プラスチック」とは?

「プラスチック」という言葉は、英語で「自由に形を作れる」という意味です。この言葉通り、プラスチックの大きな特徴のひとつは複雑な形でも簡単に加工できること。また、軽くて衛生的、大量に安く作れるなど、さまざまなメリットがあり、私たちの暮らしに深く根付いています。ちなみに、「合成樹脂」とも呼ばれますが、これは天然の松や漆の木から出るネバネバした樹脂を参考に作っているために呼ばれるようになりました。

プラスチックの原料はよく知られていますが原油です。原油は石油精製工場で加熱され、気体になる温度の差を利用してガソリン、ナフサ、灯油、軽油、重油、アスファルトに分けられ、プラスチックはこの中の「ナフサ」から作られます。日本は原油を輸入に頼っていますが、ナフサも国内で精製する分だけでは足りず、輸入しています。ナフサにさらに熱を加えると、エチレンやプロピレンなどさまざまな石油化学基礎製品がつくられます。これらの基礎製品をつなぎ合わせてプラスチック原料がつくられますが、つなぎ合わせる成分によってたくさんの種類のプラスチックが生まれ、それぞれ性質も用途も異なります。

代表的なプラスチックの種類と用途

これらの種類の他にも、多くのプラスチックが開発されています。例えば、自動車は鉄の比重に対して1/8〜1/10ほどの軽いプラスチックを使うことで軽量化や省エネ化を実現することができるので、多くの部品でプラスチックへの置き換えが進んでいます。衝撃に強く、透明であることが特徴の「ポリカーボネート(PC)」は、ヘッドランプレンズやドアハンドルなどに使われてきましたが、近年では窓ガラスにも採用され、話題になりました。また、耐熱性、高強度が特徴の「熱可塑性ポリイミド(TPI)」は、エンジン部分に使われています。

プラスチックの有効利用

さまざまな用途で使われているプラスチックですが、近年はそのまま「使い捨て」ではなく、一度使ったプラスチックを有効利用することが当たり前になりました。2020年は、廃プラスチックの有効利用率は86%と高い水準になっています(※1)。

先ほど例に挙げた自動車の部品では金属からプラスチックへの置き換えが進んでいると説明しました。実は、日本車の内装品の多くにポリプロピレン(PP)が採用されています。この樹脂はリサイクルが可能で、廃車になった後に別の使い方ができるのです。

ちなみに、欧州車ではABSが多く使われます。なぜかと言いますと、PPと比較して製造する時のエネルギーを低く抑えることができるからと言われています。どちらも地球環境に配慮していると言えますが、日本のメーカーは使った後の再利用を考え、欧州車は作る際のエネルギー消費に重きを置いていることがわかります。

「脱プラスチック」が注目される理由は?

プラスチックの有効利用が進められていますが、そもそもプラスチックをできるだけ使わないようにする「脱プラスチック」が注目されています。プラスチックはさまざまな用途で使われ、私たちの暮らしに欠かせないものになっているのにも関わらず、なぜ「使わない」ことが注目されているのでしょうか?

地球温暖化

プラスチックは「生産」「処分」「経年劣化」のすべての過程で、温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素など)を排出します。もちろん、有効利用して再生産されるときも同じです。特に最初の「生産」は、原油から製造されるので、資源を大量に消費します。さらに採掘時や輸送時に大量の二酸化炭素を排出しています。資源は有限で、今後需要的にも価格的にも高騰が続くと見られる中、できる限り資源を使わないようにする動きは当然と言えます。

海洋汚染

浜辺に漂着する海洋ごみのうち、もっとも割合が多いのはプラスチックごみです。捨てられたプラスチックごみが河川から海に流れ込んでいるためで、世界の海には毎年少なくとも800万トン分のプラスチックごみが流出していると言われています(※2)。プラスチックの海洋ごみは、すでに海の生態系に影響を与えています。魚類、海鳥、アザラシ、ウミガメなどが、漁網などに絡まったり、ポリ袋を餌と間違えて摂取したりして、傷つけられたり死んだりしています。

