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高温多湿の夏は特に注意!湿式塗装ブースの悪臭対策

暑くなる前に対策しておきましょう。

近年の日本の夏は、まさに猛暑という言葉がぴったりです。気温も湿度も非常に高くなり、生産現場でも対策が必要になってきます。そこで今回から3回にわたって、夏に向けて知っておきたいリスクと対策を解説します。

湿式塗装ブースは、水を利用して塗料ミストを捕集し、作業者の健康を守る設備です。乾式塗装ブースに比べて捕集できる塗料ミストの量が多く、フィルター交換も不要という長所がありますが、暑くなると水槽から悪臭が発生しやすく、職場環境の悪化や近隣トラブルにつながります。

シリーズ第1回の今回は、こうした夏に起こりやすい塗装ブースの悪臭トラブルとその対策、悪臭に関連する法規などをテーマに解説します。

悪臭に関する規制はどんなものがある?

まずはどんな法規制があるかを見ていきましょう。工場や事業所から発生する悪臭は、主に「悪臭防止法」により規制されています。

この法律は、工場などから排出される悪臭を規制し、生活環境の保全と国民の健康の保護をはかるものです。規制の枠組みは、適用される「地域」と、地域内の工場・事業場に課される「基準」で構成されています。

悪臭防止法の規制する範囲

適用範囲は、都道府県知事が指定する規制地域内の工場・事業場です。

排出規制の対象

規制の対象は「特定悪臭物質」と「臭気指数」です。

1.特定悪臭物質

「特定悪臭物質」とは、不快な臭いの原因となり、生活環境を損なうおそれのある物質で、政令で指定されたものです。現在、22物質が指定されています(表1、悪臭防止法施行令第1条参照)。そのうち10物質は主に塗装工程で発生するものです。また、表では主な発生源とされていませんが、塗料スラッジが腐敗すると硫化水素が発生し、これもまた悪臭の原因になります。

表1

2.臭気指数

「臭気指数」とは、人間の嗅覚によって臭いの程度を数値化したものです。正確には、臭いのついた空気や水を臭いが感じられなくなるまで無臭空気(無臭水)で薄めたときの希釈倍数(臭気濃度)を求め、その常用対数を10倍した数値です。

臭気指数=10×Log(臭気濃度)

例えば臭気を100倍に希釈して、大部分の人が臭いを感じられなくなった場合、臭気濃度は100、その臭気指数は20となります。なお、臭気を10倍に希釈したときの臭気指数は10となります。

※常用対数・・・任意の正の数xに対し、x=10aで定められる実数aをxの常用対数といいます。上の最初の例だと希釈倍数x=100ですので、x=102から常用対数a=2が求められます。臭気指数はaの10倍ですから、100倍に希釈して臭いが感じられなくなる物質の臭気指数は20という結果になります。

規制基準

以下のそれぞれについて、特定悪臭物質または臭気指数の基準が定められています。

  • 1号基準:敷地境界線
  • 2号基準:気体排出口
  • 3号基準:排出水

図2

規制地域や規制基準は各自治体によって異なりますので、まずは工場や事業所所在地の自治体の規制を確認する必要があります。

また、自治体によっては悪臭防止法とは別に独自の環境保護条例を設けている場合があり、これらの条例では悪臭防止法の規制地域に関わらず、悪臭を発生させる作業全般に規制が及ぶこともありますので、注意が必要です。

悪臭トラブルの現状

悪臭トラブルは周囲からの苦情によって顕在化することが多く、自治体に苦情が寄せられると現地調査や立ち入り調査が入ります。調査により、悪臭防止法の規制基準に適合していない上に、住民の生活環境が損なわれていると市町村長が認めると、改善勧告や改善命令を行うことができます。命令に違反すると、1年以下の懲役や100万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

環境省の調査によると、自治体に寄せられる悪臭に関する苦情は2000年頃をピークにして、その後は減少傾向にあります。時折増加することがありますが、2020年以降はまた減少傾向が続いています。

2024年度の悪臭の苦情総数は11,076件で、そのうち悪臭防止法の規制対象となる規制地域内の工場・事業場に対するものは4,087件(全体の36.9%)、規制地域外の工場・事業場に対する苦情は1,281件(11.6%)で、下記のグラフのようになっています。

全体を通してみると、規制対象外のいわゆる「ご近所トラブル」が半数以上を占めるものの、工場や事業場に対する地域の目も厳しいことが分かります。

図3

規制対象の4,087件のうち、立入検査が行われたのは708件、行政指導が615件、悪臭防止法にもとづく改善勧告が出されたのは5件、改善命令は1件でした。立入検査や行政指導の割合が高くなっています。

