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「工場の省エネをしたいけど、何から手を付けていいかわからない」という時にやるべきこととは?2022年5月13日
省エネのはじめの一歩。
省エネは特に製造業にとっては大きな課題となっています。資源エネルギー庁の調査(※1)では、2020年度の製造業のエネルギー消費量は年間で6,361PJにも上ります。
日本全体の年間エネルギー消費量が13,553PJなので、製造業が使用しているエネルギーは半数近くを占めています。エネルギーを多く使う業種だからこそ、消費量を削減できる幅も広く、省エネ効果も高いと言われています。
省エネをすることで消費電力も抑えられ、生産コストの削減にも繋がりますが、いざ省エネをすると言ってもまずは何をすればいいのかがわからないということが多々あります。省エネをするための手順を理解し、より効果的な省エネ策を取り入れていきましょう。
まずは工場全体の消費電力を把握しましょう
数値で可視化することで、具体的な削減目標を立てられます
省エネの第一歩は数値の可視化です。工場で使用している生産設備の電気代を可視化することで「どこでどれくらいのエネルギーを使っているのか」「省エネ効果が大きそうな箇所はどこなのか」と目星をつけることができます。また、省エネ実施の前後の結果を数値で比較することもできるので、取り組みの効果を振り返る際にも数値は有効です。
可視化するためには機械ごとに消費電力の計算をする必要があるため、手間がかかり遠回りに思えるかもしれません。しかし実際には、現状を把握してから省エネを実践していくほうが、効率的でかつコストパフォーマンスよく省エネを推進していくことができます。
本記事では、具体的な計算方法も掲載しておりますので、ご一緒に現場のエネルギー消費量を算出してみましょう。
消費電力に「排出係数」をかけることで、工場で出ているCO2の量も把握できます
消費電力を算出することで、同時に「CO2排出量を可視化できる」というメリットもあります。CO2排出量を可視化・削減できると、環境対応企業としての企業価値を明確にでき、他社製品・サービスとの差別化にもつながります。
CO2排出量は可視化した電気の使用量に排出原単位をかけることで求められます。排出原単位とは一定量の電気を作る際に発生するCO2を表しており、数値が低ければ低いほどクリーンな電気エネルギーと言えます。排出原単位は電気事業者によって係数が異なるため、環境省のHP(※2)をご覧いただき、皆さんが契約している事業者をお探しください。
もし現在契約されている電気事業者の排出原単位が大きい場合は、他の事業者へ契約を変更することで実質的なCO2排出量も抑えられるため、環境への負荷を抑えることにもつながります。
それぞれの設備ごとに消費している電力を計算してみましょう
コンプレッサの場合
ここではコンプレッサを例に計算してみます。コンプレッサは工場の消費電力のうち、3割を占めるとも言われるほど大きなエネルギーを使うため、その分省エネによる効率改善の効果も期待できます。
コンプレッサの1時間あたりの電気代は「モータ出力÷モータ効率×電気料金単価」で求められます。(※3)。「モータ効率」は、コンプレッサに搭載されているモータの種類によって数値が異なります。今回は、プレミアム効率(IE3)のモータの場合で計算しております。
モータ出力ごとの1時間当たりの電気代(電力料金単価=15kWhの場合)
- 7.5kW(モータ効率:90.4%):7.5kW÷90.4%×15円=124.4円
- 22kW (モータ効率:93%) :22kW÷93%×15円=354.8円
- 45kW (モータ効率:94.2%):45kW÷94.2%×15円=716.6円
上記は1時間当たりの電気代なので、1日当たりの電気代は稼働時間と負荷率から計算できます。
7.5kWのコンプレッサ、負荷率70%、1ヶ月の稼働日数が20日の場合
- 1日 :124.4円×8時間×70%=696.6円
- 1か月:696.6円×20=13,932円
- 1年間:13,932×12=167,184円
