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空気の8割を占める「食品添加物」~窒素のはなし~2020年11月13日

空気の8割を占める「食品添加物」~窒素のはなし~

コンビニやスーパーで売っているスナック菓子の袋は、どれも少し膨らんでいますね。

あの膨らんだ袋は中身を多く見せようという策略ではなく、美味しく食べるための工夫なのです。今回はスナック菓子の袋の秘密と、もっとも身近な食品添加物と呼ばれる窒素についてお話しします。

膨らんだ袋の中身は窒素

膨らんだ袋の中にはスナック菓子の他に何が詰まっているのでしょうか。

正体は窒素です。窒素は私たちの身近にある無色、無味無臭の気体で、空気の約8割は窒素でできています。そのため窒素は人間にとって無害なだけでなく、集めて利用することも容易な物質なのです。

窒素の性質

窒素の最大の特長はその安定した性質にあります。

例えば窒素と同じく空気中に多く含まれる酸素は周囲の物質と容易に結びついてしまう性質があります。水素と反応して水を生じ、金属と反応すれば金属を酸化させて錆びを発生させます。また、周囲の物質が燃えるのを助ける性質(助燃性)を持っています。

その点、窒素は常温では他の物質と容易に結びつくことはありません。不燃性であり、酸素のように他の物質が燃えるのを助ける性質(助燃性)もないため、身近にたくさんあっても火災や爆発の危険性が低いのです。

様々な分野で利用される窒素

窒素はその安定した性質を利用して様々な分野で使われています。

身近なところではガソリンスタンドなどで見かけるようになったタイヤの窒素ガス充填もその例です。自動車タイヤには空気を充填するのが一般的ですが、空気の約20%を占める酸素は分子の動きが活発で、タイヤのなかで動きまわり、徐々にタイヤのゴムを通り抜けてしまう性質があります。その点窒素は温度による膨張が小さく分子の動きも緩やかなためタイヤのゴムを通り抜けにくく、長い間タイヤの空気圧を適正に保つ効果があります。

この他に窒素はエレクトロニクス産業でのはんだの酸化防止用など、先端分野でも利用されています。

なぜ窒素は食品に利用されるのか

スナック菓子の袋に窒素を充填するのは何のためでしょうか。目的は2つあります。1つは袋の外側からの衝撃で中身のスナックが粉々になってしまわないようにクッションの役目を果たすことです。そしてもう1つの目的がスナックを長い間美味しく保つことです。

食品を悪くする原因

食品が腐ったり味が悪くなったりする原因には、微生物の繁殖や湿気、熱、光線など様々なものがあります。なかでも特に影響が大きいのが酸素の存在です。酸素は微生物の繁殖を助けるだけでなく、食品と直接反応して酸化させてしまいます。例えばスーパーで買った肉が時間が経つにつれて色が変わったり、コーヒー豆が段々と風味を感じられなくなったりするのにも酸化が関わっています。

窒素は便利な食品添加物

食品の劣化を遅らせるためには食品が酸素と触れて酸化するのを防ぐ必要があります。食品を真空状態にする真空パックの他、食品容器の中を窒素で満たす窒素充填も大変有効な手法です。窒素は厚生労働省から食品添加物としての使用を認められています。

空気のかわりに窒素を充填した容器の中では食品は酸素に触れにくく、酸化するスピードが緩やかになります。その結果食品本来の美味しさや風味を長持ちさせることができるのです。

また窒素は入手が容易であり、無味無臭のため食品の味や香りに影響がないというのも食品添加物として重宝される理由です。

他にもある食品添加物の気体

食品添加物として使われる気体は窒素の他に二酸化炭素(炭酸ガス)やアルゴンがあります。どちらも窒素と同じように空気中に存在する不活性で無味無臭の気体ですが、空気に占める割合はどちらのガスも1%未満です。

このうちアルゴンは近年その活用が注目されている気体です。アルゴンは窒素より更に安定した性質を持っています。また窒素より密度が高く、容器に充填する際に効率よく空気と入れ替えることができます。

アルゴンは日本では2019年に食品添加物としての使用が認められたばかりです。現状では窒素に比べコストがかかることが課題になっていますが、今後普及が進むかも知れません。

食品の保存技術がもたらす可能性

産地から遠く離れた場所でいつでも手軽に美味しい食品を手に入れられるのは、食品の保存技術が進歩したおかげです。

その恩恵は便利さだけではありません。食品を長期間新鮮なまま保存できるということは、流通や消費の過程で捨てられる食品を減らしたり、旬の収穫量の多い食品を保存したりして、食品ロスを減らすことにもつながります。

食品ロスの削減はSDGsのターゲットにも掲げられる重要な課題です。1)このような観点からも窒素を活用した技術に期待が寄せられているのです。

1)SDGs:持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)とは
2015年9月の国連サミットで全会一致で採択された。
すべての国を対象に経済・社会・環境の3つのバランスがとれた社会を目指す世界共通の目標として、17のゴール(目標)と、ゴールにいたるための169のターゲット(達成基準)を設定している。

ゴール12.
持続可能な生産消費形態を確保する
ターゲット12.3
2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる。

参考:農林水産省 SDGs×食品産業 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/about_sdgs.html