KAIZEN記事
塗装環境のクリーン化と品質向上のための検討ポイント2020年7月17日
塗装環境のクリーン化と品質向上のための検討ポイント
塗料から発生するVOC
従来から、環境負荷の観点や労働環境の観点から見直しが急務とされている作業の一つに「塗装」があります。塗装に用いられる塗料の多くは揮発性有機化合物を含んでおり、そうした揮発性有機化合物を総称して「VOC(volatile organic compounds)」と呼びます。
このVOCは光化学スモッグの発生原因となることが知られており、近年VOC削減に向けた取り組みを環境庁などが主体となり、積極的に推進しています1)。
出典:環境省:すぐにできるVOC対策(塗装で取り組むVOC削減の手引き)1)
また、粉塵などが人体に及ぼす影響についても問題視される機会も多く、塗装環境の抜本的な見直しは急務と言えます。
塗装環境が与える様々な影響について
では実際に正常な塗装環境が整っていない現場ではどのような問題が発生しているのでしょうか? ここでは、そうした塗装環境によって発生する可能性のある様々な問題についてご紹介するとともに、その改善策についてもご紹介していきます。
有機溶剤による環境負荷
前述の通り、塗料や溶剤に含まれる揮発性有機化合物が大気に放出されることで光化学スモッグなどの環境問題を引き起こすことが知られています。また、上記の図のように大気に放出されるVOCの最大の要因は塗装に関連した作業からで、全体の半分以上の割合を占めています。 こうしたVOCの排出を低減する手段として、様々な取り組みが行われています。
低VOC塗料への変更
揮発性有機溶剤の含有量を少なく抑えるまたは、揮発する量を少なくすることのできる塗料への変更です。 水性塗料や粉体塗料への変更などがこれに当たります。
水性塗料は、15年前ほど前から新車の塗装で使われていますし、塗装ラインのすべてを水性塗料に転換済みの完成車メーカーもあります。ヨーロッパでは日本国内より早くから厳しい規制がありましたが、2007年からさらに溶剤型塗料の使用規制が厳しくなり、水性塗料への切り替えが進みました。
粉体塗料はVOC削減という面ではアドバンテージがありますが、色の種類や粉体の回収方法に難点が多く、今後の技術革新が待たれます。専用の捕集装置が必要であり、従来から使っている溶剤塗料の塗装ブースや乾燥炉を転用しにくいことも、採用が進まない要因かもしれません。
高効率設備への変更
吹付塗装の場合、製品に付着する塗料の他に、どうしても周辺に飛散して無駄になってしまう塗料が発生します。一般的な吹付塗装の場合、付着する塗料は使用量(スプレーガンの先から噴出した量)の20%程度と言われています。一般的に、低圧で塗装できる設備を導入するとこの値が25~30%に向上し、静電塗装機を使うと40%~50%ぐらいまで付着する効率を高められると言われています。つまり、塗料が付着する効率の高い機器を使用することで無駄を減らすということです。塗料の消費量を少しでも軽減できる塗装設備に入れ替えることで塗料の使用量を減らし、VOCの発生を抑制することができます。
専門家によるアドバイスなど
VOCの削減に関しては、まず社内で発生するVOCの総量を把握するなど専門的な手法が必要となることが多くなります。例えば東京都などでは対策意欲のある企業からの依頼に基づき専門家を派遣するなど、改善のアドバイスをしてくれる自治体もあります。2)。
粉塵などによる人的被害
塗装の現場ではどうしても一定量の粉塵や塗装粉が発生します。こうした粉塵や塗装粉を作業者が吸引してしまうことで、塵肺などの被害の発生が懸念されます。また、塗料に含まれる「エチルベンゼン」という揮発性物質は、吸引すると癌を発症させる危険性のある「発がん性物質」として特に危険視されており、先ほどの粉塵などと合わせて、厚生労働省では塗装作業に関する労働環境の基準などを設け、広く関連業界に周知を行っています3)。
このような粉塵やVOCの吸引といった人的負荷を軽減する方法として、捕集効率の高い局所排気装置(塗装ブース)の導入などが推奨されています。また先ほど紹介した高効率な塗装機器の導入なども推奨されています。
塗装品質の悪化
古い塗装設備の場合、製品に付着しなかった塗料ミストが設備内に滞留し、塗装工程の中で様々な問題を引き起こす温床となっています。 溜まった塗装ミストが巻き上げられると、製品に付着して塗装品質の悪化や製品の良品率や直行率に影響を与えます。塗装の品質向上のためにも塗装環境の見直しや設備の更新、定期的な清掃とメンテナンスは大切な取り組みと言えます。
吹付塗装は「接触塗装」や「侵せき塗装」などと比べると塗料の無駄を生みやすい方法です。しかし、美観性や塗装面の自由度から、吹付塗装を根本的に無くす事は不可能でしょう。だからこそ、高効率の塗装方法や捕集効率の高い局所排気装置の検討が必要なのです。
塗装環境の見直しによるメリットとは
このような塗装環境の見直しにはコストがかかりますが、企業の環境意識を問う声が大きくなる中、無視することはできない課題です。課題解決のために、コスト面では以下のポイントで検討してみてはいかがでしょうか?
1:原材料費
- 塗装の効率を上げる事で、減少させることができる塗料や洗浄液のコスト
- 塗装不良が減ることで、減少させることができる失敗コスト
2:人件費
- 効率を上げたことによる、設備の清掃時間やメンテナンス費用の軽
- 塗装不良が減ることで、減少させることができる手直し作業の費用
3:生産に係わる費用
- トラブルによるライン停止に伴う生産機会の損失(生産量、その後の残業代など)
- 塗装品質向上に伴う新たな仕事の創出(新規案件の獲得)
塗装環境の見直しにはコストと生み出されるメリットを比較して、複合的に検討する必要があるでしょう。VOC対策を通じた社会的貢献と塗装品質の向上を両立できる塗装環境の見直しは、積極的に検討する価値のある課題と言えるのではないでしょうか?
(参考文献)
1)環境省「すぐできるVOC対策」
https://www.env.go.jp/air/osen/voc/pamph4/index.htmll
2)東京都環境局 資料:「VOCアドバイザーについて」
https://www.env.go.jp/air/osen/voc/pamph4/index.htmll
3)厚生労働省 資料:「塗装業者のみなさまへ」
https://www.env.go.jp/air/osen/voc/pamph4/index.htmll