KAIZEN記事
コンプレッサの省エネ②:エア漏れ対策を継続して大きな成果を出そう! 2023年4月7日
対策は続ける必要があります。
前回、前々回と工場の省エネについてお話ししてきました。コンプレッサは照明や空調に次ぐ重要な取り組み対象であり、またコンプレッサの省エネ対策の中でも、吐出圧力の低減とエア漏れ対策は特に大きな効果が見込めます。
吐出圧力の低減については前回で解説いたしました。最終回の今回は、コンプレッサのエア漏れ対策について詳しく解説します。
コンプレッサのエア漏れ対策による省エネ
コンプレッサのエア漏れは圧縮空気を使う限りどこの工場でも起きています。空気は無味無臭の為エア漏れは放置されているケースも多いのですが、改善できれば大きな効果が期待できると言えます。具体的な改善事例とコスト換算例を紹介します。
新設工場の事例
コンプレッサのエア漏れは、老朽化した設備でのみ起こると思われがちですが、実は新設工場でもエア漏れは必ず起きています。下の図は竣工後半年の自動車部品工場での実測事例です。こちらの工場では90kWのコンプレッサを8台使用していました。
時間と空気使用量のグラフ(新設工場)
図1
グラフの横軸が時間、紫の線が使用空気量です。この工場では常時60~80㎥の空気を使用していて、最大時は100㎥使っています。青い点線で囲んだ部分は工場が停止していた日のはずなのに、空気使用量はゼロになっていません。
この、稼働していない時間に使われている空気が配管からのエア漏れと言えます。このように設備が新しい工場でも、漏れ率3〜5%のエア漏れが起こっています。
この工場の場合、1分あたり6㎥のエアが漏れているとすると、コンプレッサにかかる電気代の約6%が無駄なエアに使われていると考えられます。自動車部品工場などの大きな工場の場合、コンプレッサにかかる電気代は年間で数千万円に上る場合があります。この事例ではコンプレッサにかかる電気代が年間8,300万円だったため、年間約500万円の電気料金の損失となっていました。
築30年の工場の事例
新築工場でも約3〜5%のエア漏れが起こっているので、長年エア漏れ対策を実施していない場合の漏れ率はもっと高くなります。工場を建ててから30年の間、エア漏れ対策をまったくしなかった飲料製造工場の実測事例では、なんと漏れ率40%にも達していましたが、改善後は漏れ率15%にまで低減することができました。
改善の前後で比べると、25%もコンプレッサを無駄に運転させていたことになります。この工場では22kWのコンプレッサを6台稼働させていたので、100%稼働時には22kWのコンプレッサ1.5台が不必要なエアの為に回っていました。
コンプレッサにかかる電気料金が年間約815万だったので、エア漏れ対策を進めた結果、約200万円分の電気料金を削減することができました。
時間と空気使用量のグラフ(築30年の工場)
図2
図3
エア漏れ対策の進め方
エア漏れ対策を進める手順を紹介します。工場の状況によってこの通りに進めることが難しい場合がありますが、それぞれの手順はエア漏れ対策をすすめる上で欠かせないポイントです。
漏れ量の調査
まずエア漏れ量の現状を把握します。漏れ量の測定には、以下の方法があります。
コンプレッサの負荷率を測定
工場設備が稼働していない時に、コンプレッサを運転し、運転時間と停止時間を複数回計測することで負荷率を算出し全体の漏れ量を把握します。
図4
例えば、コンプレッサの運転時間が30秒、次の運転まで45秒停止したとします。この時の負荷率は 30÷75=0.4 で 40%となります。
タンクの圧力低下時間を測定
工場が稼働していない時に、コンプレッサだけを回して負荷を確認します。配管の末端を閉鎖してからコンプレッサの運転を開始し(図のA点)、規定圧力に達したらコンプレッサを停止させます(図のB点)。停止時から漏れにより圧力が減少するので(図のB〜Cの減少)、使用圧力範囲の上限から下限になるまでの低下時間(分)を測ります。
図5
正確さでは負荷率の測定には劣りますが、エア漏れ量は以下の式で推定できます。
図6
流量計による測定
より簡易的な測定方法としては、流量計を使う方法があります。工場が操業していない時に瞬時流量を測定して、年間の稼働時間からエア漏れ量を計算します。近年では配管の外側に取り付けられる流量計が登場し、測定場所も手軽に変更できるため、工場の稼働に影響を与えることなく測定が出来るようになりました。
削減目標の設定
漏れ量の調査の次は削減目標の設定です。特にエア漏れ対策をしてこなかった工場の場合、30%以上のエア漏れは珍しくありません。
