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クリーンエアとは?きれいな空気はどこで使われている? 2023年1月27日

目に見えない粒子をコントロールしています。

私たちの身の周りの空気は一見透明できれいに見えますが、実はホコリや細菌などの目に見えない微粒子がたくさん含まれています。これらの空気中の微粒子をできるだけ排除した「クリーンエア」は産業のさまざまな分野で必要とされています。

近年の品質基準の厳格化や精密機器の細密化に伴い、クリーンエアについても要求される基準が高くなってきました。そこで今回から3回に分けて「クリーンエア」「空気の清浄度」について解説していきます。第1回は、クリーンエアの基礎知識についてご紹介します。

クリーンエアとは?

空気にホコリや細菌などの微粒子が含まれたままだと、半導体や精密機器のような非常に細かい製造品を作る場合、ホコリが付着すると回線がショートするなどのトラブルが起こる可能性があります。また、食品の製造現場では、細菌など微生物の存在は、安全衛生的に大きなリスクです。

そのため、空気内に浮遊する微粒子による悪影響が懸念される場では、エアフィルタなどを通して微粒子を清浄したクリーンな空気(エア)が必要となります。

クリーンエアの清浄度はどのように決まる?

クリーンルームの清浄度レベル

クリーンエアは清浄の度合いによってレベル(等級)があります。クリーンエアで室内を満たしたクリーンルームの等級は、単位容積あたりの空気に含まれる微粒子のサイズと数で決まります。クリーンルームの規格には国際的にISO 14644-1が採用されており、図1のようにクラス分けがされています。

クリーンルームの清浄度等級(ISO 14644-1)

図1

他の規格としてはJIS規格があります。JIS規格(JIS B9920)は全面的にISO 14644-1の規格に従っています。また、米国連邦規格(FED)はクリーンルームの規格として最初に定められたもので、現在では廃止されていますが、長い間影響力があったため、日本でも米国連邦規格を基準にする習慣が残っています。米国連邦規格では粒子径や対象となる空気容量が異なりますが、単位容積あたりの粒子数でクラス分けする点は同じです。

製造業の中でも厳しい基準が求められるのは半導体の製造工場で、集積回路などを製造する工程ではclass3~5の清浄度が要求されます。比較的基準が緩やかなのは印刷工場や自動車部品の工場で、必要とされる清浄度はclass7~8と言われます(部品によって要求される清浄度は異なります)。

緩やかと言っても、0.1~5㎛サイズの微粒子の数をコントロールするだけで凄いことです。例えば花粉のサイズは30~40㎛、大気汚染で話題になる微粒子PM2.5はその名の通り2.5㎛以下、ウィルスの核でも0.1~0.3㎛サイズと言われます。まさに目に見えない世界ですね。

圧縮空気の清浄度レベル

工場の中には圧縮空気が動力源の機械があり、エアコンプレッサによって圧縮空気が供給されています。そのため、クリーンエアを実現するために欠かせない圧縮空気も、JISやISOにより清浄度レベルでクラス(等級)が決められています。

JIS 8392-1(ISO 8573-1)では下記の条件で規格が定められています。この規格では圧縮空気中の汚染物質を固体粒子・水・オイルの3つとし、それぞれに清浄等級を分けています。

圧縮空気の清浄度等級(固体粒子)

図2

圧縮空気の清浄度等級(湿度・水分)

図3

圧縮空気の清浄度等級(オイル・オイルミスト・オイル蒸気)

図4

こちらの規格はあくまで工業規格であり、医療用や呼吸用に直接含まれる空気には適用されません。

クリーンエアの作り方

クリーンルーム

クリーンルームは高性能のフィルタを通したクリーンエアで室内を満たし、空気中の浮遊物を減らしています。半導体や精密機器などの製造に利用されるインダストリアルクリーンルームでは、空気中の微粒子が管理され、製品の品質を高めるだけではなく生産性を向上させることにも貢献します。

一方、主に空気中の微生物が管理され、食品加工やバイオテクノロジー、医療分野などで利用されるのがバイオロジカルクリーンルームです。空気中に存在している菌だけでなく、床に落下して堆積してしまう菌の数もコントロールすることが必要です。

どちらも、高い清浄度を求めれば求めるほど、性能が高いフィルタなどを使う必要があります。また、微粒子や微生物を持ち込まないようにする管理・運用も重要です。人が入室する際のエアシャワー、微粒子が発生しにくい作業服の着用、物品の出し入れの管理、換気の工夫など、高い清浄度を実現しようとするほど、コストも高くなります。

圧縮空気

エアコンプレッサが給油式タイプの場合、吐き出された圧縮空気には油分が含まれます。また、製造工場の空気には、生産用機械などオイルを使う装置からの油分が浮遊しています。油分を含まない圧縮空気を作るには、オイルフリーのコンプレッサが適しています。オイルフリーコンプレッサから排出されるドレンには油分を含まないので、ドレン処理の手間とコストを削減することができます。

ただし、コンプレッサは設置した周囲の大気を圧縮するため、周囲に油分や有害なガスが充満する環境の場合は、吐き出される圧縮空気、排出するドレン共に注意が必要です。

給油式のコンプレッサでもエアフィルタ類を組み合わせて、エアに含まれるオイル量を削減することができます。ただし、フィルタは日常点検を怠ると劣化してしまい、オイルが流出するリスクがあります。また、圧縮空気に含まれる水分(湿気)を除去するには、エアドライヤを使います。

HACCPがクリーンエアに与える影響

2018年6月の食品衛生法の改正により、2020年6月から食品に関わる事業者すべてに対して、HACCPに沿った衛生管理が義務付けられることとなりました。食品が生産される室内のエアも、生産ライン上で使われる圧縮空気も、HACCPの管理対象です。

食品汚染を防止するため、食品に直接触れていないエアにも安全管理が求められるようになりました。

まとめ

空気中にはホコリや微生物などの浮遊物が存在します。精密機器の生産現場や医療現場では、これらの浮遊物によりトラブルに発展する可能性があるため、クリーンエアで満たされた環境が必要となります。必要とされるエアの清浄度は、製造されている品目や求められる衛生基準などにより異なるので、定められた基準を再確認して、適切な環境を整備しましょう。

次回は、クリーンエアの実現に必要なコンプレッサや周辺機器について解説します。