KAIZEN記事
工場の数字① ~工場の人件費と営業の人件費は何が違う? ~2022年9月9日
工場のお金の流れについて知っておきませんか。
製品を製造して売り上げるまでには、仕入れの費用や製造の人件費など、さまざまな数字が登場します。普段経理の業務に関わっていない方でも、会社や工場のお金の流れを知っておくと、製造にかかるコストの全体を把握することができ、製品の企画や工程の見直しの際などに何かと役に立ちます。
本記事では工場に関わる数字である製造原価や利益、損益の分岐点などについて、シリーズで解説する予定です。一回目の今回は、私たちにとって身近で切実な数字、人件費と会社の利益についてお話しします。
工場と営業の人件費の違い
人件費とは?
人件費は人を雇用すると発生する費用のことで、給与や賞与、各種の手当、社会保険料などがこれに当たります。人件費は次の3つに区分され、同じ企業で働いていても、製造にかかわる人員の費用と営業や管理に関わる人員の費用では区分が異なります。
- ①労務費
- ②販売費
- ③一般管理費
労務費と販管費
①の労務費は、製品を生産する人員にかかった費用です。工場で目に見える製品を作る場合だけでなく、IT企業でソフトウェアなどを開発する場合も労務費に当たります。逆に工場勤務であっても製造にかかわらない人員の費用は労務費に当たりません。
これに対して、営業や販売部門の従業員にかかる費用は②の販売費に、管理部門の従業員にかかる費用は③の一般管理費に計上されます。たとえばパン屋を例にすると、「労務費」はパンの製造スタッフにかかる費用です。「販売費」は販売スタッフの費用、「一般管理費」は総務・経理担当のスタッフの費用に該当します。販売費と一般管理費はまとめて「販管費」と呼ばれます。
以上3つの区分をご説明しましたが、大きな違いは、労務費は製品の製造原価に区分され、売上原価に含まれることです。労務費は材料費と同様に製品を作るために消費されるものと捉えられています。一方で販売費や一般管理費は製造原価に含まれません。この区分は次にご説明する会社の利益の計算に関わってきます。
会社の5つの利益
決算発表などで耳にする機会も多いと思いますが、会社の利益は以下の5つに分類できます。
- 売上総利益(粗利)
- 営業利益
- 経常利益
- 税引き前当期純利益
- 当期純利益(最終利益)
利益とは売上から費用を差し引いた残額のことをいいますが、上記の5つの利益は、下に行くほど差し引かれる費用が多くなっていきます。
以下、順番にご説明します。
売上総利益(粗利:あらり)
売上総利益とは売上高から売上原価を差し引いた利益のことをいいます。先程少しご説明しましたが、労務費は売上原価に含まれるため、ここで最初に差し引かれます。売上総利益は下記の計算式によって算出します。
売上総利益=売上高-売上原価
営業利益
営業利益は、売上総利益から販売費および一般管理費を除いて算出できます。営業利益は本業での収益力を測る指標として機能し、営業利益の数値が大きいほど収益力のある優良企業であるといえます。
営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費
販売費は商品を売るため直接的に発生する費用のことであり、たとえば商品の送料や広告・宣伝費などがこれにあたります。営業や販売にかかる人件費はここに含まれます。一般管理費は賃料や水道光熱費、通信費といった企業全般の管理に必要な経費です。管理部門の人件費はここに含まれます。
販売費や一般管理費が売上総利益の額を超えると営業利益がマイナスになることがありますが、このようなマイナスの営業利益のことを営業損失といいます。
経常利益
経常利益とは、営業で得た利益に営業外の収益と費用を加味した利益です。「けいじょうりえき」と読みますが、「けいつね」という略称も良く耳にしますね。経常利益は、営業利益に営業外収益を加え、営業外費用を差し引いて計算します。
経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用
営業外収益には受取利息や有価証券売却益などがあり、営業外費用には支払利息や有価証券評価損などがあります。どちらも営業活動に直接関わるものではありません。
税引前当期純利益
税引前当期純利益とは、経常利益に特別利益を加えて特別損失を差し引いた利益のことであり、法人税等を差し引く前の利益を表します。