エア漏れをどの程度削減するか、目標を設定します。最初のステップでは、あまり高い目標を設定せずに、漏れ量の1/3〜1/2の削減程度にするのが無難です。エア漏れ対策は1度だけではなく、継続的な取り組みが必要です。継続するためにも、削減目標を1度クリアしてから、さらなる対策を考えていきましょう。
漏れ箇所の特定
エア漏れが起こっている場所を見つけます。
エア漏れ音による特定
工場内が静かになる休日などに、配管系統を巡回して、エア漏れ音の有無を確認します。音を検知したら、手をかざしてエア漏れの場所を特定します。また、石鹸水を疑わしい場所に刷毛などで塗ると、ブクブクと泡が立つので漏れ箇所が特定できます。
超音波検知器による特定
コストは掛かりますが、超音波検知器を使うと、ある程度離れた場所からでも検知できます。また、騒音のある場所でも特定できるので、工場稼働中でも可能です。
エア漏れの改善作業
エア漏れ箇所が特定できたら、それぞれに合った対処をします。念のため、作業はコンプレッサを止めてエアを抜き、配管の残圧が無いことを確認して、安全に作業してください。
接続部から起きているエア漏れは、ネジなどを締め直すだけで改善する場合があります。 ホースリール本体や周辺機器などからエアが漏れている場合は、部品交換や修理が必要になります。販売店に連絡して速やかに交換や修理を済ませてください。エア漏れによるコスト増大に比べると、安価な費用で済むことが多いです。
この他にも、コンプレッサの吐出圧力を下げることでエア漏れを減らすこともできます。また、稼働していないラインに対して、自動弁などでエア送気を遮断することも有効な対処法です。
改善結果の検証、目標達成確認
改善作業を行った後、どのくらいエア漏れを削減できたか、「漏れ量の調査」で行った測定方法で、エア漏れ量を改めて計測します。
削減コスト試算
測定したエア漏れ量の削減がどのくらい電力料金やCO2排出削減に貢献したか、仮定の数字を見積もってみましょう。漏れ対策で削減できた金額やCO2を見える化することで、さらなる削減のためにコスト(金額や人的労力)をかけることができるようになります。
簡易的な試算方法
コンプレッサにかかる電気代は、以下の式で求めることができます。
年間電気代(円)=モータ出力(kW)÷モータ効率(%)×負荷率(%)×稼働時間(h)×電力単価(円/kWh)
詳細を求める場合は、無負荷時間の消費電力やドライヤのモータなどの消費電力を計算に含めますが、今回は概算なので除外します。
また、条件は下記の通りですが、皆様の工場に合わせて数字を変えてください。
稼働時間6,000時間、電力単価20円/kWh
1.漏れているエアをコンプレッサの電力に変換する。
例:100L/minエアを創り出すのに必要なコンプレッサの出力は0.75kWと考える。
2.エア漏れ量から、コンプレッサの消費電力を試算する。
コンプレッサの消費電力は以下の計算式で求められる。
消費電力=モータ出力(kW)÷モータ効率(%)
例:エア漏れ量6㎥/min(=6,000L/min)とすると、このエアを作るコンプレッサの出力は
6000(L/min)÷100(L/min)×0.75(kW)=45kW(相当)、と計算できます。
3.電力単価を確認し、漏れ量を電力料金に換算する。
例:電力単価20円/kWh、漏れ量を電力に換算しているので、負荷率は100%で計算。
45kW÷90%(モータ効率)×電力単価20円/kWh×稼働時間6,000時間=6,000,000円
4.CO2排出量に換算
例:50.0kW×CO2排出係数0.000442t/kWh×年間稼働時間6,000時間=132.6t
※排出係数は、東京電力エナジーパートナー 2022年度調整後の係数を使用。
エア漏れ対策は、終わりがない!
エア漏れ対策は終わりがなく、常に維持・管理をしなくてはなりません。いったん目標が達成されたとしてもエア漏れは必ず起きていて、放置すればまたエア漏れ量は増えていきます。エアはガスと異なり臭いもなく、水と異なり目にも見えません。そのため、達成したエア漏れ率を継続していくことは、非常に地道で難しい作業です。
上記の手順により、エア漏れ対策によるコスト削減効果が大きいことがわかれば、外部の委託業者へ依頼することもひとつの手です。依頼するコストよりもさらに大きな電力料金削減というリターンが期待できるならば、検討してみましょう。
まとめ
無駄なエネルギーを消費しないためにも、エア漏れチェックとそれに伴う改善作業は定期的に実施したいもの。しかし、エア漏れは見落としやすい上に、その対策は維持・継続が難しい作業でもあります。
エア漏れ対策をすれば大きなコストダウンになることはわかっているものの、継続的な対策を自社だけで実施することは難しい場合は外部の委託業者や機器メーカーなど専門家に相談することを検討してみましょう。配管の改善ポイントなど、専門家の視点から有益なアドバイスを受けることもできます。