KAIZEN記事

工場の数字③ ~損益分岐点のグラフを使いこなそう~2022年10月7日

グラフから、その製品の強みが見えてきます。

第一回第二回と会社の利益や原価についてお話ししました。最終回の今回は、損益分岐点のグラフについてご説明します。

製造業のコストカットは固定費削減が基本と言われますが、実際にグラフを作ってみると更にイメージしやすくなります。また、変動費の側から見た指標である限界利益や、利益を増やすために出来ることについてもご説明します。

損益分岐点グラフの見方

あらためて、損益分岐点のグラフを見てみましょう。

グラフの下側、オレンジの線であらわした固定費はずっと横ばいで、売上高が増えても減っても変わりません。一方変動費の方は売上高が上がるにつれ上がっていきます。固定費と変動費を積み重ねた総費用が緑の線です。総費用が青の線の売上高と交わる点が損益分岐点で、ここが赤字と黒字の境目です。また、その時の売上高が損益分岐点売上高です。

横軸が数量ではなく金額になっているため直感的に理解しにくいのですが、売上高線の傾きが1であることを念頭に入れると理解しやすくなります。または、横軸は売上高=販売量であると考えても良いでしょう。

製造業で固定費の削減が大切な理由

損益分岐点のグラフをおさらいしたところで、製造業で特に固定費の削減が大切と言われる理由をグラフから考えてみましょう。

一般的に工場などの設備を抱えるメーカーは、製品を仕入れて売る商社や小売業の企業に比べると固定費が多くかかっています。例として、自社製造の製品Aと、仕入販売の製品Bについて考えてみましょう。

どちらの製品も1個1,000円で月に1万個売り上げていますが、自社で製造している商品Aの方が総費用が安く、利益を100万円多く得ています。2製品の損益分岐点グラフを作ってみましょう。

売上高1,000万円のときの利益は商品Aの方が多く得ていますが、商品Bと比べて損益分岐点が先の方、グラフの右側にあります。この状態で景気の悪化や不測の事態が起こり、売上高が3割減少して700万円になってしまったらどうなるでしょうか。

灰色の部分の売り上げが無くなったとします。2製品ともグラフの領域がぐっと狭まり、利益も小さくなります。商品Bはまだ利益が出ていますが、商品Aは売上高の直線が費用の直線に届かなくなり、赤字になってしまいました。

上記のように固定費が高いままだと周囲の状況が変化した場合に対応が難しくなることが分かります。

変動費から見た指標、限界利益

限界利益とは

固定費とセットで語られることの多い損益分岐点のグラフですが、変動費の側から見た時の指標が「限界利益」です。限界利益は固定費を無視して、売上高と変動費の差額を見ます。

損益分岐点のグラフで固定費の上に乗って総費用を示していた変動費直線を下に移動させて、原点に持ってきて変動費だけをあらわすようにします。売上高との差額が限界利益、角度(割合)が限界利益率です。

この指標から何が分かるかというと、その商品の稼ぐ力です。売上に対して相対的に変動費が低く抑えられていれば、今は赤字だとしても売上を上げるか固定費を下げるかすれば大きな利益を得られる可能性があります。

変動費が高い場合のデメリット

変動費の方も高くて良いわけではありません。先程の例では商品Bは売り上げが減っても赤字にはなりませんでしたが、逆に売り上げが増えても得られる利益はさほど増えません。例えば販売数量を1200個に増やしたグラフを作ってみます。売上高の範囲が広がっても、変動費の直線が高い角度で売上高の直線についてくるのが分かりますね。薄利多売というスタイルもありますが、売っても売っても儲からない商品を抱えているのはきついものです。

もともと限界利益率の低い、つまり変動費率が高い商品に、さらに固定費が増えると大変です。仕入れ商品の場合は製造設備の費用はかかりませんが、例えば業務支援ツールを導入したい場合や、顧客対応の為に在庫を持ちたい場合は固定費が増えることになります。黒字を保つためにはその分の人件費などを減らして固定費を抑えるか、費用を回収できるまで売上を上げなければなりませんが、限界利益率の低い商品だと固定費を回収するためには大幅に売上高を上げなければなりません。

