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コンプレッサに起因するドレン問題 環境にやさしい対処法を考える2020年4月30日

コンプレッサに起因するドレン問題 環境にやさしい対処法を考える

空気圧システムは自動包装や自動車の組み立てラインなど、あらゆる産業分野で活用されています。

一方で空気圧システムを構成するエアコンプレッサ(以下、コンプレッサ)の電気消費量が工場全体の20~30%を占める1)ことや、コンプレッサから油と水を含んだドレンが排出されることが、環境への悪影響を及ぼすリスクとして挙げられます。環境に配慮するならば、これらの問題の解決は将来に向けての課題になります。そこでドレン処理に焦点を当て、環境にやさしい対処法について考察します。

コンプレッサからドレンが出る理由

コンプレッサからドレンが出る仕組みを理解するために、空気圧システムについてまず解説します。

空気圧システムとは圧縮空気を動力源に装置を駆動させる方式で、多くの工場で使われているシステムです2)。 主に以下の4つの装置で構成されます。

  • 大気から圧縮空気を生成する「コンプレッサ」
  • 高温の圧縮空気を冷却し水分を分離する「アフタークーラー」
  • 圧縮空気中の塵埃や水・油を取り除く「フィルタ」
  • 圧縮空気の露点を下げて水蒸気を結露させ空気を乾燥させる「エアドライヤ」

このうち、主にアフタークーラー・エアドライヤから排出される液体がドレンです。

例えば、コンプレッサで大気圧下の空気を0.69MPaまで圧縮した場合、吸い込んだ空気を約1/8の体積に圧縮した事になります。つまり、圧縮空気中には水分、ゴミ、ホコリ、油分などが大気圧下と比べ約8倍の濃度で含有されます。空気中に含まれる水蒸気の限界量は温度によって変わりますので、圧縮された空気が冷やされると結露して液化します。

例えば暑い日に自動販売機で冷えた飲み物を買ってしばらく置いておくと、缶に水滴が付きます。これは缶の周りの空気が冷やされて飽和水蒸気量が減ったために、空気中の湿気が結露して付着したのです。

結露した水分そのものや、ゴミ・ホコリ・油分の混じったものをドレンと呼びます。含まれる油分は排水処理を困難にするだけでなく、環境へ悪影響を及ぼします。

なぜ圧縮した空気中に油分が含まれるかというと、大きな原因の一つに給油式コンプレッサの使用が挙げられます。給油式コンプレッサとは、圧縮室内にコンプレッサオイルを注入し、潤滑性の向上や空気の洩れ対策、コンプレッサ本体の冷却効率を高めている圧縮機です。

例えば給油式コンプレッサのひとつであるスクリュー式の場合、ねじを回転させて空間の容積を小さくし、圧縮空気を生成させます。ロータの歯部に潤滑油が注入されているため3)、これがミスト化し圧縮空気に含まれてしまいます。

レシプロ式の場合はコンプレッサ本体下部にコンプレッサオイルが充填されてます。運転すると本体の下部に溜まったオイルを巻き上げて、シリンダとピストンの隙間に潤滑油を塗布します。そのため圧縮空気に油分が含まれ、圧縮空気が冷えると排出されるドレンにも油分が含まれてしまうのです。

英語のdrainを直訳すると「排出」「排水4)」であり、油分の含まれるドレンは産業廃棄物として「排水」処理されなければなりません。

ドレンの適切な処理

油分の含まれるドレンはそのまま河川や下水に廃棄できません。水質汚濁防止法ではノルマルヘキサン抽出物質含有量(鉱油類含有量)が5mg/L以下と定められていますし、自治体の条例によって排出基準が細かく指定されています。

コンプレッサから排出されるドレンにはノルマルヘキサン抽出物質が50~500mg/L、多い場合には1,000mg/Lに近い濃度で混入してます5)

さらに、空気を圧縮する過程で高温・高圧環境下にさらされた水分と油が乳化し、粒子レベルで強固に結合します。そのため、両者が自然分離することはありません。 分離するには油吸着方式、遠心分離方式、加圧浮上方式など化学的処理が必要になります6)

これらの処理方法にはコストや設置スペース、処理量などに差がありますが、おおむね5mg/L(5ppm)以下にすることができると言われています7)

