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電気の知識④ ~インバータの仕組みや役割~2022年7月8日

正しく使わないと省エネにならないこともあります。

これまで3回にわたって電気の基礎についてお話してきました。最終回の今回は、インバータについてのお話です。

コンプレッサやベルトコンベヤなど、インバータ装置は産業のさまざまな分野で使われています。インバータの仕組みや役割、メリットとデメリット、省エネ効果について解説いたします。

これまでの記事はこちら
電気の知識① ~周波数が違う機械を使うとどうなる?~
電気の知識② ~ブレーカーの基礎と電圧降下~
電気の知識③ ~配線の基礎知識とケーブルの選び方~

インバータとは?仕組みや役割

インバータ回路とは直流あるいは交流の電気を周波数の異なる交流に変化させる電源回路のことです。この回路を持つ装置をインバータ装置と呼びます。例えば、電圧を変換してモーターの回転速度を制御するような時に使います。エレベーターやエスカレーター、クレーン、ファン、ポンプなどの産業用機器に幅広く使用されています。

インバータについて、より詳細な仕組みや役割をみていきましょう。

インバータの仕組み

インバータ装置は通常コンバータ回路とインバータ回路とコンデンサ(蓄電器)のセットで構成されています。コンバータ回路は交流電流を直流に、インバータ回路は直流電流を交流に変換します。

電流はまずコンバータ回路を通ります。コンバータ回路は通常いくつかのダイオード(整流器)を組み合わせて作られています。ダイオードは電流を一方向にしか流さない電子部品です。一回目の記事で交流電流とはプラスとマイナスが入れ替わる電流であると解説しましたが、コンバータ回路に入ってきた交流電流はプラス方向だけの波に変換されます。

コンバータ回路を通ってきた電流にはまだ電圧の変動の波が残っています。そこでコンデンサが充電と放電を繰り返し、山形の波形をなだらかな直流の波形に近い形に変換します。

その次に電流が通るインバータ回路はスイッチの役割をする電子部品(トランジスタなど)を組み合わせて作られています。インバータ回路の中では複数のスイッチを入れたり切ったりすることで回路に流れる電流の向きを変えて、プラスとマイナスのある交流電流の波形を作り出します。

さらに、スイッチのオンオフで作られる波は四角い形になるため、オンオフの間隔を調整して疑似的になだらかな波に近い出力を得られるようにします。これをパルス幅変調(PWM)制御と言います。

以上はごく簡単に説明したインバータ装置の仕組みです。実際の装置ではこの他にも多くの部品を組み込み、複雑な回路を通して安定した出力を得られるように工夫されています。また種類もさまざまなインバータ装置が開発されています。

インバータの役割

インバータ装置に入ってきた交流電流を直流にし、また交流に戻すこの過程で、交流電流を任意の電圧や周波数に変えることができます。

家電や産業用機器に使われているモーターは周波数によって回転数が変わりますが、モーター自身は単独で回転数を制御することはできません。オンとオフしかなく、オンの時はフルパワーで回転することになります。インバータがあると電圧と周波数を変えることが出来るため、回転数を自在にコントロールすることが出来るのです。

モーター以外の用途では、コンピューター用電源などの電圧と周波数を一定に保つためにインバータ装置が使われます。また、蛍光灯などでもインバータ式と表示されている製品がありますが、ここでは周波数を変えて素早く点灯させたり、明るさやチラつきを制御したりするのに使われています。

インバータのメリットとデメリット

インバータには省エネや遠隔操作といったさまざまなメリットがある反面、費用や騒音・ノイズといったデメリットもあります。インバータを効果的に活用するためには、これらのメリットとデメリットをしっかり押さえておく必要があります。

ここではインバータのメリットとデメリットをそれぞれ3つあげ、順番に解説します。

インバータのメリット

インバータには以下のようなメリットがあります。

  • 省エネ効果がある
  • 産業機械を快適に動作させる
  • 遠隔操作が可能

まずインバータ回路によって電圧や周波数を変えることにより、モーターの回転をコントロールして空調ファンやポンプなどの無駄なエネルギーを使いません。つまりインバータには省エネ効果があるのです。

インバータ駆動の場合、低い電圧・周波数からスタートして電流が抑制されるため、モーター定格電流の1.5~2倍の始動電流に抑えることができます。またエレベーターやエスカレーターを動かすモーターの回転を、始動時と停止時にスローになるよう制御もできます。

エレベーターに乗ったときに上昇し始めや停まる直前に微妙にゆっくり動いているのは、このようなインバータの働きのためであり、いきなり速度を上げたり急停止したりしないよう、人への負担を軽減しているのです。ほかにもコンベヤのモーターにもインバータ装置が使われており、始動時と停止時の速度を制御してベルトに乗っている製品が落ちることを防いでいます。

さらにインバータはネットワークを使うことによって遠隔操作も可能です。これによって、モーターの運転を制御するのに、毎回現場へ向かわなくても済むというメリットがあります。モーターの運転を遠隔操作する際にネットワークを利用しますが、そのためにはインバータ自身がネットワークに接続できるインターフェースを備えている必要があるでしょう。

