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窒素ガス製造方法の基礎2020年12月25日

窒素ガス製造方法の基礎

私たちの身近にある窒素。その安定した性質を利用して食品添加物などの様々な用途に使われています。今回は窒素ガスの製造方法や産業分野での用途についてご説明します。

窒素の製造方法

窒素は空気成分の約80%を占めており、産業に利用される窒素は大気から取り出して製造されています。その方法は大きく分けて深冷分離方式と常温分離方式の二つに分類できます。今回はそれぞれのメリットやデメリットについてもお話ししたいと思います。

深冷分離方式

一つ目の深冷分離方式は窒素と酸素の沸点差を利用して分離する方法で、99.999%以上の高純度窒素を大量に製造することができます。精製には空気が液化する極低温まで冷却する必要があり、大規模な施設が必要です。窒素を大量に使う工場やガス販売ディーラーでこの方法が利用されています。

研究施設にお勤めの方や大学で理系を専攻された方は、液体窒素のタンクや窒素ガスのボンベをご覧になったことがあるでしょう。ボンベやタンクローリーに詰められて配達される窒素はこうした大規模な施設で精製されたものです。

常温分離方式

常温分離方式は、更に膜分離方式とPSA方式に分類できます。これらは深冷分離方式ほど大規模な施設を必要としないため、一般的な工場や研究室の窒素ガス発生装置に利用されています。中には卓上に置けるような超小型の窒素ガス発生装置もあります。

膜分離方式では圧縮した空気を高分子膜に通し、窒素と酸素の透過速度の違いを利用して分離します。気体が膜を通り抜ける速度には差があり、酸素は速く、窒素は遅く透過するため、この違いを利用するのです。使われる高分子膜は中空糸膜という内側が空いたストローのような形の糸で出来た膜で、浄水器などにも使用されています。

膜分離方式は構造が単純で手軽に窒素ガスを利用したい場合に適していますが、高純度の対応は難しいとされています。

常温分離方式のもう一つのPSA方式は、圧縮した空気をゼオライトや活性炭などで出来た吸着剤に通し、酸素を吸着させて窒素を分離させるものです。なお、二つの吸着塔で吸着と脱着を交互に行うため、すぐに吸着剤が使えなくなってしまうことはありません。膜分離方式に比べて高純度の窒素を得ることが出来るため、現在、窒素ガス発生装置の多くはこの方式です。

膜分離方式とPSA方式のいずれの方式も圧縮空気を原料としますので、空気圧縮機(コンプレッサ)が必要になります。普及している窒素ガス発生装置にはコンプレッサが一体になった内蔵型と、コンプレッサの付いていない別置型があります。

窒素の様々な用途

このように精製された窒素ですが、食品用途以外にも様々な分野で使われています。また食品用途だけに注目しても、その使われ方は実に多様です。

食品用途の詳細

食品用途について詳しく見てみましょう。窒素はその安定した性質から食品の酸化・変質を防ぐ働きがあります。例として下記のような利用法があげられます。

食品以外の用途

食品以外の用途も見てみましょう。ここでも窒素の安定した性質が役に立っています。

※パージ…ここでは、酸素・水素・不純物などを追い出して窒素に置き換えること

取扱には注意も必要

これまで窒素は安定した気体であるとお話ししてきましたが、取扱には正しい知識と注意が必要です。

窒素の名前は「窒息させる物質」という意味のドイツ語が由来です。万一ボンベやタンクから窒素が漏れ出した場合、たちまちのうちに周囲の酸素濃度が低下して人間にとって危険な状態になってしまいます。研究用途などで普及している窒素ガスのボンベは、中身が気体であっても60kg程度の重さがあります。うっかり落として容器を傷つけないよう、十分に注意して扱いましょう。

窒素それ自体は爆発や燃焼を起こしにくい物質ですが、液体や高圧ガスの状態で保管されている場合は、扱いを誤れば爆発の危険性があります。また、液体窒素の場合は凍傷にも注意しなければなりません。

窒素の性質を正しく理解して上手に活用しましょう。