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知らずに違反していませんか?有機溶剤中毒予防規則を再確認!2021年9月17日

知らずに違反していませんか?有機溶剤中毒予防規則を再確認!

有機溶剤は塗装、洗浄、印刷などの作業に幅広く使われています。有機溶剤の扱いは省令により定められていますが、日常的に使っているために、ついつい管理が疎かになってはいませんか?

改めて有機溶剤と、有機溶剤に関する省令(有機溶剤中毒予防規則)を確認し、現場での対応を見直してみましょう。

有機溶剤とは

有機溶剤とは、水に溶けない樹脂、ゴム、塗料(顔料)などを溶かす有機化合物の総称で、揮発しやすく工業的な用途で幅広く使われます。具体的には、石油、シンナー、アルコールなどが有機溶剤にあたります。

有機溶剤は一般的に揮発性が高いので蒸気になっていつの間にか吸い込んでしまったり、油脂に溶けやすい性質があることから皮膚から吸収されます。また、体内に取り込まれると、めまい、吐き気、痙攣などの中毒症状を起こすことがあります。低濃度でも、長期間に渡って体内に取り込まれると、気づかないうちに慢性中毒を引き起こすこともあります。

有機溶剤中毒予防規則とは

「有機溶剤中毒予防規則」とは、中毒の予防などを目的として、有機溶剤の使用や取扱いに関する安全基準を定めた省令です。労働安全衛生法に基づき、厚生労働省の管轄で定められています。対象となる有機溶剤は54種類で、有機溶剤が5%以上含有されているものも該当します。対象となる業務などについても定められています。1)

有機溶剤中毒予防規則は、多角的な観点から定められていますが、多岐にわたることから「守っているつもり」になっていることが多い省令でもあります。

省令違反と判断されれば、事業者に罰則が適用される可能性がありますし、罰則を受けなくても安全管理に問題がある企業として、社会的信用が失墜する恐れがあります。また、安全性を確保するための省令ですから、従業員の健康を守るために、定められた通りの対策を講じることが必要です。

有機溶剤中毒予防規則で定められた主な対策

1.有機溶剤作業主任者の選任

屋内作業場において有機溶剤業務を行うときは、有機溶剤作業主任者を選任しなければなりません。有機溶剤作業主任者は、有機溶剤作業主任者技能講習を受講し修了した者で、作業者が有機溶剤に汚染されないように、安全な取り扱いを監視、指導、点検します。

2.従業員への周知

有機溶剤業務を行う従業員に対し、有機溶剤の危険性を周知しなければなりません。 見やすい場所に、有機溶剤の区分を掲示し、人体に及ぼす影響、取り扱い時の注意事項、万が一事故が起きた時の応急処置方法を掲示します。



3.換気など作業上の対策

作業方法や使用する有機溶剤の発散状況、蒸気の比重等を考慮し、吸引に適した性能の換気装置を設置します。換気装置は1年以内に1回以上の自主検査と点検を実施し、不備や破損があれば改善します。検査の結果は3年間保存する必要があります。

この部分は後に記載する見落としがちなポイントの1つです。また、有機溶剤が保管場所や容器から漏れたりこぼれたりしないように、安全な保管や処理ができるような環境も整備します。

4.作業環境測定、評価、改善

6ヶ月以内に1回の作業環境測定士(国家資格)による作業環境測定を実施しなければなりません。その測定結果を記録し、最低3年間は保存します。改善の指示があれば、迅速に対応します。

5.健康管理

有機溶剤を扱う従業員は、最低6ヶ月に1回の健康診断を実施しなければなりません。さらに、健康診断の結果を本人に通知し、その結果を最低5年間は保存します。結果の報告書を労働基準監督署に提出する義務もあります。

見落としがちなポイント

多岐にわたる有機溶剤中毒予防規則ですが、見落としがちなポイントはどこなのでしょうか?公開されている厚生労働省山形労働局による定期監督の状況2)に、有機溶剤中毒予防規則関連の主な違反内容があげられています。

  • 1.作業環境測定及び記録、記録の3年保存 35件
  • 2.健康診断の実施及び記録の5年保存及び意見聴取 26件
  • 3.局所換気配置等の定期自主検査の実施 22件
  • 4.有機溶剤等の区分の表示 15件
  • 5.局所排気装置等の設置 14件
  •       (以下、省略)

作業主任者の選任、換気などの作業場対策など、環境整備には力を入れているものの、「測定」「検査」「表示」「記録」「保存」など、継続的に対策を行わなければならないポイントに関する違反が多くなっていることがわかります。

前述した【局所排気装置等の定期自主検査の実施】が違反件数の3番目にあります。挙げた5件の違反の内、これだけ少し種類が違うことにお気づきでしょうか?

作業環境の測定と健康診断は、外部の専門業者に頼まなければ実施できません。実施した時に次の予定を組んでしまえば、直近になって計画を取りやめたり、延期したりすることも防げます。また生産が止まることもほとんどないでしょう。区分の表示や装置の設置は、一度実施すれば繰り返しの作業は必要ないと言えます。

定期自主検査は、社内の人材で実施できます。ただし、局所排気装置のモーターやファンなどの駆動部を含めた部品を点検しますので、半日から1日程度の間は生産を止めなければなりません。この検査は1年以内に1回、必ず実施する作業で、実施した記録を3年間保管する義務があります。

例えば繁忙期と重なってしまうと、生産を優先させて検査を後回しにしてしまうことがあるかもしれません。社外の業者を入れるわけではありませんので、日程の再調整や延期に対するハードルが低いこともあるかもしれません。あってはならない事ですが、検査の日程を延ばしているうちに検査をしないことが常態化してしまう恐れがあるのです。

有機溶剤中毒予防規則の対策は、作業主任者の選任や排気装置の設置で終わりではありません。作業環境を適切に維持し従業員の健康を守るため、定期的な測定(診断)、評価、改善のPDCAを回していくことが必要なのです。

改めて継続的な対策を確認しよう!

有機溶剤中毒予防規則は、従業員を保護するための規則です。作業上の環境を整えることはもちろん、「6ヶ月以内に1回」の作業環境の測定と健康診断は、あらかじめスケジュールに組み込んでおきましょう。また、適正な作業環境を維持するため、「1年以内に1回」の局所換気装置などの定期自主検査も、合わせて計画すると良いでしょう。

有機溶剤中毒予防規則を遵守し作業環境を整えることで、作業効率のアップも望めますし、さらには製品の品質向上にもつながります。もし、中小規模の事業所で化学物質管理の専門家が不在のため対応に苦慮する場合は、産業保健総合支援センター3)や中央労働災害防止協会4)で相談をすることもできます。