悪臭の苦情が寄せられると、改善に向けて何らかの対応を迫られることになります。場合によっては大規模な投資が必要になることもありますので、あらかじめ臭気の発生が想定される場合には早めに対策をしておきましょう。

夏の湿式塗装ブースの悪臭

それでは、具体的な事例を見ていきましょう。夏は高温多湿になるため雑菌が繁殖しやすくなります。特に、悪臭が発生しやすいのが湿式塗装ブースです。

湿式塗装ブースで悪臭が発生する理由

湿式塗装ブースの悪臭は、例えると「腐った卵のような臭い」です。この臭いは硫化水素で、硫黄と水素の化合物です。湿式塗装ブースは水槽の水を循環させて余分な塗料を回収していますが、回収された塗料(塗装スラッジ)が水槽の底に沈殿し、塗料に含まれる有機物が腐敗すると、硫化水素が発生します。

高温多湿の環境は腐敗を促進するため、夏場は特に臭いがきつくなります。硫化水素は悪臭防止法で排出規制の対象になっている特定悪臭物質のひとつです。各自治体で定められている排出基準を守る必要があります。

塗装ブースで悪臭は取れない

塗装ブースでは、悪臭を塗料ミストのように捕集することはできません。しかも、塗装ブースを運転していると、ブースの中の悪臭を纏った空気がそのままダクトを通って建物の外に排出されることになり、周囲からの苦情につながります。近隣トラブルを防ぐためには、悪臭を発生させない根本的な対策が必要です。

悪臭を発生させない対策

本格的な夏を迎える前に、対策を講じておきましょう。

こまめな清掃

悪臭を発生させない一番の基本は、塗装ブースの水をきれいに保つこと。つまり、こまめな掃除が大切です。掃除を怠って水槽内に溜まった余分な塗料(塗料スラッジ)が堆積すると、水がスムーズに循環されなくなるため、ブースの機能低下にもつながります。塗料スラッジがカチカチに固化した状態になると、清掃することも難しくなってしまいます。

日々の業務に追われると、掃除をする時間がなかなか取れないため、始めから掃除が簡単な塗装ブースを選ぶこともポイントです。

薬剤の投入

水槽内に溜まった塗料スラッジは、悪臭の発生やブースの機能低下などのトラブルの元になります。塗料スラッジの凝集剤を使うと、スラッジを回収しやすくできます。凝集剤は水と塗料スラッジを分けることで、水の交換頻度や廃棄するスラッジの量を減らすことができるため、産業廃棄物の処理コストも削減できます。

塗料スラッジ捕集システム

湿式塗装ブース内の塗料スラッジ処理を自動化することで、メンテナンスの負荷を大きく軽減することができます。さまざまな捕集システムがありますが、アネスト岩田の「ブースリフレッシャ」は遠心分離機で塗料スラッジと水を分離し、清浄化した水をブースに戻す仕組みです。

図4

pHの管理

水のpH値が下がって酸性度が増すと、微生物が繁殖しやすくなってさらに腐敗が進み、悪臭の元になります。水槽の水がpH値9〜10の弱アルカリ性を維持するように管理すると、塗料スラッジからの悪臭を防ぐことができます。また、酸性の水は水槽の鋼板など接液部の腐食原因にもなるため、pHの管理をすることは塗装ブースの寿命を延ばすことにもなります。

先程ご紹介した塗料スラッジの処理剤には湿式塗装ブース内の水をアルカリ性に調整する成分が含まれていますが、使っている塗料の酸性度合いが高い場合などは処理剤だけでは間に合わないため、追加で水酸化ナトリウム水溶液を投入して調整する必要があります。

まとめ

夏になり気温が上がると、湿式塗装ブースに溜まった塗料スラッジが腐敗して悪臭のもとになります。清掃や水のpH値管理などを徹底して行うようにしましょう。悪臭対策をすることは作業環境を整えるだけでなく、塗装ブースを長く良い状態で使用することにもつながります。

高温多湿の夏は塗装にさまざまな影響を及ぼします。次回は夏の塗装現場で起こりやすいトラブルとその対策について解説します。

参考リンク

環境省 悪臭防止法の概要

神奈川県の悪臭防止規制

環境省 悪臭防止法調査状況

2023年6月23日 公開
2026年4月24日 最終更新