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圧縮空気のコストについて考える2020年6月2日

圧縮空気のコストについて考える

現代の製造現場において、圧縮空気を作りだすコンプレッサは不可欠な設備です。しかしながら工場のコスト削減に取り組む際には、見直しの対象となることが少ないのではないでしょうか。

そもそも工場の稼働に不可欠な要素であるために、「圧縮空気はあることが当たり前」という安易な認識が浸透しています。 そのため、供給される圧縮空気にいったいどれだけのコストが発生しているのか?といった視点が失われがちです。

特にコンプレッサは常に稼働している設備であり、故障するまで運転し続けるような使われ方が常態化している工場も多いでしょう。 しかし実はそのようなコンプレッサの運転方法が工場の固定費の増加につながっている現実があります。

コンプレッサにメンテナンスは不可欠

コンプレッサに限ったことでありませんが、機械には定期的なメンテナンスが必要です。必要なメンテナンスを怠れば効率低下による経費増大だけでなく、故障や破損による余分な経費を生み、生産機会を失うこともあるでしょう。損失によって利益を減らしてしまうことにもつながってしまいます。コンプレッサの主なメンテナンス項目には次のようなものがあげられます。

  • フィルターの清掃や交換
  • 適切なオイル量と清廉性の確保
  • ドレンの状態確認と定期的な水抜き
  • バルブ整備
  • 圧縮本体のメンテナンス

多くの工場では定期的なドレン抜きなどの作業は行われていますが、フィルターの清掃や交換・バルブの整備などをメンテナンスサイクルとして定め、実施している事例は僅かであるといわれています。オイルに関しては、交換時期や減少量を知らせてくれる機種もあります。

しかし、オイルの汚れや残量不足がそのまま放置されていることも多いのが現状です。給油式のコンプレッサにおいてオイルトラブルは機械本体の損傷に直結する重大な事柄であり、定期的なメンテナンスと保守管理は必須項目です。

このような様々な要因による圧縮効率の低下は運用コストにも直結します。一般的な工場で使用されているスクリューコンプレッサ(37kW)で、電力単価15円/kWhの場合、最新型のモデルでの1㎥あたりのランニングコストは1.45円ほどになります。

概算ですが、37kWのコンプレッサを使い、1日8時間稼働でコンプレッサの負荷率が60%程度の工場(1日でおよそ2,000㎥の圧縮空気を使う工場)では、1日あたり約3,300円程度の電気代がかかります。しかしメンテナンスなどの不足により圧縮効率が10%下がった場合は消費電力が上がり、1日当たり約4,350円程度かかる計算となります。この状態で1年間(250日稼働とした場合)コンプレッサにかかる電気代の差額は27万円程度生じます。

場合によってはコンプレッサの見直しも有効

工場創設当時から稼働させている年季の入ったコンプレッサは圧縮効率が低下している場合もあるので、電気代が高くなる傾向にあります。同じように工場の拡大に伴って逐次小型のコンプレッサを増設する形で対応してきた場合も、コンプレッサの運用効率は低くなる傾向にあります。次の表はコンプレッサの種類と大きさによる、圧縮空気1㎥あたりのコストを一覧にしたものです。

この表では小型のコンプレッサ(7.5kWクラス)の場合はスクリュータイプとレシプロタイプの差はさほど大きくありません。 しかし工場の増設などで徐々に必要となる圧縮空気の量が増えていった場合に、小型のレシプロコンプレッサを増設して対応した場合と、大型のスクリューコンプレッサに入れ代えた場合とではとても大きな電気代の差が生じます。

例えば1分間に必要な空気量が5㎥の工場を想定します。概算ですが実際に計算してみましょう。

37kWのスクリューコンプレッサだと安全率を考えても1台で運用できます。一方、11kWのレシプロコンプレッサで同じ空気量をまかなう場合には5台を運転する必要があります。

この時の電気代を比較すると、スクリューコンプレッサ1台の時は約82万円ですが、レシプロコンプレッサ5台の場合は125万円かかります。 このように、コンプレッサの圧縮方式によって電気代に大きな影響を与えますし、機械が古い場合には圧縮効率が下がり電気代が増加します。

コンプレッサの運用見直しは様々なメリットを生む

このように普段は何気なく使用しているコンプレッサや圧縮空気ですが、そこには様々な改善の余地が隠れていることも少なくありません。

上の例のように、工場全体の圧縮空気を1台のコンプレッサで作っていると、コンプレッサの故障と生産停止リスクが直結します。また、増産のたびにコンプレッサを増設して1本の配管につなげて工場全体に供給している場合も、エネルギー効率が悪いと言えるでしょう。

ここで言いたいのは、スクリューコンプレッサは電気代が安く、レシプロコンプレッサは電気代が高い、という単純な話ではありません。 コンプレッサの圧縮方式や制御方式によって得意分野がありますので、それぞれの特性を理解して運用することで電気代やランニングコストに大きな差が出るということです。

例えば、レシプロコンプレッサの多くは空気の圧力が設定値に達するとモーターを止めて運転を停止します。 つまり空気を圧縮しているときだけ電気を使います。

一方で出力の大きなモーターを搭載しているコンプレッサは、頻繁に発停を繰り返すとモーターへの負荷が大きく故障の原因になります。 そのため、出力の大きなコンプレッサ(スクリューコンプレッサなど)は空気を圧縮しないアイドリング状態でもモーターを止めることができず、電力を消費します。 機械の種類によっては負荷率が20%の時でも、消費電力は全力運転の70%程度消費している場合もあります(レシプロの場合、負荷率20%の時は消費電力も20%)。

このように1つの種類が正しいということではなく、空気の消費量や時間ごとの負荷率によって一長一短あるのです。

コンプレッサの運用を見直し、適正な投資を計画的に行ことで、運転効率の改善によるランニングコストの削減効果だけでなく、メンテナンスコストの平準化や故障による工場停止などのリスクを未然に抑制する効果も期待できます。 圧縮方式や制御方式の違いによる得意分野や省エネ手法については、また別の記事で述べたいと思います。

(参考文献)

1) アネスト岩田株式会社
https://www.anest-iwata.co.jp/compressor/FAQ/6.html