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世界と日本のエネルギー事情は?企業の省エネはなぜ求められる? 2023年3月10日

省エネのために何が求められているのでしょうか。

世界のエネルギー消費量は年々増え続けています。さらに今後も、新興国の経済成長や人口増加により、大幅な増加が予想されています。しかし、主にエネルギーを生み出しているのは石油などの化石燃料です。限りある資源を巡って世界で資源獲得競争が激しくなり、日本のエネルギー価格も値上がりが続いています。

このような状況下で、エネルギーの削減はますます重要な課題となっています。そこで今回から3回わたって、“省エネ”の現状や、製造業の生産現場でできる取組みなどについて解説します。

世界と日本のエネルギー事情

2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で世界的に経済活動が停滞し、一時的にエネルギー需要が落ち込みました。しかし、2021年は経済回復に伴って世界のエネルギー需要は急拡大し、コロナ禍前の2019年を上回りました。

また、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したことで、世界のエネルギー情勢は大きく変化しました。それまで石油や天然ガスなどをロシアに頼っていたEU諸国は、ロシアへのエネルギー依存からの脱却を進めました。そのためエネルギーの需給がさらにひっ迫しました。エネルギー価格が高騰し、米国やトルコで停電が発生するなど、世界各国で節電要請が出される事態になりました。日本も例外ではなく、2021年から断続的に節電要請が出されています。

また、地球温暖化が進み、温室効果ガスの排出削減も世界的に求められています。日本政府は2020年10月に「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。

排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」 から、植林、森林管理などによる「吸収量」 を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。

カーボンニュートラルのイメージ

環境省脱炭素ポータルより

このように、経済面や環境面など、さまざまな面で日本の産業界はさらなる省エネ対策が求められています。

企業に求められる省エネ

省エネ法による要請

オイルショックを契機に“省エネ”という言葉が使われるようになり、1979年には「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」、通称「省エネ法」が施行されました。省エネ法は一定規模以上の事業者にエネルギー管理の努力義務を課した法律で、2018年の改正では省エネ設備の導入に際して税制優遇措置が受けられるようになりました。また、環境省や経済産業省などは、企業が省エネ対策のために投資をした際の支援制度(補助金など)を実施して、企業の省エネ対策を後押ししています。

省エネ法では事業者クラス分け制度を導入しています。提出が義務付けされている定期報告書を基に、事業者は4段階で評価されます。

  • Sクラス:省エネが優良な事業者(目標達成事業者)
  • Aクラス:省エネのさらなる努力が期待される事業者(目標未達成事業者)
  • Bクラス:省エネが停滞している事業者(目標未達成事業者)
  • Cクラス:注意を要する事業者(目標未達成事業者)

事業者クラス分け評価制度

資源エネルギー庁 省エネポータルより

Sクラスの優良事業者に分類されると、経済産業省のホームページで公表され“お墨付き”がもらえます。Bクラスの停滞事業者に分類されると、報告徴収・立入検査・現地調査などが行われます。省エネ基準の遵守不十分と判定されてしまうと、Cクラス(要注意事業者)として指導対象になってしまいます。これらのことから、企業は省エネに積極的に取り組むことが必須となっています。

コスト削減と生産性向上

省エネを進めると、電力使用量などが削減できるので、その分は企業の利益となります。例えば消費電力の少ない設備に入れ替えると、その分のコスト削減効果は何年も続きます。また、省エネの観点から生産ラインを見直し、合理化を図ることで、生産性向上にもつながります。設備の清掃や交換などをこまめに行うことは省エネ対策のひとつですが、このようなメンテナンスによって設備への負荷が軽減して安定稼働が見込め、その意味でも生産性向上が実現します。

ESG投資の広がり

近年は環境に配慮した取組みをしている企業は、事業の社会的意義や成長の持続性が投資家からも評価されるようになりました。世界的なSDGsの取組みからもわかるように、持続可能な社会を実現するために、温室効果ガスの排出制限、脱プラスチックに向けての法改正などの規制を強化していくことが世界の流れです。そのため環境に配慮した取組みを進めている企業は、規制強化による事業環境悪化のリスクが低いと考えられるようになりました。

このような環境に配慮している企業を重視して行う投資を「ESG投資」と呼び、広がりを見せています。今後、企業価値やIRの観点からも省エネがさらに求められることになります。

工場に求められる省エネ

企業活動の中でも、製造業のエネルギー消費量は特に多く、2020年度の割合は68.1%でした(※1)。また、電力消費のうち、生産設備が占める割合は83%。一般設備(空調・照明)は17%なので(※2)、生産設備の省エネ対策が重要になります。

工場の省エネの進め方

省エネ対策を進めるには、まずエネルギーをどの設備にどのくらい使っているのか「エネルギーの見える化」が第一歩です。

毎月の電気使用量やガス使用量をグラフ化し、増減の理由を考えます。また、それぞれの設備のエネルギー使用状況(定格電力と使用時間など)を把握し、エネルギー使用量の大きな設備に着目し、機器の使い方に無駄はないかなどを、再度確認します。

電気料金は、わかりやすい省エネ対策の指標になります。例えば高圧受電(契約電力500kW未満)の場合、電気料金は過去1年間の最大ピーク電力によって決められる基本料金と、実際に使用した電力に対する電力量料金の合算です。そのため、最大ピーク電力を下げれば基本料金の削減につながり、シンプルに使う量を減らせば電力量料金の削減になります。

最大ピーク電力を下げるためには、あまり使っていない(または効率が悪い)設備の稼働を停止する、空調の設定温度の適正化などの省エネ運転を行なう、稼働時間をずらしてピーク使用量を減らす、などの対策が考えられます。電力使用量の削減は、電力使用量の大きな設備や、夜間など業務時間外に稼働している設備の省エネ対策を考えます。電力使用量が大きい設備は、新しいほど省エネ対策が進んでいるので、一定期間が経過したら更新を検討することも大切です。

契約電力が500kW以上の高圧や特別高圧の工場の場合、契約電力は電力会社との協議で決まります。契約電力を一度でも超えてしまうと割高な違約金を払うことになる上、その際の最大需要電力をもとに新たな契約を結び直すことになります。この場合はピーク使用量の削減をしても大きな効果を得にくい可能性があります。規模の大きな工場になるほど使用電力の把握が大切になるのです。

まとめ

世界のエネルギー消費量は年々増え続け、価格も上がり続けています。また、地球温暖化が進み、温室効果ガスの排出削減も世界的に求められています。企業にとっては、法令遵守、コスト削減や生産性向上などの他、企業価値の向上のためにも、省エネ対策は必須です。 特に製造業は、大きなエネルギーを消費する生産設備の省エネ対策を考えなければなりません。

次回は、工場全体のエネルギー消費量の20〜30%を占めるとされるコンプレッサの省エネ対策について詳しく解説します。

参考リンク

(※1)エネルギー白書2022「企業・事業所他部門のエネルギー消費の動向」

(※2)経済産業省「冬季の省エネ・節電メニュー」