カーボンニュートラルと工場の省エネについて

省エネは持続可能な社会の第一歩。

「カーボンニュートラル」とは何でしょうか。

2020年10月、菅総理は臨時国会の所信表明演説において「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。 同時に「温暖化への対応は経済成長の制約ではなく、積極的に温暖化対策を行うことが産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要」であるとも述べています1)

演説の中では直接SDGsに言及されていませんが、この宣言は日本政府のSDGsアクションプラン2021にも組み込まれ、SDGsを重要な指針として循環型社会の構築や徹底した省エネに取り組むことが表明されています2)。SDGsとカーボンニュートラル、そして省エネは一体として取り組む課題なのです。

では「カーボンニュートラル」とは何でしょうか?本記事では省エネとの関係や工場でとれる取組みについても解説いたします。

カーボンニュートラルとは?

「カーボンニュートラル」とはどういうことなのでしょう。環境省の脱炭素ポータルによると、「排出を全体としてゼロにする」とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から、森林などによる吸収量を差し引いた、実質ゼロを目指すことを意味しています3)

では排出した分吸収量を増やしたり排出量の取引をしたりして、どのくらい排出量から差し引くことが出来るのでしょうか? 吸収量と排出量取引についても見てみましょう。

森林の吸収量

日本は国土の7割近くを森林が占める世界有数の森林国ですが、森林面積からそのまま吸収量を算定できるわけではありません。樹木は生育中は旺盛に二酸化炭素を吸収しますが、成熟とともに吸収量は減り、枯れて土に還る時は吸収した二酸化炭素を放出します。つまり自然のままの森林の吸収量はプラスマイナスゼロとみなされています。樹木が吸収した二酸化炭素を固定するには、燃やしたり土に還したりせず、木材として利用するなどしなければなりません。

そのため京都議定書の定める算出対象は1990年以降の植林地や森林経営が行われている場所に限られています4)。また、実際のところ森林吸収量を正確に算定するのは非常に難しいこと、森林吸収量の算定基準を緩めると広大な森林を有する国が削減努力を怠ってしまう可能性があったことなども、対象を限定した理由とされています。

ちなみに森林吸収量の算定は京都議定書の交渉においてもっとも調整が難航した事項の一つとされています。米国離脱後に残された国々で早期の合意をはかるため、日本には例外的に大きな森林吸収量の上限が認められた経緯があります。この枠を活かすべく、林業の再生などの施策がすすんでいますが、現状排出している温室効果ガスの量は森林吸収量を大きく上回っています。例として、2019年度の温室効果ガスの総排出量は二酸化炭素に換算して12億1,200万トン。それに対し京都議定書の基準で算定された森林等の吸収量は4,590万トンでした5)

排出量取引と二国間クレジット制度

京都議定書では京都メカニズムと呼ばれる補完的制度が定められ、先進国間や先進国と途上国間で排出量の取引が出来るようになっていました6)。しかしこの制度は議定書の締結国全体で管理されており、調整が難しく、実際にはあまり利用されてきませんでした。

これに代わって近年活用されているのがパリ協定に沿った二国間クレジット制度です。京都メカニズムと違い基本的に当事者間で管理を行う為調整しやすく、コストもかかりません。日本の持つ低炭素技術や製品・インフラ等を途上国に提供することで途上国の温室効果ガスの削減に貢献し、その成果を二国間で分けあう事ができます。日本はこの制度を活用し、2021年現在17か国とのJCMを構築しています7)。しかしながら、JCMによる削減目標は2030年までの累積で5,000万~1億トン。排出量全体をカバーするものではありません。また、大事な事ですがこれらの制度は排出量や削減量を国と国の間で移動するものであり、現在も多くの温室効果ガスを排出している先進国の実際の排出量を減らすものではありません。

森林吸収や削減量のシェアなどの仕組みをうまく使いつつも、主として取り組むべきなのはやはり排出量を減らすこと、省エネや再生可能エネルギーの導入促進なのです。2050年カーボンニュートラルの目標を達成するためには国の施策だけでなく、個人や民間事業者の協力も重要になってきます。

生産工場での省エネ・再エネ利用

それでは生産工場において、どんな省エネ・再エネ推進策をとれるでしょうか。再生可能エネルギーについて、民間企業で最も導入しやすいのは太陽光発電設備の設置です。これは既に、屋根の上に太陽光パネルがある事業所をよく見かけますね。2012年度の固定価格買取制度の開始以降、太陽光発電の発電量が大きく増加したことにより、日本の再生可能エネルギーによる発電量は2013年度以降、増加が続いています5)

もう一方の対策の省エネ。生産工場の省エネとなると、今の対策で大丈夫か、改善するにしてもどこから手を付けて良いか分からず、悩まれることもあるでしょう。

具体的な省エネの手法に入る前に、まずは生産工場全体を見える化することをおすすめします。「何にエネルギーを使用しているのか?」を把握し現状を理解することが大切です。最初に工場全体の使用状況を知り、そこから最適なアプローチ方法を考えていくわけです。

扱う製品や製造工程などの状況によって変わりますが、一般的な製造業では生産設備の消費電力が大半を占めており、空調や照明の消費電力はその次です。こまめに照明を消したり、エアコンの設定温度を調整するのはとても大事なことですが、生産設備の省エネに目を向ければ、より高い効果を得られる可能性があります。

コンプレッサと窒素ガス発生装置の省エネ

生産設備の中でも、特に消費電力が大きいのがコンプレッサで、工場全体のエネルギーの約20~30%を占めるケースもあります。一般的には、吐出圧力を0.1MPa下げると、給油式コンプレッサで約7%、オイルフリー式コンプレッサで約4~5%程度の電力削減が可能と言われています。コンプレッサの省エネについて検討できる事項をまとめると下記になります。

コンプレッサ周辺の見直し

  • 吐出圧力や吐出量の見直しする(圧力を下げれば、使用量も減る)
  • エア漏れを定期的に確認し無駄を抑制する
  • 定期的にフィルターを清掃し圧力損失を減らす
  • 稼働する台数を状況に応じて減らす(夜間稼働の場合は必要な場所に専用のコンプレッサを設置する)

設備周辺の見直し

  • 配管を見直す(ループ施工や配管を太くして容量を増やす)
  • 空気タンクを設置する
  • 高圧が必要であれば、増圧器など部分増圧で対応する

設備の買い替え

  • 省エネ制御方式タイプに買い替える
  • 台数制御盤を導入する

窒素ガス発生装置の省エネ

コンプレッサにスポットを当ててご説明しましたが、前回記事でご紹介した窒素ガス発生装置も省エネの工夫の余地があります。

窒素ガス発生装置のうちPSA方式は、吸着剤が酸素ガス等を吸脱着する性質を利用しています。コンプレッサから吐き出された原料空気を加圧・減圧させることにより、高濃度の窒素を生成する手法です。膜分離方式に比べ高濃度の窒素ガスを得られるため普及していますが、大気解放時に原料空気を定期的に排出します。つまり電気代をかけて作った空気を捨てている事になりますので、エネルギーロスが多くなります。

近年では技術の向上により、エネルギーロスを抑えた省エネ対応の窒素ガス発生装置も普及してきました。使用量を検知して排出のタイミングを少なくし、原料空気の使用量を抑える構造です。このように原料空気用のコンプレッサ・窒素ガス発生装置双方を見直すことで、より大きな省エネ効果が期待できます。