特別利益・特別損失とは、営業活動にも営業外活動にも該当しない、本業と関係なく一時的に発生する損益のことです。たとえば固定資産売却益は特別利益に、火災などによる損失は特別損失にそれぞれ該当します。
税引前当期純利益=経常利益+特別利益-特別損失
当期純利益(最終利益)
当期純利益は、法人税等の税金を支払った後の、企業の手元に残る純粋な企業活動の利益です。
当期純利益=税引前当期純利益-法人税、住民税及び事業税±法人税等調整額
この当期純利益は法人税等調整額によって変動する為、企業の純粋な収益力を示すものではありません。けれども当期純利益が大きいということは会社が保有するお金が多いということで、投資をする際にも有力な指標になります。
企業が持っているお金が多くなれば従業員の賃金や株主への配当、設備投資に回す余力ができ、経済全体も潤うことになります。しかしながら近年は不況が続いていたため、雇用者への分配や設備投資は停滞し、企業が万一に備えてお金を貯めこむ傾向が強くなっています。その反面で株主への還元である配当金比率は上昇しています。株式市場から日本経済が活発化してゆくことを期待したいものです。(1
労務費の最適化
ここまで、人件費の区分と会社の利益について解説してきました。会社が世の中に存在する目的はさまざまですが、継続して事業を行っていくためには利益を出し続ける必要があります。赤字だからリストラする、賃金をカットするといったニュースは良く耳にされるでしょう。最後に、人件費と利益の関係、特に製造業における労務費の最適化について考えてみましょう。
人件費は固定費
利益は売上高から費用を差し引いて求められることは前述しました。費用には、売上高や生産量によって変化する変動費と、生産量・売上に関わらず発生する固定費があります。変動費の主なものは原材料費や加工費、販売手数料などです。固定費は家賃や設備の減価償却費など、そして人件費です。
利益が上がらないからと言って無理をして材料費を削っても、人件費のような固定費は変わらず発生し続けます。削れば影響が大きいにも関わらず、人件費がやり玉に挙げられることが多いのはこうした理由からです。
工数を減らすということ
人件費を削減するためにリストラや賃金カットを強行すれば、従業員のモチベーションの低下を招いてしまいます。そのため製造業では、製品ごとの工数を管理して生産性の向上を目指し、最適化をはかる方法も広くおこなわれています。工数は(作業時間×作業人数)の式で導くことが出来ます。1人が1日働く作業量の場合は人工(にんく)とも呼ばれます。
製品を作るために必要な直接労務費は工数に1時間当たりの賃金(賃率)をかけて算出します。例えば1個の製品を作るのに作業員1人が1時間かかっていたとして、その作業員の時給が2,000円であれば、製品1個にかかる直接労務費は2,000円になります。(直接労務費という用語については次回の記事で解説いたします。)
作業員の時給を下げずに労務費を下げるにはどうすれば良いかというと、生産性を上げて(工数を減らして)、1時間に2個作れるようにすることです。そうすれば製品1個にかかる直接労務費は半分の1,000円になりますね。生産性を上げる方法として、例えば、
- 技術伝承を行うことで作業の属人化を防ぐ。同じ作業が出来る人員が複数いれば、作業者の休業による生産の機会損失を減らして効率化を図ることができる。
- 新たに生産設備を導入して自動化し、労務費を下げる。作業者は機械より付加価値の高い作業に従事することで、効率を上げる。
という方法が当てはまります。作業者は機械にできないクリエイティブな仕事に従事することで、さらに生産性を高めることが可能です。このように工数を最適化して製造原価を下げることが出来れば、企業にとってもっとも基本的な利益である、売上総利益を増やすことにつながります。
まとめ
以上、人件費と会社の利益についてご紹介しました。決算発表などで耳にする機会はあるものの、会社の数字はとっつきにくいと感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。自分の給料がどこに含まれているのか? この費用は決算書のどこに入っているのか? 前期と比べて自社の利益はどう変化したのか? などと、身近な数字とつなげてみると良いかも知れません。
次回は製造原価の算出方法について解説する予定です。