KAIZEN記事

工場の数字② ~原価低減と在庫の管理 ~2022年9月22日

日々のカイゼンは原価の低減につながります。

前回の記事では人件費と会社の利益についてお話ししました。2回目の今回は原価や在庫の管理についてご説明します。

工場には原価低減や適切な在庫管理が求められます。生産技術や製造部門が出来る原価低減にはどんなものがあるか、原価と在庫にはどのような関係があるのかを見ていきましょう。

原価の種類と内訳

製造原価とは

原価としてよく聞く言葉に、売上原価と製造原価があります。売上原価は前回の記事にも出てきましたが、販売活動を行なう企業すべてが使う数字です。製造原価は製品の製造にかかる費用で、製造原価を計算したあと、その製品が売れていれば売上原価になり、在庫として残っていれば会社の資産になります。

製造原価には、あらかじめ計算しておく標準原価と、実際にかかった費用を集計する実際原価があります。企業によって異なりますが、一般的に工場では標準原価を目標に生産計画を組み、標準原価と実際原価を比較して原価低減の成果をチェックします。また標準原価は工場の利益をのせて社内仕切価格を設定するのにも使われます。

標準原価でも実際原価でも、製造原価は下記のような費用を集計して算出されます。原価の内訳には用語がたくさん出てきますが、原価低減を考えるには必要になりますので、軽く頭に入れておきましょう。

材料費

材料費は商品を製造するための材料や燃料にかかる費用で、材料そのものの費用だけでなく、運賃など材料の仕入れにかかる費用も含まれます。直接材料費は製品の製造に直接使った材料ですが、ここで言う「直接」とは、どの製品に使ったか区別できることと考えると分かりやすいでしょう。家具を作る場合は木材などが直接材料費ですが、製造機器の潤滑油などは間接材料費です。

労務費

労務費は前回の記事でご説明いたしましたが、製品の製造に関わった従業員への給与・賃金などの費用のことです。材料費と同様に、どの製品の製造にかかったか区別できる費用は直接労務費、区別できない費用は間接労務費です。間接労務費の例としては、複数の製品を製造している工場で、設備の保守に関わる人員の費用などがこれに当たります。

経費

経費は材料費にも労務費にも分類できないもので、たとえば外注費や減価償却費、工場や倉庫の賃料・光熱費が経費にあたります。直接経費は特定の製品の加工を外注した場合の費用など、間接経費は多種の部品を保管している倉庫の費用などです。

生技や製造でできる原価低減

以上製造原価の内訳をみてきました。ここからは、工場の現場でできる原価低減についてお話しします。まず原価の計算をする際には、前述の製造原価の内訳を直接材料費とそれ以外に分けます。直接材料費以外はまとめて加工費とされます。

製造や生技でできる直接材料費の低減

直接材料は製品設計の段階で何をどのくらい使うかが決まっており、工程の改善では大幅な低減は期待できません。それでも製造部門で歩留まりを上げることによって無駄になる材料を減らすことが出来ます。また、例えば塗装工程で使う塗料は直接材料です。塗着効率を改善して塗料使用量を減らせば直接材料費の低減になります。

カイゼンによる加工費の低減

「ムリ・ムダ」をなくす工程のカイゼンで大きな低減を期待できるのが加工費です。生産技術ではそれぞれの作業に何秒かかっているか、作業中に無駄な移動・運搬が発生していないかなどを細かくチェックしてカイゼンをはかりますが、作業にかかる時間や待機時間を短縮できればそのまま労務費(加工費)の低減につながります。

在庫の適切な管理

在庫を適切に保つことも原価低減に繋がります。材料や部品、仕掛品、売れていない完成品はすべて「在庫」です。在庫は多すぎても少なすぎても無駄な費用を発生させます。在庫については次で詳しく解説いたします。

「在庫は悪」と安全在庫

「在庫は悪」と言われる理由

在庫は会計上では棚卸資産になります。資産は会社の財産であり、多くとも良いように聞こえますが、在庫は会社がお金をかけて作ったにも関わらず、利益を産んでいない資産です。在庫は現金や不動産のように運用して利益を産むことはできませんし、保有設備のように稼働して事業に貢献できるわけでもありません。

会社は債権者や株主からお金を借りて事業を営んでいるのであり、在庫を作るために借りたお金には利子や株主利益などの見返りが必要です。無借金で作った在庫だとしても、在庫を作った分現金が減っているはずで、運用できる資産を減らしていることになります。会社は赤字でもすぐに倒産することはありませんが、黒字でも手元に現金が無ければ支払いが出来ず、たちまち倒産してしまいます。現金や預金をあまり持っていない会社は「キャッシュフローが悪い」と言われ、信用がおけないので株主や債権者から資金を調達しづらくなります。