インバータのデメリット

インバータには以下のようなデメリットもあります。

  • インバータ無しと比較して、費用が高くなる
  • 騒音やノイズが発生する
  • インバータロスが生じる

インバータを導入するためには購入・設置の費用がかかりますが、本体価格が数万円かかるうえ、インバータを機器の中に取り入れるための電気工事が複雑であるため工事費用も割高になります。インバータには省エネ効果があるため長い目でみればお得にはなりますが、導入コストを考えると省エネ効果が費用に見合うかどうかは導入前にしっかり検討する必要があるでしょう。

またインバータ出力の関係上トルクの負荷が周期的に変動する脈動トルクと呼ばれる現象が起きるため、商用周波数を使用した場合に比べて騒音が大きくなります。そしてインバータは、他の機械に影響を与えるノイズを発生させますが、ノイズ対策としてはコンデンサを取り付けたりノイズフィルタを設置したりすることで発生を抑えることができます。ただしコンデンサにも寿命があり、ノイズを抑えるためには定期的にコンデンサを交換しなければなりません。
※商用周波数:50Hz・60Hzなどの電力会社から供給される交流の周波数

さらにインバータは電力を直流から交流に変換する際に、力率の悪化により必ず電力ロスが生じます。ロスした電力は熱に変わりますが、熱がたまると温度が上昇して機器やシステムの運転に支障が出ることもあります。

インバータはなぜ省エネ効果があるのか?

モーターにはオンとオフの機能しかないので、電力を受けるとそれをフルパワーで動力に変換します。そこでインバータを取り付けることによってモーターの回転数を調節できるようになり、必要なときに必要な分の電力で稼働するようにできます。つまり、インバータによってモーターの余分なエネルギー消費を抑えることができるのです。

省エネ効果としては、たとえばファンやポンプのモーターの場合には回転数を90%にすると、動力は80%に、消費電力は70%に下がる、という具合です。

省エネにならないパターンもある?

注意点は、調整弁等での調整が全く行われていない場合には省エネ効果は得られないということです。これについて、コンプレッサ(空気圧縮機)を例に挙げて説明します。

コンプレッサは工場で使用する空気量より余裕をもった性能の機械を選定します。インバータ機を使うと、空気量の多い時はフルロード、空気の使用量が少なくなると回転数を下げて、必要な時に必要な空気量を吐き出すように動作します。フルロードの時は100%のモーター出力とインバータロスの電力がありますので、消費電力は100%を超えます。また、稼働率が30%を下回ると、稼働のロスが多くなってしまいます。

つまり、インバータを搭載したタイプのコンプレッサは50~90%程度の負荷率で、さらにエア消費量の変動が激しい工場で省エネ効果を出しやすい、と言えます。さて、スクリューコンプレッサにインバータを搭載するのは省エネのためです。では、なぜスクリューコンプレッサは省エネしなければならないのでしょうか?多くのスクリューコンプレッサは、吐出し空気量が40%に減っているのに消費電力は80%以上という制御をしています。そのため、インバータを搭載して省エネするという方法が広まりました。

ここで1つ、インバータ機を使わない省エネの方法をご紹介します。使い方によってはインバータ機よりも高い省エネ効果を出す場合があります。

それは、あえて工場全体の消費空気量より若干少ない吐出し空気量のコンプレッサを選定して、ベースロード機にすることです。足りない部分(=負荷が変動する部分)は圧力開閉器制御のコンプレッサで補います。ベースロード機はインバータを搭載する必要はありません。なぜならば、100%フルロード運転をさせるからです。この時の消費電力は100%となり、インバータロスはありません。負荷変動を吸収する機械を別で設置することで、コンプレッサは2台ともON/OFFのいずれかの運転になり、消費電力のロスが減ります。

この方法は、負荷変動を吸収するコンプレッサが頻繁にON/OFFを繰り返しますので、ON/OFFの頻度を調整するように容量を選定することが肝になります。ON/OFFが頻繁になると電装品の負荷が大きくなりますので、コンプレッサメーカーにアドバイスを求めるとよいでしょう。

以上のように、インバータを設置さえすれば必ず省エネになるというわけではありません。設置する際には、インバータやモーター、設備等に関して正しい知識を持ったうえで、設置前の適切な見極めが必要でしょう。

まとめ

インバータとは電圧を変換してモーターの回転速度を制御する電力変換器であり、エレベーターやエスカレーター、ファン、ポンプなどのさまざまな産業用機器に使用されています。

インバータを使用することで周波数を連続的に変えることができ、単独で回転数を自在に変えることができないモーターの回転数をコントロールすることが可能です。インバータは省エネ効果の他に遠隔操作が可能になったり、エレベーターやコンベヤのスピードを調整して快適に使用できたりといったメリットがあります。

ただしその反面導入の費用が割高になり、ノイズや騒音の原因がある点はデメリットといえるでしょう。使い方によっては省エネ効果がないことにも留意しておきましょう。 インバータの特性を理解したうえで、効果の高い活用をしてください。