これは商品Bに限ったことではなく、自社製造で限界利益率の低い製品があった場合にも同じことが言えます。

利益を増やすには

損益分岐点グラフから固定費と変動費それぞれを削減するメリットが分かってきました。固定費を低く抑えられれば状況の変化に対応しやすく、変動費を低く抑えられれば売れるほど儲かる商品を創り出すことができます。また、これらの費用は売り上げに対して「相対的に」低ければ良いことになります。詳しく見ていきましょう。

費用の削減手法

損益分岐点や限界利益を算出するには固定費と変動費を分けなければなりませんが、明確に分けるのは難しく、費用によって固定費と変動費に按分したり、固定費の割合が多ければ固定費としたりします。また業種によっても分け方は変わります。一般的に製造業では労務費と光熱費は固定費、材料費は変動費とされます。それぞれの削減手法を見てみましょう。

・固定費の削減例①:労務費
労務費の削減手法については一回目の記事で自動化や技術伝承による作業の平準化をご紹介しました。技術伝承を行なうことは、人材の多能工化と捉える事もできます。一人がさまざまな業務を処理できるようにする多能工化は、人材の育成に時間と費用を要しますが、作業の偏りや停滞のリスクを減らし、結果労務費の削減につながります。

・固定費の削減例②:光熱費
光熱費の削減について、例えばエア源は工場設備の中で普段はあまり意識されませんが、コンプレッサの消費電力は工場電力の2割から4割を占めていると言われます。エア漏れ対策や古い設備の更新、コンプレッサの配置や配管の工夫などで大きな効果を得られる可能性があります。一度見直してみてはいかがでしょうか。

・変動費の削減例:材料費
変動費の削減については絶対値ではなく、比率で考える必要があります。材料の無駄については普段から歩留まり・良品率などの比率で管理している場合が多いでしょう。良品率を上げたり、端材を再利用したりして無駄になる材料を減らす工夫は、変動費の削減効果が期待できます。

付加価値の向上

ここまで費用の削減についてお話ししてきましたが、費用を抑えると言っても限界があります。また、費用は絶対的なものではなく、売り上げに対して相対的なものです。多少費用が高めの商品があったとしても、回収できるだけの売り上げを上げれば良いことになります。この場合販売数量を増やすのではなく、販売単価を上げる必要があります。

損益分岐点グラフで見ると青色の売上高線は傾きが常に1のため、販売単価を上げても変化はありませんが、代わりに両方の費用が相対的に下がります。製品1個あたりの変動費率が下がるため変動費の直線の角度が低くなり、また同じ売上数量でも売上高が増えるため、グラフの領域が広がって相対的に固定費も下がり、その結果損益分岐点がぐっと手前にきます。少ない販売数量で黒字になるため状況の変化に対応しやすく、売上が増えた場合には大きな利益を上げられるようになるのです。

商品の価格戦略は企画部門や販売部門が決定しているとしても、工場もまた価格向上に大きな貢献が出来ます。それは製品の品質や納期を安定・向上させ、付加価値を高めることです。品質が高く供給も安定していて、安心して買える商品には、他の商品に比べて高い販売価格を付けることが出来ます。

QCDのQ(品質)とD(納期)を高めることは「顧客に迷惑をかけない」という守りの視点から語られることが多いですが、「付加価値を上げる」という攻めの効果も創出できます。

まとめ

以上3回にわたって工場の数字について見てきました。日々カイゼンに取り組むことには製造原価などの費用を抑えて製品の付加価値を高め、会社の利益に貢献できるほか、社会状況の変化にも強くなるなど、何重もの効果があります。

感覚的には分かっていても時には数字をチェックしてみると、現在位置を確認しやすく、取り組みに対するモチベーションも上がるのではないでしょうか。