また在庫の保管には費用がかかり、保管期間が長期に及べば劣化・陳腐化して使えなくなる可能性もあります。「在庫は悪」と言われるのはこのような理由です。

安全在庫を持たないリスク

とは言え、在庫を持っていないと部品一つ足りないだけで工場全体が停止したり、少し受注量が増えただけで納品まで長期間かかったりしかねません。在庫を極限まで削減する方式は、徹底的な平準化と合理化を実践している一部の企業でしか機能していないのが実際のところです。

近年はSNSの発達により、「お取り寄せ」に時間のかかる商品もあります。待っても欲しいと考える消費者のいる商品とそれ以外の商品では大きく異なります。通常は在庫が無い、あるいは納期の確約が出来ないと受注できない、いわゆる機会損失が発生し、売上高は減少します。また材料の欠品等のトラブルの際に工員の手待ち時間が発生すれば人件費の無駄になり、使えなくなった他の材料の無駄、設備の維持費の無駄も発生します。これらの無駄はすべて原価の上昇を招き、売上高の減少とともに利益を圧迫します。

このようなリスクを回避するための、欠品を起こさない最低限の在庫が安全在庫で、製造のリードタイムから算出します。安全在庫は最低限の数字ですので、持つべき在庫(適正在庫)は安全在庫とは別に企業それぞれが設定し、過剰な在庫を持たないように管理します。

原価低減につながる在庫の管理

在庫の削減手法

過剰な在庫を持たないための在庫削減にはさまざまな方法がありますが、ここでは以下の3つの方法についてご紹介します。

  • 部品を共通化する
  • 初期工程で在庫を確保する
  • 工程をシンプルにしてリードタイムを短縮する

・部品を共通化する
部品や材料を共通化すれば多種類の在庫を管理する手間が無くなるだけでなく、安全在庫の設定も下げることができます。また部品に関わる図面や評価の手順、金型や治工具類も削減でき、材料購入の際にもスケールメリットを大きくすることができます。部品や材料は設計段階で決められることですが、工場から設計部門に改善を提案し協力を求める事ができれば、大きな効果を得られます。

・初期工程で在庫を確保する
在庫をできる限り原料に近いかたちで持っておくことにより、在庫量を減らすことができます。これは設計の協力なしに出来る共通化とも言えます。たとえばホースやケーブルといった材料をすべて長さ別に揃えるよりも、ロール状態で買ってそのまま保管しておき、必要になったらその都度カットして使用すれば、在庫は1ロールで済みます。

・工程をシンプルにしてリードタイムを短縮する
作業をシンプル化して工程を減らせば在庫が減り、製造リードタイムも短くなります。たとえばある製品の製造リードタイムが20日間であれば、在庫は最低でも20日分工場内にあることになります。安全在庫はリードタイムから計算するため、これもまた安全在庫の削減につながります。

在庫を抱えるメリットと戦略的在庫

在庫を抱えることによるメリットは、前述のように欠品のリスクを回避する他にもあります。仕入れの際の購入単位を大きくすればスケールメリットによって単価を下げられますし、適正な在庫を持っていることはBCPの観点からも大切です。

近年は大規模災害や新型コロナウイルスの流行など、不測の事態の発生が続き、BCP対応は注目されています。地震やパンデミックによるロックアウトで物流が止まった際、調達先や保管先を一つに絞っていると復旧まで長期間を要することがあります。在庫削減を目的とした工程の集約とリスク分散はバランスを取って考える必要があります。

その他、あえて在庫を多くもつ戦略的在庫という言葉を耳にすることがあります。工程の改善とは少し離れた話になりますが、例えば大口の顧客や納期に厳しい顧客に対しては在庫を多く持っておくなどです。顧客の近くに大量の在庫を確保しておくことで配達までの期間を短縮し、大きな付加価値を生み出すことに成功している世界的企業もあります。

まとめ

以上、原価の低減と在庫についてみてきました。日々の改善は納期の短縮や品質の向上だけでなく、原価の低減にもつながります。QCDのなかで一番後回しにされやすいC(コスト)ですが、会社の経営にも直接かかわる数字です。

次回は実際に利益が出ているのかを判断する指標になる、損益分岐点についてお話しする予定です。