環境意識がかつてよりも高まり、2005年4月の水質汚濁防止法の改正により工場などからの排水の油分濃度を5mg/L以下にするよう定められました。

このため給油式コンプレッサを使用する工場では、ドレンを工場内で浄化処理するか廃棄物処理業者に委託して産廃処理する必要があります。しかしドレンを産業廃棄物処理業者に委託することはコストアップにつながります。産業廃棄物の処理費用がこの10年で1.5倍ほどに値上がりしたケースもあるようです。

そのため今日では油水分離装置を設置する工場が増えています。産廃処理する量を減らすことはできますが、排水に含まれる有害物質の蓄積による環境への悪影響が根本から解決するわけではありません8)。また圧縮空気は、衛生管理に細心の注意を払う食品製造や薬品製造等にも使用されます9)

このように衛生管理の強化や油分による周辺環境の汚染等の問題から、油分を含むドレンを排出する給油式コンプレッサそのものに目を向けられるようになりました。こうして圧縮空気に潤滑油を含まないコンプレッサの需要が高まったのです。

潤滑油に頼らないコンプレッサの利用を

圧縮室内に潤滑油を使わない機械は、オイルフリー式コンプレッサが考えられます。

スクリューコンプレッサの場合はロータの歯部が接触せず、レシプロ式の場合は潤滑性を有した樹脂ピストンなどで設計した方式がオイルフリー式です10)

圧縮室内に潤滑油を用いずに圧縮空気を作り出すため、清浄な空気を吸い込む限りドレンに油分が含まれる心配がほぼ無いのです11)。油煙の混ざった空気を吸い込むと、そもそも油分の含まれる空気を圧縮してますので、吐き出される圧縮空気には油分が含まれます。

当然ですが、排出されるドレンにも油分が含まれることになります。オイルフリーコンプレッサから吐き出される空気の品質を維持し、排出されるドレンのことを考えると、設置環境はとても重要です。

オイルフリーコンプレッサの中には水潤滑式という種類も含まれます。圧縮室内に潤滑油を使用していないという意味ではオイルフリー式に分類されますが、油の代わりに水にシール性と冷却効果を求めるものです。

コンプレッサは大気を吸い込む際に空気中のホコリや雑菌類も一緒に吸い込みます。設置環境によって周囲の汚れも吸い込みます。油の代わりに水を入れたとしても、圧縮空気とドレンに油分が含まれないだけで、とても衛生的とは言えません。

オイルフリー式は、環境対策とコストの両面でメリットがあります。ドレンに油分が含まれないので水質汚濁防止法に抵触する可能性を減らせます。油と水分を分離するドレン処理と産廃処理のコストも削減できます。また、フィルターでのろ過は必要ですが、食品・薬品製造を含む業界が求める衛生管理の強化というニーズにも合致します。

かつては価格面で給油式コンプレッサの採用が大部分でしたが、現在ではオイルフリーコンプレッサが一定のシェアを占めています12)。この背景にあるのが、まさに環境問題への意識の高まりだといえるでしょう。

(参考文献)

1) 自動車整備業界の地球温暖化防止推進マニュアル:
 http://www.mlit.go.jp/common/000051063.pdf

2)『図解はじめての空気圧 改訂版』はじめての空気圧編集委員会 著、塩田泰仁 監修

3)スクリュー圧縮機の技術とその応用 西村喜之著
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/tsj1973/17/9/17_9_563/_pdf

4) 排水設備とは(東京都下水道局
 https://www.gesui.metro.tokyo.lg.jp/living/jigyousya/haisui/index.html

5)「ドレン処理、クリーンエアシステムの最新動向」(『油空圧技術』2006年4月号)

6)「環境に配慮した新型油水分離機」

7) 同上

8)「水環境保全の実態と今後の課題」(『香川大学 経済政策研究』Vol.2, p.168)
 https://www.ec.kagawa-u.ac.jp/~tetsuta/jeps/no2/okamoto.pdf

 「環境地質から見た水質汚濁防止法の問題点」
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosocabst/2013/0/2013_278/_pdf/-char/ja

9)「世界初から20年 オイルフリースクロールコンプレッサ開発の歴史」

10)同上

11)「コンプレッサのい・ろ・は⑤(基礎から応用)」

12)「世界初から20年 オイルフリースクロールコンプレッサ開発の歴史」