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静電気のはなし② ~製造現場でとれる対策~2022年11月04日

対策は組み合わせることが大切です。

前回の記事では静電気が発生するメカニズムと、製造現場で起こす問題についてお話ししました。静電気は製造現場においてさまざまな影響を及ぼします。帯電したチリやホコリが製品に付着すれば食品の異物混入や塗装工程の不良発生原因になりますし、製品や設備が帯電してしまうと部品詰まりなどが発生します。

静電気による放電も大きな問題です。精密な部品は微細な放電でも破壊されてしまいますし、場合によっては転倒や引火爆発などの事故につながる可能性もあります。

シリーズ2回目の今回は、これらの静電気が引き起こす問題に対して、製造現場でとれる対策についてご紹介します。静電気に対してとれる対策は複数あり、それぞれの現場に合うものを組み合わせると効果的です。

対策1 温度と湿度の管理

静電気を防ぐための対策の一つ目は温度と湿度の管理です。エアコンや加湿器などを設置して工場内の温度と湿度を適正な水準に保ちます。

乾燥していると静電気が発生しやすくなります。水は電気を通しやすいため、物質周囲の湿度が高ければ帯電していた静電気は物質表面の水分子を通して自然に放電されますが、空気が乾燥していると放電がされず、帯電する量が増えてしまうのです。

温度管理も必要な理由

なぜ湿度だけでなく温度も管理する必要があるかと言うと、同じ湿度でも温度が違えば空気中の水蒸気の量が違ってくるからです。

ある温度で空気が含むことのできる水蒸気の上限の量を飽和水蒸気量と言い、この値は気温が高くなるほど大きくなります。気温10℃の空気と20℃の空気では、含むことのできる水蒸気の量が違います。そして湿度は、その気温においての飽和水蒸気量に対して、現在含まれている水蒸気量の割合で求められます。つまり10℃の空気と20℃の空気では、同じ湿度40%であっても空気中の水蒸気の量が違うのです。湿度100%の時の水蒸気量(飽和水蒸気量)が違うのですから当然ですね。

適切な湿度とは?

湿度を高くすれば静電気の発生を完全に防げるのかといえば、そうでもありません。たしかに湿度が高いほど静電気が発生しにくいのですが、発生を完全に防ぐことはできません。また湿度が高すぎると今度は結露や金属の錆などの弊害が発生する可能性がありますし、紙などの湿度に敏感な製品や精密機器は、やたら製造現場の湿度を上げることはできません。

工場の適切な温度・湿度は生産品目によって違ってきますが、食品工場など、冷凍品を扱ったり蒸気が発生したりする特殊な場所を除いては、事務所と同じ、温度18℃~28℃、湿度40%~60%の範囲を目指すのが一般的です。これは作業者の環境を良くする為でもあります。

対策2 アースを取る

静電気を防ぐための対策の二つ目は、アースを取ることです。アースとは、物質を地面と電気的につなぐことです。地球は電気的に安定した巨大な導体であり、物質を地球につなぐと電気の通り道ができ、たちまち帯電が解消されます。洗濯機などの水周りで使われる家電製品にはアース線が配線されていますが、あれは万一漏電してしまった時に電気を地球に逃がし、感電を防ぐために設置されています。

アースの方法としては家電製品のようにアース線を設置する方法が良く知られていますが、床を導電性の物質に変えたり、作業者の服や靴を電気の通しやすい材質に変えたりする事でも電気の通り道ができ、帯電が解消されます。

ただし、アースが有効なのは金属などの導体に対してのみです。ゴムやプラスチック、ガラスなどの絶縁体は電気が流れにくいため、アースで電気の通り道を作っても帯電が解消されません。

対策3 除電器を使う

温度湿度管理やアースを取る他に、製造現場では除電器を使った静電気の除去方法も広く採用されています。

除電器の原理は、空気を電離してプラスとマイナスのイオンを発生させ、帯電した物質にぶつけて物質の電荷を中和するというものです。イオンを発生させることからイオナイザーとも呼ばれます。帯電した物質を除電するためにはプラスイオンとマイナスイオンの双方をバランス良く発生させる必要があります。

除電器がイオンを発生させる方式にはいくつかあります。細かいご説明はメーカーのHP等を見ていただくとして、広く普及しているのは電極を使ってコロナ放電をおこすもの(コロナ放電式)と波長の短いエックス線を空気にぶつけるもの(軟X線照射式)です。また発生させたイオンを対象まで運ぶ方法も、ファンや圧縮空気を使って吹き付けるものや、限られた空間内を除電する性能のものなどさまざまです。

いずれの方法であっても除電器はその効果が目に見えませんので、空気中のイオン濃度などを測定して効果を確認する必要があります。また、定期的なメンテナンスも必要です。特に電極を使って放電するコロナ放電方式のものは、電極が汚れていたりすると発生するイオンのバランスが崩れてしまい、かえって静電気を発生させてしまう可能性もあります。

その他の対策

ここまで、温度湿度の管理、アース、除電器の使用などご紹介してきましたが、その他にもとれる対策はたくさんあります。ここに挙げるのはその一例です。

設備や製品を導電化する

静電気がたまりやすいのは絶縁体で、絶縁体はアースをとっても帯電が解消されないとお話ししました。この対策として、製品や設備に導電性を持たせ、帯電しにくくする手法があります。

例えば樹脂は代表的な絶縁体ですが、樹脂製品を取り扱う工場では原料の樹脂に帯電防止剤を練りこむなどの対策がとられています。樹脂のように直接練りこめない製品であっても、帯電防止塗料やコーティング剤を表面に塗布して静電気を起こしにくくすることができます。

ここで使われる帯電防止剤は金属粉やカーボンブラックなどの導電体の他、界面活性剤などの薬剤も普及しています。界面活性剤は製品表面の親水性を高めることで放電をうながし、静電気の発生を抑えることができます。

帯電列を参考に材質を変更する

前回の記事で帯電列をご紹介しました。帯電列はプラスに帯電しやすい物質とマイナスに帯電しやすい物質を一覧にした表で、帯電列の端と端の物質同士であるほど、静電気が発生しやすくなります。

帯電列を参考に工程のどこで静電気が発生しやすいかを予測し、可能であれば材質を変える事で静電気を起こしにくくできます。例えばウールの製品をポリエチレンで包装する工程で静電気が発生しているとして、包装材を紙に変えるなどの対策が考えられます。

帯電防止グッズを活用する

除電器などの高価な機器を使わなくとも、安価なグッズで静電気を予防できる場合があります。アースバンド、除電ブラシ、除電紐、帯電しにくい作業着などが市販されています。

複数の対策を組み合わせるのが効果的

例えば塗装は静電気の影響を受けやすい工程ですが、これまでご紹介した手法をいくつも組み合わせて対策がされています。詳しくは次回の記事でお話ししますが、作業場の床に導電性の塗料を塗り、作業者は導電性の作業着や靴を身に着けます。さらに塗装室の入り口には除電用ののれんを取り付けるなど、帯電した塵やホコリが製品に不着しないよう、細心の注意が払われています。

まとめ

いかがでしょうか。静電気の発生を防ぐにはいくつかの対策がありますが、残念ながら「こうすれば完全に予防できる」という万能の方法はありません。温度湿度の管理・アースなどの基本対策に加えて、除電器や帯電防止剤、除電グッズの使用を組み合わせて効果の検証をおこない、自社に合った対策を見つけるのがお勧めです。

次回は塗装と静電気についてお話しする予定です。