さらに良くないのは、海に流出したプラスチックは劣化の過程で細かいプラスチックの破片(マイクロプラスチック)になるのですが、この破片は化学物質を吸着しやすい特徴があります。プラスチックの破片を海洋生物が誤飲してしまうこともあり、さらに悪影響が広がる可能性があります。プラスチックは劣化しても自然に還ることはなく、形を変えながら海に残り続けて、影響を与え続けてしまいます。

SDGsとの関連性

「SDGs(Sustainable Development Goals)=持続可能な開発目標」ではプラスチックに関して直接的な記載はありませんが、17の目標のうち以下の2つは、プラスチックごみの削減や脱プラスチックと関連があります。

目標13「気候変動に具体的な対策を」

プラスチックは生産、処分、経年劣化のすべての過程で温室効果ガスを排出します。そのため脱プラスチックを進めることは、気候変動への具体的な対策になります。

目標14「海の豊かさを守ろう」

海そのものだけではなく、生態系を含めた海洋資源の保護を目指しています。海洋のプラスチックごみは海の生態系に悪影響を与えているので、脱プラスチックを進めることは、海の豊かさを守ることにつながります。

循環型社会とプラスチック

循環型社会を目指すキーワード「3R」

環境に配慮し、持続可能な循環型社会を目指すためのキーワードがReduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)の3単語の頭文字「R」からなる「3R」です。

Reduce(リデュース)

発生抑制:使用済みになったものが、なるべくごみとして廃棄されることが少なくなるように、ものを製造・加工・販売すること。

Reuse(リユース)

再使用:使用済みになっても、その中でもう一度使えるものはごみとして廃棄しないで再使用すること。

Recycle(リサイクル)

再資源化:再使用ができずにまたは再使用された後に廃棄されたものでも、再生資源として再生利用すること。

2000年に廃棄物処理とリサイクルの基本法として制定された循環型社会形成推進基本法(通称:循環基本法)では優先順位を① Reduce、② Reuse、③ Recycle、④ 熱回収、⑤ 適正処分と定めています。しかし、プラスチックは私たちの生活に深く関わっている製品だからこそ、使わないリデュースをいきなり実施することは難しく、この順位と逆に取組が進み、リサイクルによる有効活用率は86%と高水準になっています。 ごみとして廃棄されがちなプラスチックを使わず、代替製品を使って製造・加工・販売するリデュースの取組は、最近になってようやく加速してきました。

「リデュース=脱プラスチック」の身近な取組み

日本で脱プラスチックへの意識が高まったのは、レジ袋の有料化によるマイバッグ推進ではないでしょうか。使い捨てのプラスチックのレジ袋の代わりに、布などのマイバッグを持参して買い物に行くことが当たり前になりました。マクドナルドなどのファストフードチェーンではプラスチックのストローから紙製に切り替えたり、ファミリーレストランのフリードリンクコーナーでは店員に声をかけない限りストローが提供されなくなったり、身近なところで脱プラスチックを感じることも多くなりました。

個人単位だけではなく、企業活動においても脱プラスチックの動きは進んでいます。アネスト岩田では最初の取り組みとして、スプレーガンの輸送や梱包に使うPPバンドの廃止を実施し、年間36kgのプラスチック使用量を削減しました。さらに、スプレーガンに付属している掃除用ブラシの素材を竹に変更し、年間2tのプラスチック削減を予定しています。その他にも包装用の緩衝材を順次エコ素材に変更していくなど、取組みを進めています。

まとめ:脱プラスチックで持続可能な社会を

環境に対する意識が高まり、持続可能な社会を目指すSDGsの実現のためにも、今後はますます脱プラスチックの動きが加速することは間違いありません。たとえ小さな一歩でも、少しずつ進めることが大切です。 また、どちらかと言えば日本よりもヨーロッパなど諸外国のほうが、脱プラスチックに向けた取組は進んでいます。次回は海外での脱プラスチックの動向や今後の見通しについて解説します。