7.5kWのコンプレッサでも、1年間使用した際の電気料金は無視できません。
スプレーガン・ボイラー・チラーの場合
実際にエネルギー消費量を計算する際には、生産設備ごとに単体で計算していくよりも、工程の流れで把握していくほうが、工場全体のエネルギーの流れがわかりやすくなります。
例えば、7.5kWのコンプレッサのエアでスプレーガンを使用して、1分間で製品を塗装する場合について考えます。7.5kWのコンプレッサの吐出し空気量は毎分820Lです。スプレーガンで使用する空気量が毎分200Lだとすると、負荷率は24.4%です。つまり、スプレーガンを1時間使った時にかかる電気代は「124.4円×24.4%=30.4円」になります。
すると、一つの製品を1回塗装するのに使うエアの電気代は「30.4円(1時間当たりの消費電力)÷60=0.518円」となります。3コートする製品の場合は3倍の1.55円です。同じ製品を100個塗装するとなると「0.518円×3コート×100個=1,554円」と求められます。
また、塗装する際にボイラーやチラーを使用する場合、1時間当たりの電気代を「定格出力×電気料金単価」で計算すると下記のようになります。
加熱時24.2kW、冷却時22.1kWのヒートポンプを使用した場合の1時間当たりの電気代(電気料金単価を15円/kWhとした場合)
- 加熱時:24.2kW×15円=363円
- 冷却時:22.1kW×15円=331.5円
他にも、塗装ブースの電気代、乾燥炉の電気代など塗装工程では多くのエネルギーが消費されます。このように一つの生産設備から派生して計算することで、「どこで」「どれくらい」エネルギーを消費しているかがつかみやすくなります。一通りの消費電力を計算したうえで、実際にどのような省エネ活動をすればよいかを考えていきましょう。
電気代を算出したら、いよいよ省エネの実践です
工場全体の電気代と設備ごとの電気代を比較してみましょう
今回計算した生産設備ごとの電気代を工場全体の電気代と比較することで、全体に対しての消費電力の割合を求めることができます。多くの割合を占めているものほど、改善の余地が多く省エネ効果も期待できます。
省エネの最適な進め方は工場ごとによって異なりますので、自社の消費電力のバランスをもとに、効果が大きいと思われるものから取り組んでいきましょう。
具体的な省エネとは
では、効果が大きい省エネ施策とは、具体的にどのようなものでしょうか。
まず思い浮かぶのは電力会社の見直しです。自社の生産スタイルに合った電力会社とプランを選択することで、工場全体の電気代を抑えることができるかもしれません。季節や時間帯によって電気料金が変動するプランもありますので、夜も設備を動かしている工場であれば、夜の料金が割安になるプランなどを検討してみてもよいかもしれません。また、設備投資に回す資金があれば、太陽光発電を取り入れることで省エネに大きく貢献できます。
もちろん設備ごとに省エネを実践していくことも重要です。例えば、コンプレッサであれば、「設定圧力を見直す」「コンプレッサをメンテナンスする」といった方法があります。
設定圧力はメーカーからの出荷時には0.7MPa程度に設定されていますが、実際の製造現場で必要とされる圧力の大半は、0.4MPa程度と言われています。設定圧力を出荷時から変更せずに使うと、不必要な圧力まで昇圧するのでエネルギーが無駄になることがあります。製造工程で最適な圧力に設定できているかどうか見直すことで、省エネにつながります。
また、コンプレッサのメンテナンスをすることで経年劣化を防ぎ、圧縮効率の低下を予防することにもつながります。潤滑油が劣化していないか、エア漏れはしていないかといった視点で定期的にメンテナンスを実施されることをおすすめします。
まとめ
「省エネ」と一言で言っても、その内容は幅広く、何からやっていいのかがわからなくなってしまいがちです。まずは全体の筋道を立てて、正確に計画を練ることが何よりも大切です。今回のように設備ごとに電気代を算出することで、全体の計画を立てやすくなりますので、これを足掛かりに省エネを推進していきましょう。
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